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弘前つがるこぎんの旅|誕生日には、好きな街で、好きなことを。

おととい神戸から弾丸で青森・弘前に行って、きのう帰ってきました。

青森上空 山にはうっすらと雪が(11/27)

14時20分に青森に到着して、翌日の14時に青森を出発する弾丸旅。青森滞在時間はわずか23時間40分。それでも行こうと思ったのにはわけがありました。


青森での出会い

わたしは神戸でウェディングドレスをつくる仕事をしています。

「フジドリームエアラインズ(FDA)青森ー神戸便の利便性を活かした青森・神戸のビジネス交流会」という事業で青森県にご招待いただき、9月に青森に行ってきました。

そのとき、青森県の事業者さまとのビジネス交流会でとなりに座った弘前市の女性経営者さんがなんと、「わたし、こぎんのドレスをつくりたいと思っているんです。ドレスをつくれる方を探していました」とおっしゃったのです。これって運命?

「こぎん」とは

こぎん刺しとは、青森県津軽地方の農村女性の間で受け継がれてきた「刺し子」のことです。

 小作こぎん ゆめみるこぎん館にて2022年撮影

 こぎん刺しは、青森県津軽地方の農村女性の間で受け継がれた刺し子である。
 江戸時代、木綿の着用が禁じられた津軽の農民は自家栽培の麻から大変な手間をかけて布を織り上げ、着物にした。少しでも長く持たせ、冬の寒さから身を守るために、布の織り目を麻糸で塞ぐ刺し子が始まる。運針が細かいほど布は丈夫になり、保温性は高まり、やがて規則性はうまれ菱形模様が特徴のこぎん刺しへと大きく花開いた。

鈴木真枝 石田舞子 小畑智恵「そらとぶこぎん創刊号」平成29年、津軽書房
降り積もる雪のように

日本全国の布や糸にまつわる「いとへんの旅」をしているわたしは、この「こぎん」に強く惹かれ、昨年(2022年11月)、プライベートで「こぎん」をめぐる旅をしていたのでした。

そのときわたしはぼんやりと、「いつかこぎんのドレスをつくれたらいいなあ」と妄想していました。

弾丸で青森に向かったわけ

だから、今年9月のビジネス交流会でとなりに座った女性(A.selectの佐藤さん)に、「わたし、こぎんのドレスがつくりたいんです」と言われて、びっくりしてしまったのです。

「え、わたしもこぎんのドレスをつくってみたかったんです。でもこぎんが刺せないから無理かなと思ってて」

「じゃあいっしょにつくりましょう!!!」

ということになり、トントン拍子にプロジェクトが進行することとなりました。

弘前市のショップ「A.select」さんの「Kogin de Jewel®︎」

その後、佐藤さんが神戸にも来てくださって打ち合わせをし、メッセージでやりとりをしながらドレス制作に向けて準備を進めてきました。

しかし、デザインや構想を練るうえでネックになってくるのが肝心の「こぎん」の部分です。わたしには「こぎん」の知識が圧倒的に不足しています。じっさいにわたしがこぎんを刺したことも数回しかありません。もちろん、こぎんを刺してくださるのは熟練の刺し手さんですから「お任せ」も可能です。

わたしはデザインと準備だけをして、じゃあ、あとはここに「こぎん」を刺してください。と、お願いすることもできます。でもそれだと、なんか違うんじゃないかな、と思ったんです。

デザインして、あとは丸投げ。それでわたしが「こぎんのドレスの制作に関わった」と言えるかな、って。

せっかくこんなご縁があったのだから、もっと「こぎん」を深く理解したい。がっつり「こぎん」に関わりたい。なんならこっそり自主練してじぶんでも刺してみたい。(裏のほうに)

そう思って、弾丸で弘前に行くことにしたのです。

恋しいあの街へもういちど(2022年11月)

