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コラム『ていくすりーの酒場学』を始める

 いらっしゃいませ、こちらのお席へどうぞ。ていくすりーの酒場学です。

 これからBARデビューしたい、もうすでに通うお店がある、バーテンダーとしての一歩を踏み出した……などなど、お酒業界に興味のある全ての方々に楽しんでもらえるような小話を、歴史や最新の情報と自らの経験を組み合わせたコラム(1200文字程度)に書き綴っていきます。

 この酒場学は、”学び”というよりも、むしろ”酒の肴”。

 カクテルやウイスキーを片手に、たまにはシガーでも嗜みながら、バーテンダーである僕の話に耳を傾けてくださったならば幸いです。


<Classic:クラシックとシグネチャー>

 カクテルの世界には”クラシックカクテル”と呼ばれる世界共通のレシピを持つ物があり、ジン&トニック、ギムレット、ドライ・マティーニなどは、飲んだことはなくとも、1度は小説や映画などで聞いたことがあると思います。

 皆さんが最寄りの本屋に行けばきっと、カクテルブックなる厚めの書籍を何冊か見つけることが出来るでしょう。大抵の場合、これらには200~300ほどのカクテルレシピが掲載されていて、どこのショットバーへ行ってもオーダーする事が可能です。

 その中には、毎日作るような有名どころの”スタンダード”と、1ヵ月以内には何度か作ることになるであろう”セミスタンダード”、バーテンダーならば知っているが、年に1度作るか作らないかの”マイナー”なカクテルに分けられているので、カクテルブックに載っているからといっても、必ずそれら材料を全てBARが完備しているわけではありません。

 後述するミクソロジーカクテルや2009年ほどから続くウイスキーブームもありまして、クラシックの出は少し減ってきた印象です。しかしながら、昔から愛され、飲み続けられているカクテル達には相応の価値があり、バーテンダーをしている方々にもそれぞれ思い入れがあるモノです。

「あなたの1番得意なカクテルを作ってください」

 これは”シグネチャーカクテル”とも呼ばれ、そのお店、ひいてはそのバーテンダーさんの顔となるカクテルといった意味を持ち、若干のアレンジやツイスト(趣向を凝らし、原型から少し捻る)などを加えられ提供されます。

 ここ数年、クラシックカクテルランキングで常にトップを取っているウイスキーベースのカクテル『オールドファッションド』は、海外のBARであれば必ずメニューの最初に掲載されているくらいです。

 常に味の世界は流行が変わるモノ……、それは料理だけでなくお酒の業界でも同じです。

 令和元年、世界のトレンドは「強くて、甘くて、少し苦い」となっていて、オールドファッションド、ネグローニ、マンハッタンなどが人気ですが、アジア圏、そして日本では「なるべくドライめ」と、若干差異があります。海外旅行などに行った時にはぜひそのあたりもチェックしてみてくださいね。


<Mixology:ミクソロジーという新世界>

 お酒を科学する。

 Mix(混ぜる)とology(科学、~学)の造語はロンドンで生まれ、カクテルの第一線ニューヨークへ波及、のちに日本で伝わりました。

 細かい定義を述べるならばいくつもあるのですが、イメージとしてはお酒にフレッシュフルーツやハーブ、各種スパイス、そして最新の調理器具を使うなど、1杯のカクテルへかける情熱は、最早バーテンダーを超えて研究職とも取れます。

 代表的なのが透明なコーヒーカクテルやトマトのカクテルで、味と見た目のデザイン性、驚きはクラシックにはなかなかないモノで、今や全世界中で流行っていて、バーテンダーではなく”ミクソロジスト”を名乗る人も登場しました。

 もしご興味があれば、日本にもミクソロジーバーなる専門店がいくつも出来始めているので、その1種のエンターテイメントを体感して欲しいと思います。身近なモノでいえば、家でも作れる梅酒などもミクソロジーになるようです。


