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スポーツチームに密着するという事

今やあらゆるスポーツで、
チームの裏側に密着したコンテンツは、
トレンドになりつつある。

プロに限らずアマチュアにおいても、
中継の映像では見られない舞台裏は、
ファンにとって新鮮で、生々しくて、
何よりドラマティックだ。


僕がバスケ担当になり1年半。
日本バスケ界では、
数多くの歴史的出来事が起こった。

・W杯予選悪夢の4連敗⇒奇跡の8連勝
・東京五輪出場決定
・八村塁 ドラフト1巡目全体8位でNBA入り
・13年ぶりのW杯出場⇒本戦悔しい5連敗
・コロナによりシーズン半ばでリーグ中止

この激動の時期に、
微力ながらも最前線でバスケ界の魅力を
届ける仕事に携われた。
この事は、何よりも幸運だったと思う。

日本代表史上初めての密着コンテンツ

2018年11月。
バスケ日本代表=Akatsukifiveは、
W杯出場をかけたアジア予選の真っ只中にいた。

「悪夢の開幕4連敗」から「奇跡の4連勝」

消えかけた灯は再び勢いを取り戻し、
残り4戦を全勝できれば、
13年ぶりのW杯本戦出場に手が届く、
そんな状況だった。

<Window5>※ホーム
・11月30日 vs カタール
・12月  3日 vs カザフスタン

<Window6>※アウェー
・2月21日 vs イラン
・2月24日 vs カタール


そんな日本代表の舞台裏に
史上初めて、
カメラが密着する事を許された。

普段は非公開の事前合宿から、
チームの移動、宿舎での食事やミーティング、
そして試合当日のロッカールームまで、
文字通りの完全密着だった。

代表候補選手の前で赤っ恥

正式に企画のGOサインの報告を受けて3日後。
W杯予選国内ラスト2戦に臨むメンバーを決める、
日本代表候補合宿が慌ただしく始まった。

計3週間に渡る密着取材。
合宿初日の貴重な練習前に、
チームスタッフ、選手達が見守る中、
挨拶の場をもらった。

上司
「これから担当する
撮影クルーです。
 皆様、宜しくお願いします」

挨拶はこれで、終わるはずだった。
終わって良かった...

誰に求められていた訳でもないのに、
なぜか、僕の高揚感が口から出ていた。

「日本を代表する皆さんを取材できる事に、
 今はワクワク半分、
 ドキドキ半分が入り交ざった気持ちです。
 これから3週間宜しくお願いします」

体育館を襲う静寂....
目の前には、日本を代表する錚々たるメンツ....
2m級の男達からの鋭く、
冷たい眼光が脈を速く打つ。

今思い返してもゾッとするが、
「怖いもの知らずは強い」という事を、
身をもって体感した瞬間だった。

お互いを測る距離感

一挙手一投足をカメラに密着されるのは
選手達にとっても初めての事。

彼らの本音を引き出し、
いかに自然体の表情を撮れるか。
その為には、距離感を縮める必要があった。

実際に信頼を得るまでには、少し時間を要した

実は僕自身、
プレーヤー経験はなくバスケの現場も初めて。
Bリーグで知っていると言えば富樫選手ぐらいと、
恥ずかしながら、超ど素人だった。

選手達にとっても
こんな奴に取材されるのは
堪ったもんじゃないだろう。

このままではマズイ。
最低限のスタートラインに立つため、
まず始めた事は、基礎の反復だった。

過去の予選8試合の映像を、
止めては流し、止めてはメモを取り。
顔と名前、ポジションやプレーの特徴、
試合の展開や印象的なシーンはもちろん、
後で見返せるように試合時間も記した。

昼間は取材を行い、夜は彼らの試合を見る、
そんなバスケ漬けの日々が続いた。


その甲斐あって、
合宿3日目には動きの激しい練習中でも
名前と顔が一致するようになり、
徐々に自分から選手達に
話しかけられるようにもなっていった。

取材と同時進行で編集を進めながら、
あっという間に合宿が10日間を過ぎ去った頃。
選手達の証言と、
合宿での取り組みにフォーカスした
2本のコンテンツが完成した。

