❨931❩1974.3.17.日.晴/遂に日本の地を踏む。この旅を活かす生活が始まる。/Bangkok→Hongkong → Tokyo
遂に日本の地を踏む。
8時半、発。香港へ40分程止まり、ロビーまで降りる。
夕暮れ近い香港は、まだ明かりもチラホラという感じで、有名な夜景は見られず、残念。
羽田へ着いたのは、6時10分。
灯が空から見えた時、胸が何んとなく、ワクワクした。黄婚の東京には、すでに灯が沢山見え、空は曇っていた。
車輪が止まると、遂に、生きて戻ったと思った。ああ、無事命だけは持って帰れた、そうしみじみ思ったのは、どうしてだろう?
風が身を刺す程、冷たく思えたが、俺の心の方が新たに燃え始めており、爽やかな風に感じられた。嬉しかった。
客の一人は、半袖シャツ一枚で、ブルブル震っていた。無理もない。真夏から、冬にも近い気温の所へ飛んできたのだから。
懐かしさがドッと込み上げて来た。
皆んなに元気で会える。故郷に行ける。
来てみれば、何んでもない事の様だが、これまでの俺の旅が、そうはさせない。
胸の動悸が高まり、自然と微笑みを浮かべている自分に気づいた。
さあヤルゾ!体中でそう叫んでいた。
荷を背負って、税関に行くと、「どこから来た」「持物は」と、簡単に聞かれただけ。
タバコの税だけ出して、通過。
もう日本なのだ。
大勢、迎えの人達が来ていたー一俺には一人も縁の無いーー
日本人の顔が、奇妙に見えた。右を見ても左を見ても、今までとは逆に、日本人の中に外人がまばらに居る。
ホントに日本だな、馬鹿の様だが、そう思った。この中での生活が、また始まる。
安城へ電話し、姉貴の声を聞いた。
変わらぬ声だったが、いささか驚いていた。
今夜は富士スクリーンに泊めてもらうことにし、青戸へ行った。
みんな起きていて、歓迎してくれた。
皆んな変わって変ってない。二年半前と同じだ。
寿司とビールをいただき、話に花が咲いた。幸せ者だと俺は思う。
旅は終った。
しかし、これから、この旅を活かす生活が始まる。