<Whisky:5大ウイスキーって何だろう?>

 ウイスキーはここ日本でも洋酒の文化が伝来した際に、最初期からBARを支えてきたお酒です。水割り、ボトルキープ、バーボン、オールドパー……、かつてバブルを経験し、今でも茶色のお酒を愛する方々は数えきれないほどいらっしゃるでしょう。

 あまり知られていませんが、今ではインド、台湾、テキサスなどなど歴史的にウイスキーがない地域でも生産が開始され、地元の方を中心に飲まれています。その中で、世界5大ウイスキーといえばイギリスはスコットランド、アイルランド、バーボンに代表されるアメリカ、カナダ、そして日本。長く洋酒の歴史を紡いできた大陸国に混ざってジャパニーズウイスキーが5大と称されていることは、日本人としてとても喜ばしい事ですね。

 シングルモルト、ブレンデット、ヴァッテッド、カスクストレングスと単語を並べると、なかなか取っつき辛い印象もあるこのウイスキー文化。「穀物原料で蒸留し、樽で熟成させる」と聞いても、ここでもピンとこないかもしれません。

 試しやすいボトルからその製法、おすすめの飲み方などを書いていきますので、ぜひ今夜はお近くのBARでウイスキー、飲んでみてはいかがでしょうか?


<Spirits:スピリッツ(魂)のこもった酒>

 ウイスキーと違った白い(透明な)蒸留酒。スピリッツといわれる物は随分と我々に近い存在と昨今なりました。

 今ではコンビニでもボトルのジンやウォッカを買う事ができますし、缶チューハイなどの成分表を見ても、スピリッツという文字を確認する事ができますね。居酒屋さんでもジン&トニックやモスコミュール、カラオケ屋さんでもテキーラを置いている事があるようで、あらゆる場所に普及したのは良いと思いますが、安酒やいい思い出のない酒という方も多くいるのだと思います。

 4大スピリッツといえば、大麦などを使うジン、ウォッカ、サトウキビのラム、アカベと呼ばれるアロエのような植物を使ったテキーラで、どれも長い歴史を持っています。

 時は大航海時代。イギリスより世界に蒸留技術が伝えられました。

 それを学んだ土地の人間は、そこで最も特産であった穀物を使い、酒造りを模倣しようとしました。日本でいえば、沖縄ではラムが作れましたが、九州へ渡った際に芋焼酎となり、東へ行くにつれ、麦焼酎や蕎麦焼酎、米焼酎などの大元が製造されます。

 アメリカではジンよりもカクテル向きであったウォッカが流行り、もともとジンベースだった”ソルティドッグ”も、今ではカクテルブックに載っているものはウォッカベースです。

 4年ほど前、初の国産ジンが生産され話題となりました。京都のジン”季の美”は柚子と玉露、山椒などをメインに使用した世界に誇れるクラフトタイプ(手作り、少量生産)のジンです。

 サントリーさんの六ジン、白ウォッカなども始め、滋賀のラムがコンペティションで金賞を受賞するなどスピリッツ業界もここ10年で大きく進展しました。ぜひ、この機会にカクテルのベースとして、そのまま飲む様として、知識をつけていきましょう。


<Others:語りつくせない事ばかり>

 サービス、ホスピタリティ、お客様や先輩からもらった名言など、BAR業界で語る事はなにもお酒の話だけではありません。

 バーテンダーがどんなことを考え仕事をしているのか。

 お客様がどんな事を考え飲みにくるのか。

 そんな世界観に少しだけ、触れてみようと思います。

 きっと皆さまの人生にも、良い影響になる話ばかりでしょう。

 そして興味が湧いたとき、少しの勇気を持ってBARの扉を開けてみてください。


<連絡先・ご質問>


TwitterにてDMを開放中→@TAKE3r1 


今後もこの創刊号は無料公開で、随時追記されていきます。ご意見、ご感想などお気軽にお寄せください。

『バーテンダーの視(め)』はお酒や料理を題材にバーテンダーとして生きる自分の価値観を記したく連載を開始しました。 書籍化を目標にエッセイを書き続けていきますのでよろしくお願いします。