誕生日には大好きな街へ

奇しくも、11月はわたしの誕生月。フジドリームエアラインズ(FDA)には「バースデー割」という素敵な割引特典があります。

これを利用しない手はありません。

機内でいただきました

バースデー割を利用して、ぴゅーんと神戸空港から青森空港まで。

ああ、恋しい岩木山が見えてきました。前日に降った雪のためにうっすら雪化粧です。寒そうだけど、雪景色に胸がときめきます。

青森上空

14:10 青森空港到着

到着したところに、「おかえり」「よぐきたねし」という看板がありました。

不思議なことに、「おかえり」のほうに心が反応しているじぶんがいました。

「ただいま」

15:10 藤田記念館「大正浪漫喫茶室」へ

時間短縮のため、空港にはA.selectの佐藤さんが車で迎えに来てくださっていました。さっそく、弘前市内に向かいます。

車窓からは、岩木山が見えてきました。山頂は雲に隠れていましたが、山肌にはうっすらと雪がかかっていました。また会えたね。うれしい。

弘前に到着しました。ああ、こんなにも早く、弘前にまた来れるなんて! 感激!

弘前城の周りにはまだ少し紅葉が残っていました。

まずは「大正浪漫喫茶室」で打ち合わせ。というか、打ち合わせという名の、ようはお茶ですよね。

藤田記念庭園内にあるとんがり屋根の洋館にある喫茶室です。

なんでしょう、このかわいいおうちは。ここはおとぎの国なの?

かわいらしすぎてワクワクします。

やっぱりおとぎの国にちがいない。子どもの頃に憧れた、絵本の物語のなかのクリスマス。

紅葉でお部屋までほんのり紅い。

テラス席で庭園を見ながら、アップルパイとコーヒーをいただきました。

アップルパイとドリンクのセット ¥990

カップも素敵。

 アップルパイは数種類のなかから選べます。わたしは「津軽ゆめりんごファーム」のアップルパイにしました。ナイフを入れたとたんにバターがふわっと香り、パイがサックサクでごろっとしたりんごにぴったり。ペロリと食べてしまいました。

えっと、たぶん打ち合わせもしました。(してないな)

大正浪漫喫茶室
住所:弘前市上白銀町8-1    電話:0172-37-5690
営業時間:9:30~16:30(さくらまつり期間中は時間延長あり)
休業日:年中無休

弘前は洋館がまるごと残っている街なのです。前回来た時は、藤田記念庭園には来れなかったので今回来れてうれしい。

15:40 前川國男建築の弘前市民会館へ

藤田記念庭園のすぐ近くにあるのが前川國男建築の「弘前市民会館」です。前川國男とは、日本の近代モダニズム建築をリードした建築家です。

前川國男(1905-1986)
日本の近代モダニズム建築をリードした建築家。ル・コルビュジエのもとで学んだことでも知られている。代表的な建築物は、東京都美術館、弘前市立博物館、福岡市美術館、熊本県立美術館など。

「前回来たとき、弘前市民会館のなかには入れなかったんですよ。催し物をしてたみたいで人が多くて」

佐藤さんにそういうと、

「時間があるのでちょっと見ましょうか」とのこと。

こちらが前川國男建築の「弘前市民会館」です。

な〜んだ、ふつうのビルじゃん。って思うじゃないですか。それが前川國男マジックなんですよ。

だって、なかに入ったら、これですよ。

いやこの外観からのこの内装は想像できないでしょ。

外観
内装

前川國男の建築はそこが面白いなあと思います。だから毎回、ハッとします。それが楽しいの。この建物にもいたるところに前川ブシが炸裂してます。

ピロティのソファーとか、階段の意匠とか、中二階の手すりのデザインとか、無数のランタンが浮いているような天井とか。

そして特筆すべきはこちらの喫茶スペース。なんなのこの浮遊感。うっとり。

次はこの喫茶室でお茶したいな。(もちろんまた来るつもり)

