スタートアップの成長は従業員を増やさないと実現しないのか?
パーソルのベンチャーキャピタル代表の加藤です。HR関連のスタートアップへの投資をしていますが、人材サービスのベンチャーキャピタルということもあり、スタートアップの採用・組織づくりは、非常に興味のある分野で日々研究もしております。
今回のnoteでは、昨年投資先の経営者にシェアして最もリアクションが大きかった、成長企業における「売上の増加」と「従業員数の増加」と「生産性(従業員一人当たりの売上)」の関係性をマザーズ企業で調査した際に出てきたチャートをシェアしたいと思います。
売上成長と従業員成長は想像以上にリンクしていた
こちらがキーチャートです。この散布図は、IPO時から現在まで、売上と従業員が平均でどの程度増えてきたかを、プロットしたものになります。
売上増加率と社員増加率には一定の相関がみられることに加え、見事なくらいに傾きがy=xで分布していることがわかりました。
こちらのデータは、従業員数なので、採用による増加だけでなく、M&Aでの増加も当然含んでいます。
例外は当然ありますが、マザーズのようなグロース市場を経由する企業は、従業員増加が売上増加の重要なKPIとなることがわかります。
このチャートを、投資先の経営者中心に昨年何名かにシェアしましたが、「ここまではっきりデータで出るとは・・」的なリアクションでした。
今回対象とする成長企業を、数字がちゃんと取れる観点でマザーズにしてますが、未上場企業でも同様の傾向があることを、スタートアップへの投資活動をしながら肌で感じることが多くあります。
SmartHRも凄い社員を増やしている
未上場企業で急成長の代表格であるSmartHRが、昨年6月のシリーズDの資金調達の時に、一部業績をオープンにしていたので、その数字から同様の傾向があるかも調べてみました。
ここでは、ARR45億円、対前年2倍の成長という圧倒的な成長が示されています。このARRを約20億円成長させた期間で、どのくらい社員が増えているかは、同社がオープンにしている採用の会社説明資料で確認できました。
従業員数は224名→421名と約200名増とほぼ2倍の成長をしてました。
また、この調達のインタビュー記事では、以下のように言ってました。
テックビジネスや、SaaSのような積み上げ型のビジネスは、一見労働集約にならなそうな印象がありますが、SmartHRの経営チームは、成長フェーズにおいては多くの人材が必要である事実を認識し、事業運営している様子が伺えます。
従業員を増やしながらの生産性UPは難易度が高い
生産性(社員一人当たりの売上)はどの程度上げることができるのかもマザーズIPO企業を対象に調査しました。
IPO以降現在までで、生産性を何倍にしてこれたかの調査結果ですが、35%が1倍以下、生産性が1〜2倍のゾーンに50%の企業がおさまる結果となりました。
上場してからの年数にもよりますが、マザーズにIPOができたスタートアップでも、(社員を増加させながら)生産性を数倍にするのは難しいという結果がうかがえます。
ちなみに、年単位での生産性変化率も調査しましたが、80%の企業が年平均生産性の変化が±10%のレンジに収まる結果になりました。
冷静に考えると、先ほどのSmartHRの数字も、社員を200→400名と倍増させている年に、生産性をほぼ変えずにARRを倍にできていること自体がとんでもなく凄いことですよね。
社員規模増加スピードを極限まで追求しながらの生産性維持は、血のにじむような生産性の改善の努力なしには成し遂げることができないと思います。
最後に
今回この情報をシェアしようと思った背景の一つが、スタートアップの事業計画「生産性向上」を前提としたものが多いという課題認識です。
スタートアップからは、VCが生産性を重視しているなんてことも聞くので、我々も反省すべきことが多いと思っているのですが、このデータを示す事で、事業成長のキードライバーとなるKPIに対する考え方が「生産性」なのか「従業員数」なのかという議論がなされるようになるとよいと考えてます。
このnoteがスタートアップの成長スピードを速めると思っていただけたら、ぜひシェアいただけると嬉しいです。