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教#051|人脈を作る場所~ブルーピリオドを読んで㉒~(たかやんnote)

 八虎の友達の歌島くんは、高校時代、マチエールと云うバンドを組んで、ギターを弾いていました。だて眼鏡をかけて、服装もそこそこお洒落で、喋りもそつがなく、クラスの女の子からは、うざがられても、後輩の女の子には、もてます。一見、ちゃらいんですが、八虎も、恋ちゃんも、純田も、歌島を信頼しています。センター試験は、一応、受けますが、単なる記念受験です。浪人するつもりだったんですが、結局、カフェでバイトを始めてフリーターになります。まあ、バンド系あるあるです。おそらくバンドも続けながらのフリーター暮らしです。

 このタイプは、中野区のS高校に勤めていた時に、時々、見かけました。恋ちゃんとか純田タイプは、最初に勤めた足立区のA高校にはいました。八虎のようなある意味スマートで、ある意味どんくさい二律背反のDKは、公立ではなく、私立高校にいそうです。私の35年間の教職生活を通して、八虎のようなタイプの生徒と、出会ったことはありません。八虎は、努力して絵を描いています。私が出会った美大進学者は全員、絵を描くことが好きでした。楽器を演奏することが好きじゃないのに、バンド活動を、たとえば友達とのお付き合いで、やっている生徒とか、まずいません。最初のきっかけは、誘ってくれたお友達であっても、練習をやって行く内に、好きになります。八虎からは、絵を描く事の好きが、正直、ストレートに伝わって来ません。芸大に合格するために、自己を律して、猛特訓をしたと云う印象を受けます。芸大に合格して、教官に「コレから先、どういう作品を作っていきたいの?」と突っ込まれても、何も返答できません。間違いなく、八虎にとって、芸大合格は、到着点であり、目的地でした。合格後のこととか、まったく考えてません。が、まあ、それが普通だと思います。大学に合格した段階で、将来の目的や目標が、弁舌さわやかにペラペラ語れたりすると、逆に不安を感じてしまいます。何をすればいいのか解らないから、取り敢えず、大学に進学したってことで、別段、構わないと思います。それは、芸大であろうと、他の人文系or社会学系or自然科学系の学部・学科であろうと、同じです。

 恋ちゃんは、昼間、鳶の仕事をしながら、夜、パティシェの学校に通います。パティシェの専門学校に行く意味と云うか意義が何かと云うことを、はっきりと把握しておかないと、あっと云う間に時間だけが過ぎ去ってしまいます。

 パンの専門学校に通った教え子が、専門学校に行く意味は、あまりなかったと言ってました。パン作りの実習は、八人グループだったそうです。八人グループより、半分の4人グループの方が、よりきめ細かに学習できます。専門学校では、技術を取得します。が、その技術は、独学でも取得できます。が、まあ、最初はやはり人に学んだ方が、効率的です。

 中卒くらいで、フランスとかイタリアのパンの工房に入って、そこでパン作りの基礎を叩き込まれ、逃げ出したら、間違いなく人生の落伍者になると云う背水の陣を敷いて、5、6年、必死になって学ぶ、まあこれが、パンの職人になる王道って感じがします。かなり格落ちはしますが、日本のパン工房でも、構わないと思います。日本の低農薬の小麦と水を使って、日本人に合うようなパンを作っている工房は、探せばある筈です。そういう店で、丁稚奉公をすると云う選択肢もあります。丁稚ですから、給料などは貰えないと考えた方がいいです。吉祥寺の南口に、井の頭公園に行くメインルートからちょっと離れた所に、有名なお菓子屋さんがありました(今もあるかどうかは解りません)。いつ行っても、7、8名の見習いスタッフがいました。おそらく、給料なしの丁稚です。が、無料で、お菓子作りが学べます。専門学校に進学すると、1年間で、100万円以上の学費を払うことになります(辻さんとかだと、いい材料を使っているので、もっと全然高い筈です)。

 専門学校と、パンの工房との違いは、パンの工房の方が、リスクが高いと言うことです。丁稚なので、働き方と云う観点で見ると、間違いなくblackな環境です。そのblackな環境に耐えきれず、リタイアすると云うことは、充分に考えられます。19歳とか二十歳で、精神的にまいってしまったら、2、3年は抜け出せません。専門学校に通っていれば、そうなることはまずありません。そこはまあ、いくら専門学校が厳しいと言われていても、ゆるくて、それなりに居場所もあって、守られているんです。

 今年の3月に閉校してしまいましたが、目黒区にあったM音楽学校の親しくさせていただいていたS先生が「専門学校は、高いお金を払って、人との関係を学ぶ空間ですよ」と、いつだったか仰っていました。人との関係を学ぶ、つまりコミュケーション能力を高める場だと云うことです。もう一歩、踏み込んで、人脈を作る場だとも言えます。一緒に学んでいる同窓生との人脈。先生との出会い。専門学校が開催してくれるイベントを利用して、新たな人脈を作って行く。築き上げた人脈の中に、自己の人生の方向を定めるにあたって、決定的な影響を与える人がいれば、高い学費を払ったとしても、payすると思います。

 ビジネス系の最高水準の専門学校はHBS(ハーバードビジネススクール)です。一応、学歴はマスターコースとしてカウントされますが、論文を書く訳ではないので、形式的には専門学校です。HBSの最大のメリットは、世界中から集まって来るものすごく優秀なエリートたちとの出会いです。その優れた人たちとの人脈を築くことができれば、生涯の財産になります。無論、超一流の先生方との出会いもありますが、HBSでの2年間くらい付き合いで、その先生が、学生の面倒を、卒業後も見てくれるとは、到底、思えません。それに先生の方が、年上なので、先に死にます。この先も共時的に活躍して行ける同窓生の方が、はるかに大切です。

 ところで、歌島くんはフリーター生活と云う、かなりあるあるの安直な選択肢を選んでしまいました。フリーターは、所詮、バイトです。バイトには責任がありません。あくまでも、補助的な労働です。が、バイトであろうと、正社員と同じ意識で、きちんと何かを学び取ろうとする向上心があり、3年間くらい、かなりhardに、真面目に取り組めば、ひと塊のsomethigが学び取れます。次の3年間は、別の店に移った方がいいです。同じ職場だと、何もかもが解ってしまい、マンネリ化します。基本、似たような業種であれば、別の系統の店でも構いません。最初は、カフェで、次がファミレスでも構わないと云うことです。最初がキャバクラで、次がクラブ。まあ、そんなに積極的にはお勧めしませんが、これでもいいです。クラブからキャバクラじゃなく、キャバクラからクラブへと、カーストが上がって行く方が望ましいです。着地点がどこかと云うと、それは、自分の店を持つことです。カフェ系でしたら、7、8年、必死になって働けば、自分の店を持つ資金を蓄えることができます。今は、クラウドファンドとかもあります。社会のために役に立つ、貢献できると云う方針が、明確であれば、クラウドファンドを利用することも可能です。フリーターの着地点は、最終的には起業です。起業すると云うしっかりとした目的意識がないと、結局、何ひとつ身につかないまま、15年くらいが、あっと云う間に、過ぎ去って、将来的には、社会の最底辺あたりで、カツカツで暮らして行くことになります。

 歌島くんは、多分、成功すると思います。コミュ力があり、ノリも軽く、人脈も作れそうです。あとは、何かコレをやりたいと云う人生のテーマが見つかれば、それに向かって、突き進んで行くことができます。

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