天井の照明が窓ガラスに映って、ホアホアと光が浮かんでいるみたいに見えました。ほんとうにおとぎ話みたいな街です。

弘前市民会館

16:00 「しまや」さんでこぎん体験と学び

さあ、今日のメインイベントです。

A.selectさんがこぎんの材料を仕入れておられる手芸店の「しまや」さんで、こぎんの体験と、こぎんの歴史を学びます。

「しまや」さん

ずらりとこぎんの材料が並んでいます。全国のこぎんファンが訪れる「こぎん」の聖地です。

こぎんの色見本と糸がかわいくて、わくわくします。でもまずは、ワークショップです。4種類のモドコからひとつを選んで、ヘアゴムを作ります。

まず生地の色と糸の色を選びます。

わたしはベーシックな紺地に白、もしくは生成りに白がよかったのだけど、初心者は生地の色がうすくて、糸もはっきりした色の方がいいというアドバイスもあって、素直にうすいグレーの生地と、はっきりした黄色の糸にしました。

次に4種類の見本のなかからひとつ「モドコ」を選びます。モドコとはこぎんの模様の元となるもの。それぞれに意味があります。

わたしは「カチャラズ」にしました。「カチャラズ」の意味はあとで説明しますね。

まず、真ん中にしるしつけます。そこから上に10目数えたところから刺し始めます。

柄が見えてくると楽しくなります

図案を見ながら刺します。目を数えるのではなく、形の流れをみる、というやり方を教えてもらいました。

できました!

あまりのうれしさに笑顔がこぼれます。いっしょに参加されていたA.selectのお客さまに「すごくうれしそう!」と言われました。わたしそんなにうれしそうでした?

真剣です

わたしの選んだ「カチャラズ」。カチャは裏返しのこと。つまり「カチャラズ」は「裏にあらず」という意味なのだそうです。

だから、裏側も模様(モドコ)になっているのです。

X出てきた!
カチャラズ
ボタンにしてもらいました

出来上がったモドコは、ヘアゴムにしてくださいました。うれしい。じぶんが刺したものはかわいいですね。大切にします!

ワークショップのあとで、こぎんの歴史について学びました。すごく勉強になりました。この学びは、わたしたちがつくろうと思っていたこぎんのドレスにもちゃんと活かすことができました。来てよかった!

このワークショップはなんと¥550だそうです。じゃらんから予約可能です。「しまや」の奥さんが優しくていねいに教えてくださいます。たのしいですよ!

そして最後にお楽しみの材料選び。

カラフルな糸にわくわくしますが、わたしは「白一択」です。刺すのがむずかしいのはわかっているけれど、白いものをつくるのがわたしの宿命なので(おおげさ)しかたがないですね。

それと「しまや」の奥さんに初心者にいちばんわかりやすい本を教えもらって、それも購入しました。

しまや
営業時間:9:00-18:30
休業日:毎週日曜日
住所:青森県弘前市百石町13-1

18:40 A.selectさんのショップへ

ホテルにチェックインしたあと、A.selectさんへ。A.selectさんはお洋服のセレクトショップです。こぎんをラメ糸を使って刺したオリジナルの「Kogin de Jewel®︎」というシリーズを展開されています。

Kogin de Jewel®︎

縁起の良い「さや形」というモドコです。

津軽藍で染めたお財布

19:00 「御料理 なる海」で夕食

夕食は佐藤さんオススメの「御料理 なる海」で。江戸時代の蔵を改装したお店で創作懐石料理がかなりリーズナブルなお値段でいただけます。めちゃくちゃおすすめです。

どれも美味しかったのですが、とくに衝撃を受けたのが、この「菊花雑炊」

目にも美しい、菊の花の雑炊です。クセがあるのかと思いきや、お出汁が効いていて、梅肉と山葵でさっぱりしていて、そこに菊の花のふわっとした香りが漂います。花びらを噛みしめると、しゃきしゃきでもない、しんなりでもない特別な食感。花びらを食べるのって、どことなくいけないことをしているような気分です。子どもの頃のおままごとのような、優美な罪悪感があってうっとり。でもちゃんとお料理として美味しくて、ほんとうに感動しました。

弘前では、菊花は「食材」として一般的なのだとか。佐藤さんも、親戚にどっさりもらうのでよく食べているそうです。どっさりってそんな、菊の花を野菜みたいに…。

20:55 まわりみち文庫へダッシュ

お食事がおわってホテルに戻ると、20:55。ホテルのすぐ近くに前回の旅でも立ち寄った「まわりみち文庫」があることを知り、グーグルマップをみたらそこから徒歩4分。営業は21:00まで。ダッシュで駆け込みました。ギリギリですみません!

