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どこ見て仕事してるかは直ぐにバレる

研究開発をしていて、ガツーンっとダメージを受けたことが何度がある。今回は、そんなお話。

10年くらい前に大学で車椅子ロボットの研究をしていた頃。かなり重度の麻痺をもった子供でも自分の意思で動けるようにする車椅子というものを作っていたのです。

仕組みはシンプルで、麻痺していると言えども、身体の中でちょっとだけ動くパーツが残っているので、その動きをセンシングして、そのセンサ情報から「右に行きたい」「まっすぐ行きたい」「左に曲がりたい」などの意図を抽出し、その意図に基づいて電動車いすが動くように制御される、というものです。今で言うところの「人工知能(AI)」を使って、意図しない震えとかが混ざった動作から、意図する動作だけを抜き出して、どっちに行きたいのかを予想する技術の開発が肝でした。

論文Link】安藤健他,重度脳性まひ児の残存機能を利用した人・機械相互学習型電動車いすの開発,日本ロボット学会誌, Vol.30, No.9, pp.51-58, 2012

しかし、まぁ、これが難しいんですよね。。。意図した動きよりも震えの動きの信号の方が大きくて、なかなか行きたい方向が正しく予測できない。。。

あっという間に2年ちょっとの月日が経ってしまいました。

そんなあるときに、とある人に言われました。


「君はあの子の成長を止めてしまっている。」


一瞬、何を言われているか、どういう意味なのか理解しきれなかったのですが、、、被験者になってくれた子供は自分の思うとおりが車椅子が動かせると思っていたのに、一向にそうはならない。本当なら車椅子を自在に動かして、行きたいところで沢山の経験をして、成長もできたのに、その機会を奪ってしまっているのは、君だ。

ガツーンっというよりは、ジワジワと深~いダメージを受けました。一生懸命頑張っているのに、なんでそこまで言われないといけないのか?と最初こそは思ったりしたものの、自分は子供の成長の機会を奪ってしまったんだろうか?考えれば考えるほど、なんとも言えない重い気持ちになりました。

何でこんなことになってしまったんだろなぁ。成長を止めているなんて考えたこともなかったなぁ。。。

しばらく、ドーーンとした気持ちが晴れず、どうしたら良いか分らなくなってしまった記憶があります。


あるとき、ふと思いました。

「なんで成長を止めているなんて考えたこともなかったんだ??」

もしかして、自分はまったく子供のことを考えたことがなかったのではないだろうか。

重度障害者向けの機器は、オーファン・プロダクツとも言われ、1人1人に向き合い、その特性などに応じて、カスタマイズを進めて行く必要があります。

そう、1人1人に向き合う必要があるのに、向き合ってる風なだけで、私は全く向き合っていなかったのです。なぜ自分の意思で動きたいのか、動けなくてどんな気持ちなのか、そんなことを全く考えていませんでした。

私が向き合っていたのは、信号です。少し動かすことができる部位から取得した加速度信号のデータに向き合っていただけでした。どのようにしたら、データからノイズを削除できるのか、AIの学習が上手く行くのか、そんなことしか考えていなかったように思います。


そこに気づいてからは、研究はなぜだか一気に進みました。

上手く行き始めた本当の理由はよくわかりません。

もしかしたら、ただ単に学習用データが一定数集まって、AIが上手く学習してくれただけかもしれません。一方で、私たち研究側の意識が変わり、どのようにしたら子供は楽しく実験に協力してくれるか、より自身の意思を強く表現できるようになるか、というように子供のことを考えながら、実験に臨むようになり、結果的に学習しやすいデータが集まったのかもしれない、とも思います。

はたまた、データではなく、子供本人に向き合うようになった我々に、ご褒美として良い実験結果を与えてくれたのかもしれないとさえ思います。

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いずれにせよ、実験を行っていた体育館で、初めて子供が思い通りに車椅子を操縦し始めたときの、子供の笑顔、ご両親の笑顔、そしてその場の幸せな空気感を忘れることはできません。

仕事をしていて、家に帰って泣いたのは、後にも先にもあの一日です。


「君はあの子の成長を止めてしまっている。」

なぜ、あの人に私にそんなことを言ったのだろうか。私の研究の仕方に違和感を覚えたんだろうなと思う。研究の矛先が、当事者である子供に全く向いていない。自分たちの研究のこと、論文のことしか考えていない。そんな雰囲気が出てしまっていたのではないかと。


これは会社で働き始めるとよくわかるようになった。

その人がどこを見て、仕事をしているのか?

立ち振る舞い、言動でスグにわかる。

その人が見ているのは、社会課題なのか、創りたい未来なのか、お客様のお困りごとなのか、技術的な成果なのか、自分の保身なのか、自分の会社なのか、上司の顔色なのか。

目の前にいるこの人は、私のことを考えてくれるのか、自分自身のことだけで考えているのか。


創りたい社会のことを考えることも大事だけど、一番大事なのは、目の前で課題を抱えているお客様であり、期待をしてくれているお客様。しっかりとそこに向き合って仕事をしたいと思う。

そんな目の前のことだけを追いかけていると、その解決策は横展開できない。ビジネス的にはそんな声も聞こえそうである。課題を抽象化し、汎用的なソリューションに仕上げた方が良い、というのは、たぶん正しい。

ただし、目の前のお客様が欲しいと言わないモノは、横展開の土俵にすら上がらない。だからこそ、これからも目の前の1人のお客様に、必死に向き合い、喰らい付いていきたい。


忠告してくれたあの人に感謝したい。

では、また来週〜。

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安藤健(@takecando)

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