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【展覧会感想】市立小樽文学館「幽鬼の街」展行ってきた



はじめに

8月10日からはじまった〈ストーリーマップでめぐる「幽鬼の街」展〉の感想文です。
こちらは、市立小樽文学館・小樽市立総合博物館本館・運河館の3館合同企画展です。詳細は以下の記事をご確認いただけますと幸いです。

共通タイトルは〈ストーリーマップでめぐる伊藤整の「幽鬼の街」展〉ですが、3館それぞれに個別の展示タイトルがあります。

  • 文学館〈原作と地図で探索する時空の迷宮・小樽〉

  • 博物館本館〈幽鬼の街・小樽とその時代を歩く〉

  • 運河館〈小樽の今昔風景〉

そして、今回は市立小樽文学館で開催している〈原作と地図で探索する時空の迷宮・小樽〉についてご紹介したいと思います。

原作と地図で探索する時空の迷宮・小樽、とは

昭和12年に文芸雑誌『文藝』に発表された『幽鬼の街』。
そこに描写されているのは、一見単純な、伊藤整にとっての思い出の小樽のようにも見えますが、実は作中の時間軸は、大正6年(1917)から昭和3年(1928)頃まで、10年余もの幅があります。
また、物語も決して年代順に進んで行くわけではなく、各場面は空間の微妙な歪みをはらみながら時間を行きつ戻りつします。ねじれた時空間の迷宮の中で〈幽鬼〉は随所に出現し、主人公〈伊藤ひとし〉の心を責めさいなみます。
本展では、『幽鬼の街』の草稿や初出雑誌・初版本の展示と同時に、作品内の描写を、ストーリーマップや当時の古写真、そして『幽鬼の街』成立に至るまでの伊藤整の創作活動の軌跡と共にご紹介し、彼の〈内面の小樽〉に迫ります。
〈小説〉という名の時空の裂け目から、あなたの知らないもう一つの小樽に迷い込んでみませんか?

出典:小樽市ホームページ(https://www.city.otaru.lg.jp/docs/2024073000031/
最終閲覧日:2024年8月14日

伊藤整と〈小説〉と小樽

拙作のストーリーマップでは文学作品と地理情報システム(GIS)の掛け合わせによって新たな「幽鬼の街」の作品読解を試みていますが、文学館では初出版のキーフレーズがカッティングシートで壁に貼ってあり、読み進めていくとあっという間に「幽鬼の街」の世界に迷い込みます。(図1)

市立小樽文学館〈原作と地図で探索する時空の迷宮・小樽〉の展示室の写真。ガラスの展示ケースと壁に貼られた写真がうつっている。
市立小樽文学館〈原作と地図で探索する時空の迷宮・小樽〉の展示室(図1)

わたしにとって、今回の展示で何よりも印象的だったのが展示冒頭の伊藤整と妹・優の写真でした。ちょっと泣きそうになった。
物語と現実のはざまで、伊藤整が「幽鬼の街」で描いたもの、描かなかったものについて思いをめぐらせるような展示になっていたと感じます。

デジタルサイネージによるストーリーマップ紹介

さらに、大きなデジタルサイネージ(小樽商科大学さまのご協力)にて、ストーリーマップが最初から最後まで動画で見ることができます。スマホや通信環境がない方にも、「ストーリーマップってこんなかんじ」を体験していただけたらと思い、スマホで画面録画&パソコンで動画編集がんばりました!笑
それを文学館の方がDVDに焼いてくださり、連続再生しています。あまりの嬉しさに、スタンプラリー(※詳細は後述)の文学館ハンコとともに記念撮影しました。(図2)

市立小樽文学館〈原作と地図で探索する時空の迷宮・小樽〉の展示室の写真。デジタルサイネージとチラシがうつっている。
市立小樽文学館〈原作と地図で探索する時空の迷宮・小樽〉の展示室
サイネージ(図2)

文学館版『幽鬼の街』の挿絵イラスト原画

「幽鬼の街」展の目玉のひとつが、初出版を底本とした文学館版『幽鬼の街』の刊行です。当初より「初出版『幽鬼の街』がもっと手軽に、更にいえば初版と同じスタイルで本文に〈小樽市街中央部図〉が差し込まれる形で読むことができたら……」と思っていたところ、多くの方のご協力により実現しました。
これまで、ストーリーマップを見てくださった方から、「『幽鬼の街』読んでみたくなった!」というお声をいただくことも多かったのですが、「えっと、全集に収録されていて……」、「でも地図入りの初出版は雑誌でしか読めなくて……」もごもご。だったのが、「なんと!文学館(または博物館)で買えます!」とお伝えできるのが最高に嬉しいです。
さらに初出版の旧字旧かなはそのままに、ふりがなを多数補ってくださっているため、見慣れない漢字が多くても、多くの方に読みやすい本文になっています。
しかも、イラストレーターの高山美香氏(https://x.com/takayamamika)による挿絵入りで、展覧会では原画を見ることができます(図3)。
この挿絵がまた本当に得も言われぬほど魅力的なのです。初日に手にした瞬間からすっかりお気に入りで、取材のときは、いまのところすべて文学館版『幽鬼の街』とともに写真に撮ってもらっています。
なかでも、わたしの一番のお気に入りは水天宮の山上のベンチに腰掛ける伊藤ひとしと川崎昇の二人の姿。(あと制作メモのウラヂミル)
ぜひ、イラストと本文ともにお楽しみください。

市立小樽文学館〈原作と地図で探索する時空の迷宮・小樽〉の展示室の写真。ガラスの展示ケース内に高山美香さんのイラスト原画が展示されている。
市立小樽文学館〈原作と地図で探索する時空の迷宮・小樽〉の展示室
髙山美香さんのイラスト原画(図3)

スタンプラリーも開催中

今回の〈ストーリーマップでめぐる「幽鬼の街」展〉は、初の市立小樽文学館・小樽市立総合博物館本館・運河館3館合同企画展ということで、スタンプラリーを行っています。本展覧会のチラシ裏面にスタンプを押してもらうところがあります。各館受付でスタンプをもらえますので、チラシを忘れずに(各館にも備え付けてあります)ご提示くださいませ。
全館入館(順番・同日別日問わず)で、伊藤整の「小樽市街中央部図」付きオリジナルメモ帳がもらえます。やったね!
みなさんも、伊藤整の地図を片手に小樽の街を歩いてみてはいかがでしょうか。

おわりに(おまけの話)

展覧会初日、北海道新聞社小樽支社さまに取材していただきました。
文学館で館長さんや学芸員さんに初日のご挨拶を終えて帰ろうと思ったところ、文学館に取材申込の電話が入り、館長さんに「一緒にいかがですか」とお声がけいただいたという、なんともタイミングがすごい感じでした。
実はこのタイミングがすごい、という話、同日博物館でも起きていたので、それはまた別の記事(博物館感想文)で書きたいと思います。

というか、道新の記事共有にnoteがあってびっくりしました。便利!

最後まで読んでくださり、ありがとうございます