恐縮しながらもしっかり本を見させてもらって「そらとぶこぎん」の創刊号と、青森の郷土史の本を買いました。

「郷土史にご興味があるんですか?」と聞かれて、いま調べていることを説明したら、それに関する書籍はなかったけれど、いくつかの有力な情報を教えていただきました。今回の旅では行けないけれど、次は行ってみよう。どうしましょう。また来ないといけないですよね、これは。ふふふ。

閉店ギリギリだったのに、ていねいに対応していただいて、ありがとうございました!

まわりみち文庫
営業時間 13:00~21:00
定休日  木曜日
住所 〒036-8193 青森県弘前市新鍛冶町9-5

滞在2日目 

11月28日、滞在2日目の朝です。

じつはこの日が、わたしの誕生日当日でした。来るのはお店とか銀行とかからのビジネスお祝いメールばかり。家族からメッセージがあるわけもなく、親にいたっては忘れていたそうで。 個人のSNSにはありがたいことにいくつかメッセージが来ていたようだけど、数年前にSNSから距離を置きたくてアプリを削除してしまっているので、スマホはずっと静かなまま。まあ、そんなものでしょう。じぶんからそういう感じにしていったっていうのもあるし。

それよりも仕事です。むしろ今日が本番。こぎんの指し手さんとの大事な打ち合わせがあるのです。

8:50 スターバックス弘前公園前店(旧第八師団長官舎)

旧第八師団長官舎のスターバックス。この場所を指定したのは、じつはわたし。前回の旅でバスから眺めていて、素敵な建物だなあと思っていたのです。

ここは、国の登録文化財の中のスターバックスです。旧第八師団長官舎だそうです。ゴールデンカムイに登場するのが「第七師団」なので、ゴールデンカムイ好きのわたしとしてはちょっとハッとしてしまいました。なんの関係もないんですけどね。

このスターバックスに、「こぎんの席」があるのです。

この「こぎんの席」で、佐藤さんと、こぎんの刺し手さんと、こぎんのドレスの打ち合わせをしました。やっぱりじっさいに会って話すと、新しいアイデアがどんどん湧いてくるし、話がはやいはやい。それに楽しい。

「会う」って大事だなと思いました。

今回の旅は、じぶんへのバースデープレゼントです。いっけん無駄なようにみえて、こういうのはぜったいに無駄ではないと思うのです。動くと必ず、次に繋がるのです。

少しの時間でしたが、なにか大きな歯車のようなものがガチッと噛み合って、ゆっくりと動き始めたのを感じました。やっぱり来てよかった。

こぎんの席で、こぎんの話をする。夢のような時間でした。

11:00 弘前観光館

弘前観光館で映画「バカ塗りの娘」の題材にもなった津軽塗りの展示を見ました。外はしっかり雨。

11:30 弘前バスターミナル

佐藤さんに弘前バスターミナルまで送ってもらい、ここでお別れになりました。2日間、ありがとうございました! ああ来てよかった!

12:15 青森空港行きバスへ

バスに乗り込んで青森空港へ。途中の岩木山もきれいでした。移動中のバスだからうまく撮れなかったけど、岩木山はいつ見ても美しいのです。

誕生日は大好きな街で


大好きな街で大好きな仕事をして、最高の誕生日を過ごしました。わたしにとってはそれがいちばんしあわせなんだと思います。

ありがとう。

また来るね。


最後までお読みいただいて、ありがとうございました。




だれにたのまれたわけでもないのに、日本各地の布をめぐる研究の旅をしています。 いただいたサポートは、旅先のごはんやおやつ代にしてエッセイに書きます!