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012:「日本人」がアメリカで起業するリアル|クレイジーで行こう!第2章

がむしゃらで見えなかった差別

創業当時はすべてががむしゃらだった。猪突猛進でわき目も振らず、日々現れる問題を次々と倒していった。それはある意味、前しか見えずに視野が狭かったとも言える。今は少し自分自身に余裕が出てきて、いろいろなことが見えるようになってきた。

そのひとつが、「差別」だ。

昨年くらいから少しずつ見え始めてきたと思う。それまで、僕は自分が日本人(アジア人)だから差別されている、ということに鈍感だった。

起業したての頃は、展示会に行って共同創業者のラースさんと営業しまくっていた。展示会は白人ばかりで、思い起こせばインフラ産業、特にガス産業のカンファレンスなんて、日本人というよりアジア人の参加者すらほとんどいない。おそらく、相当な扱いを受けていたはずだが、それをなんとも感じないほどに、僕は熱烈だった。白人のラースさんが隣にいたことも大きかったかもしれない。

今年からフラクタ入社した日本人のヒデは、僕より人種の違いに敏感だ。彼が入社したての頃、シリコンバレーのレッドウッドシティにあるスターバックスで待ち合わせをしたことがある。彼はなぜかそわそわしていているので話を聞くと、「なんだか落ち着かない」と言う。理由を聞くと「ここにいる人たち、全員白人じゃないですか」と言うのだ。

そう言われれば、それまでヒデが住んでいたロスアンジェルスと比較して、レッドウッドシティは白人比率が高い。ヒデに指摘されるまで、僕はそんなこと気にしたこともなかった。

「本当にここでやっていけるかなあ?」

今やアメリカ国籍を取得して、10年以上アメリカにいるヒデがそんなことを感じるなんて驚きだった。

思い返してみれば、以前フラクタにいた、スタンフォード大学出身のフーリオも不思議なことを言っていた。

スタンフォードは多様性を確保するために、単なる上からの成績順ではなく、人種のバランスを意識した(ある程度の人種比率を事前に定めた)入学システムを取っている。それだけを聞くと、白人も黒人も混ざり合ってランチを取っている様子を想像するが、メキシコ出身の彼は「たとえばランチなんかでは、やっぱり、皆ある程度似たような人種で固まるんだよ」と言う。アフリカンアメリカン同士、ヒスパニック同士、アジア人同士でグループになっているらしい。「これが現実だよ」とフーリオは言うのだ。

もっと厳しいマネジメントをすべき?

ある日、CFOであるカオルが強めの口調で言った。

「ヒデさん、セールスチームはこの点でなかなか成果を出せていないと思います。ヒデさんのマネジメントが緩いからなのではないでしょうか?」

ヒデは厳しいところもあるけれど、部下の話をよく聞いて寄り添うタイプのリーダーだ。そのスタンスが、カオルには弱腰に映っているようだった。

「ヒデさんのやり方は、アメリカ人のスタッフを怠慢にしているようにも見えます。弱腰になるのは、何か後ろめたいことでもあるのでしょうか?」

「カオル、そう映ったのなら申し訳ない。ちゃんとハンドリングするつもりだから大丈夫だと思うよ」

ヒデはカオルの言葉も受け入れて、やさしい言葉で返答した。僕は毎朝ヒデとカフェでコーヒーを飲み、1時間ほど話すようにしている。ヒデの想いもある程度わかっているつもりだ。それをカオルにも上手く伝えたいと思った。

ヒデは中学、高校とカナダのバンクーバーで過ごし、英語はほぼネイティブだ。一方で、容姿はもちろんアジア人ということもあり、中高を過ごしたカナダでも、それなりに苦労したに違いない。ヒデの学生時代、白人男子をトップに据えたスクールカーストなんて、絶対に存在していたはずなのだから。

「カオル、ヒデだって、好き好んで弱腰でいるわけでもないと思うんだよ。スタッフのみんなだって、アジア人に対する偏見がゼロではないだろう。COOとしてそういう人たちの上に立ち、上手く彼らに仕事をしてもらう、成果を取りに行っているという側面はあると思う。ヒデが白人的にふるまえばグローバル感が出るかというと、そんなことはない。アジア人にはアジア人なりのやり方があるのかも知れないし、すべてがドラマのようにフラットになれるわけではないんだ」

破れるようで破れない、理屈や感情ではどうにもならない薄い膜が、僕たちを覆っているような気がした。

「労働者階級」という言葉の意味は?