Road to World Cup #1

Road to World Cup #2


最大の見所を急遽路線変更

合宿を終えたチームと共に、
試合の舞台となる富山に入った。

企画最大の見所は、
何といっても代表戦の舞台裏。
特に試合当日のロッカールーム内の様子を、
ストーリーの軸にしようと考えた。

しかし、
チームの状況は4勝4敗と未だ崖っぷち。
ましてやW杯出場のかかった国際試合で、
余計なストレスをチーム側にかけられない。

この密着の肝でもあった
ロッカールーム撮影に関しては、
何度もチーム側と話し合いを重ね、
最終的に以下の条件での撮影が許された。

<有人カメラ1台>
・試合前:試合開始の50分前までOK
・ハーフタイム:一切撮影禁止
・試合後:ミーティング後からOK
<Gopro設置>
・終始禁止


ハーフタイムはロッカールームが撮れない...

番組構成を再考する必要があった。

ヒントは現場に落ちている

<Window5>※ホーム
・11月30日 日本 vs カタール (85-47)
・12月  3日 日本 vs カザフスタン (86-70)

試合はこれ以上ない形で日本が連勝。
W杯出場へ弾みをつけた。

撮影も予定通り順調に進んだが、
依然、ロッカールームの代わりとなる
ストーリーの軸は見つかっていない。

結局、
配信予定も後ろ倒しせざるを得なくなった。

これ以上はもう伸ばせない。

気が付けば今度は自分が崖っぷちにいた。
改めて試合映像を1プレー1プレー見直し、
120時間に渡る取材素材を血眼になって見返した。
その間に手がかりを探し、道筋を立てていく。

すると、この極限状態の中であらゆるものが
クリアになっていくような感覚に出会った。

撮影中には気づかなかった一言や、
ストーリーの主人公になりそうな選手、
ポジション変更への布石、
苦戦した時間帯の理由など、
パズルのように次々と伏線が繋がっていく。


予定より10日遅れの12月29日。
バスケットボール男子日本代表史上初の
密着ドキュメンタリーが完成した。

【THE LOCKER ROOM short.ver】


スポーツは筋書きのないドラマ

番組制作は、限られた時間の中で、
効率よく完成に向かわなければならない。
事前に構成を組み立て、
それを基に取材に向かう事も多い。

こうなったら綺麗なストーリーを描ける」
「こんなコメントが撮れたら構成にハマる」

軸を振らさずに取材する事は大切で、
決して、それ自体が全て悪いとは思わない。

しかし、今回の経験で改めて学んだ。

周到な準備に従順すぎる事が、
時に視野を狭め、
制作者の理想を推しつけてしまう
リスクも孕んでいると。

企画実現に不可欠だったキーパーソン

この2人なしでは、
今回の企画は実現できなかった。
1人目は日本代表のフリオ・ラマス ヘッドコーチ。

どんなに良いアイデアを提案しても、
たとえ広報さんの同意を得られても、
最終決定権を持つのは、チームである

・いつ撮影していいのか
・どこまで撮影していいのか

・チームの戦術はどこまで明かしていいのか
・配信内容はこれでいいのか

状況や条件が変わる中で、
希望通りに撮影できるかは、
最終的な監督判断な所が大きい。

そういった意味で、ラマスさんは
メディアに対しての理解やリスペクトがあり、
初対面の時にこう言ってくれたのを
今でも覚えている。

「日本のバスケ界発展のために
 出来る限り協力したい」

"Muchas Gracias"

そして、そのチームとメディアの間に立ち、
地道にコミュニケーションを取り続けてくれた
彼が2人目のキーパソン。
広報の新出浩行さん(@HiroyukiNiide)。

企画実現へ向けた社内調整、
チームへの取材調整、
スケジュール共有に内容チェックまで、
他にも細かい全ての調整を行ってくれ
リクエスト過多な取材を円滑に進められた。

「広報なら当たり前」
そう思う方もいるかもしれない。

しかし、代表チームは試合の度に集まる
いわば"いとこ"のようなもの。
(辻直人選手から引用)

その中で選手やスタッフ陣からの信頼を得て、
メディアの希望を当たり前に調整するのは
チームとの関係性が築けていないと
決して出来ないはずだ。

常にチームと行動を共にし、
隙間を見て体育館の隅で作業する
新出さんの姿はただただ尊敬でした。
ありがとうございました。

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