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連続小説:部下を持つ 22

その後の議論では、次の5点を要素に、第1回目の内定者フォローグループワークが決定された。
①     バーチャルではなく現実の課題を解決すること(そのほうが迫力が出る)
②     机上のワークだけではなく、ワークで話し合った解決策を検証する機会を設けること
③     ワークから検証まで、1日で結果が出ること
④     考えさせることが重要なので、どこかに答えがあるようなテーマではないこと
⑤     社外に出かけていく場合には、安全を配慮し人事部社員がフォローできること
要素は決まった。あとは、具体的に何をやるかだ。それをこのチームは自らの手で産み出さなければならない。
山田の合図で、メンバーは意見を出し始めた。議論の開始直後、メンバーは、各々が過去に見たり聞いたり経験したグループワークを語り始めた。この手の議論のように、0→1の議論、つまり今回のケースで言えば立川産業独自のグループワークを産み出そうするときは注意が必要である。人は、先の見えない状況では、往々にして自らの経験に帰る。今回で言えば、人事部社員は、各々の過去の経験を紐解き、少しでも風変わりなグループワークを皆に披露しようとした。これの何が危険なのか。多くのケースで人は、目的を忘れ手段に走るのだ。今回も、人事部のメンバーは手段に走った。しかも、会議室のホワイトボードには、上記の①~⑤が書かれたばかりであるにもかかわらず、だ。出された意見は、マシュマロに竹ひごを刺したものを高く積み上げていくチームビルディングゲームや、いわゆるビールゲーム、will can mustなど、①~⑤の全てを包含しているとはとても言い難いものばかりだった。
見かねた山田が口を挟み、皆の思考を軌道修正したのは、意見出しが始まってから10分程度たったころだった。
「ちょっといいかな、せっかく出してくれた意見だけど、どれもこれも、さっき書いた①~⑤は無視されているものばかりだな」
「そうでした・・・」
山田の発言に、このままでは①~⑤とは別物のグループワークになりかねない、そのことに全員が気づいた。越智の掛け声で、立川産業の現実の課題を出して行くことから再スタートした。課題といっても経営的な観点ではなく、日常的に社員が感じている総務的な課題のほうが内定者にもわかりやすいだろうという越智の意見に、伊丹は「うんうん」と強くうなずいた。
つづく・・

いつもお読みいただきありがとうございます。
新卒採用チームの迷走ぶりを披露するのは恥ずかしい限りですが、現場では一生懸命に考えているようで、ついつい脱線してしまう様子をお伝えしたつもりです。次回もお楽しみに。


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