「労働者階級」という言葉を始めて意識したのは、ラースさんの口から聞いたときだ。

ある候補者の採用面接が終わると、ラースさんがこう口にした。

「彼は、実にニュージャージー出身の人間らしい」

そこに多少の皮肉が込められていることはわかったが、細かなニュアンスが受け取れなかったので、「それは、つまり、どういうこと?」と尋ねた。

「ワーキングクラス(労働者階級)ってことだよ。つまり……土方とかウェイターとかが合っているってこと」

僕は耳を疑った。アメリカにも、階級制度があるということだろうか?いや、アメリカにそんなものはないはずだ。では、これは差別的な発言なんだろうか。ラースさんを差別主義者だと感じたことはない。そんな彼の口から差別的な言葉が出ることに、一瞬混乱してしまった。

アメリカでは昔から、南米やメキシコからの移民は労働力として頼りにされていた。彼らは、知的労働ではなく、ウェイターやウェイトレスという労働を行う人としてひと括りにされ、労働者階級として扱われてきたのだった。

アメリカには今でも、ヒスパニックやアフリカンアメリカンに対する薄っすらとした差別がある。ドナルド・トランプ大統領はその流れを利用して、選挙に勝つために国を分断した。白人保守層に対して「自分たちこそが豊かになるべき。単純労働力だったはずの移民が自分たちの仕事を奪うことは許せない」という気持ちを煽ったのだ。

日本人にとって、そういった偏見は対岸の火事なのだろうか?アメリカ人独特のものだと考えるだろうか?日本に住む日本人には関係のないことだろうか?

近頃の日本を見渡すと、都心のコンビニ店員などは、外国人ばかりだ。今はまだ、何も感じないかもしれないが、彼らが日本で家族を持ち、その子どもたちが日本人の子供と同じクラスに参加して、トップの成績を取ってエリート街道を進んだらどう思うだろうか? 一方で、自分の子どもや孫の成績がそれより劣っていたら、何を感じるのだろうか?

「トランプのやっていることはひどい」と言うのは簡単だが、自分や家族が同じ場面にさらされたときに、果たして冷静でいられるかは疑問だ。今と同じジャッジができるのは、全員ではないだろう。

僕は子どもの頃に貧しい暮らしをしていた。友だちから貧しさを直接からかわれる経験も多くした。だから元々差別意識のようなものが極端に少ない。ただ、そんな僕ですら、ひとたび自分が経済的に豊かになれば、今度は反対に、貧しい人たちをバカにする可能性だって十分ある。人間とは実に弱い生き物であり、本来的に卑しい生き物なのだ。立場が変われば言葉も変わる。この手の問題は、想像よりもずっと根が深いのだと思っている。

それでも「勝てば官軍」だ

僕は、日本で会社を作ってからアメリカに渡るという選択をしなかった。最初から、アメリカで勝負しにかかったのだ。日本で成功してからグローバル会社を目指すのは僕にとってはつまらなかったし、時間ももったいないと感じていた。日本人がアメリカに会社を作って成功するなんて、まだ聞いたことがない。僕はそれにチャレンジしている。

最近になってようやく、人種のことを考えるようになった。取締役に白人やアジア人、ヒスパニックがまんべんなく入っていて、すべての人種が分け隔てなく存在する楽園のようなイメージが、果たして正解なのだろうかと疑問に思う。ものごとはそんなにも単純なのだろうか。ここのところずっと考えている。

僕は日本人であることを捨てられない。言語も文化も、ネイティブに比べるとハンデがある中で戦っている。日本人であるというだけで、ある程度の差別を受ける下地がある。

ビジネスの現場では、差別は比較的少ないかもしれない。とはいえ、ゼロではない。例えば、日本企業で活躍する白人を指して「EGG」と呼ぶ向きがある。アメリカの企業で高く評価され有名になった人が、日本の大企業に好条件で引き抜かれることがよくあり、それを見て「外側は白いのに、中身は黄色い」という意味で「EGG」と陰口をたたく。

「アメリカのために働く仲間だと思っていたのに、裏切りやがって」

そんな気持ちが込められているのだろう。また、高給取りであることへの嫉妬もあるに違いない。シリコンバレーで働く豊かな人でも、こんな発言をしてしまうのが現実なのだ。

だが結局、ビジネスでありがたいのは「勝てば官軍」だということ。

アメリカ人にとって僕は移民で、多少なりとも差別や区別、つまり「異なる扱い」を受ける。だからこそ、こんなにも考える機会が与えられるし、その逆境をバネにして死ぬほど頑張れるという側面もある。

僕はアメリカが大好きだ。この国アメリカでは、移民でも、成功する可能性が十分にある。僕たちはずっと、そんな世界でチャレンジをしているのだ。

(記事終わり)

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You do have a California Soul!
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連続起業家。1社目を米国Googleに売却。2社目のフラクタを栗田工業に売却(現在も同社CEO)。カリフォルニア州メンローパーク在住。Newsweek誌『世界が尊敬する日本人100』に選出。渋谷のカフェオーナー@menloparkcoffee

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