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「イヤイヤ独り酒」─#雨の日をたのしく

 雨はかねがね好きである。休日の昼過ぎに目を覚ましてカーテンを開けた時、シトシトと音が強くなった気がしてマンションのベランダから見えるドヨンとした空は愛おしい。

「あー、なんでせっかくの休みだっていうのにこんな天気なんだよー」

 全く感情の乗っていない捨て台詞をオトコ一人暮らしのタコ部屋へ吐いてみたりする。軽くシャワーをして身体を温めた後、髪も濡れたままですかさず冷蔵庫よりビールを取り出しプシュリ……。

「どっか行く気力も雨のせいで湧かなくなったじゃないかー」

 今度は無感情というよりも、もう少し口角が上がり、したり顔。一口目で缶の半分近くを減らしながら、その日が”本当の休日“になった事に密かに歓喜しているのだ。

 幼少の頃より雨は好きだった。実家ではスポーツ一家の落ちこぼれ。レゴブロックとカードゲームへ興じて育ち、チームワークとは縁遠い生活を率先して行っていた。幸い地元の学校ではおそらく現代よりもスクールカーストなどが弱く、僕のような引きこもりグループにもそこそこな地位が与えられていたように思える。

「外で遊んできなさいな」と親の言葉も、雨であれば意味を成さない。加えて田舎の群馬は海外でいうスコールが如く夕立も頻繁に起こり、夏から秋にかけては合法的に引きこもりが満喫出来ていた。

 ピコン。

「もう起きた?これから飲みに行かないか?」

「んー、いやぁ。今夜は天気も悪いし止めておくよ、また誘ってくれたら嬉しい」

「まぁそうだよなー。こんな連日が雨じゃ気分が萎えるわ」

「そうだねー。また晴れの日にでも飲み歩こう」

 緑の便りをサラリと返し、下の根も乾かぬうちに外着へ着替える。

「引きこもるにしても夜は長い。酒と肴の買い出しは嗜みってね」

 大雨の中、ビニール傘と財布を片手にその夜の楽しみを夢想する。

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雨の日をたのしく

『バーテンダーの視(め)』はお酒や料理を題材にバーテンダーとして生きる自分の価値観を記したく連載を開始しました。 書籍化を目標にエッセイを書き続けていきますのでよろしくお願いします。