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014:若き外国人のアメリカ|クレイジーで行こう!第2章

キャンピングカーで寝泊まりしながら働く

若いからこその大胆さ、勇敢さというものがある。フラクタのメンバーと話していて、久しぶりにその感覚を思い出した。彼ら、彼女たちの、希望にあふれた「BOLD(大胆)さ」は、一体どこから来るのだろうか。

ある日、フラクタのオフィスの駐車場にものすごく大きな自動車が停まっているのを見つけた。大きなキャンピングカーだ。駐車場の管理人に「あれはうちの車じゃないから、どかしてくれないか」とクレームを入れると、「あの車は、あんたの従業員が停めたものだよ」と言うのだ。

今年の初めにフラクタにジョインした中国人のケビンは、20代の若いエンジニアだ。シカゴから、ここカリフォルニアに越してきた。その引越し方法が実に面白い。シカゴの中古車販売店で買った大きなキャンピングカーで寝泊まりしながら、シカゴからカリフォルニアまで1週間ほどかけて運転してきたというのだ。

このケビン、最初はオフィスのあるレッドウッドシティの近くで安宿を借りていたようだが、しばらくして聞くと、「このキャンピングカーを改造して、ここ(つまりオフィスの駐車場)で寝泊まりしようと思っている」と言う。またおかしな男がうちの会社に入ってきたなと思って、僕は笑ってしまった。しかし、彼はどこまでも明るく真剣だ。

サンフランシスコ・ベイエリアの家賃がバブル並みの高騰を見せてきたことは、ここにも何度か書いている。ワンベッドルーム(1LDK)のボロボロの部屋でも、月に30~40万円ほどの家賃がかかる。家賃としては異常なレベルだ。だから、名だたるIT企業で働く人たちでも、エントリーレベルの給与では、なかなかこの家賃が払えない。

そのため、最近のシリコンバレーでは、キャンピングカーで寝泊まりしながらIT企業で働く人がいるらしいと、噂には聞いていた。ところがまさかフラクタのメンバーにもそれが広がっているという事実に、僕は驚いた。そういう人はシャワーも浴びず、何だか暗いイメージで、悲壮感のようなものが漂っているのだろうと勝手に想像していたが、全くそんなことはない。ケビンは清潔で、底なしに明るいのだ。

将来に希望のある貧しさなら、むしろプラス

週末になると僕は、ケビンを含めたメンバーとよくサーフィンに出かける。ある日、あらかじめ決めておいたサーフポイントへ行くと、波が3メートルほどもある。僕たちのような初心者には高すぎて危険と判断して、別のポイントへ移動することにした。

ケビンが「隣りのポイントまですぐだから、皆で僕の車に乗れば良い」と言うので、5人くらいが濡れたままのウエットスーツでケビンのキャンピングカーに乗り込んだ。後ろの戸を閉めると真っ暗で、大の大人が20分ほど体を小さくしながら車に揺られていく。皆、彼と一緒にいると童心に帰ることができる。

ケビンが運転し、僕は助手席に座る。僕たちはいろいろなことを話した。

ミシシッピ州からイリノイ州のシカゴへ、その後カリフォルニア州に移動してきたケビン。シカゴと言えば、僕とラースさんが出張したとき、僕の部屋だけ予約が取れていなくて「コンビニで本を読んで夜を明かすよ」と言ったことを思い出す。ラースさんはシカゴの治安の悪さを説明し、僕を説得して自分の部屋に泊めてくれたのだ。今思えば、僕はとても無謀で大胆だったんだと思う。

「シカゴの南部は危ないだろう? 話に聞いているよ」

そう言うと、ケビンはなんてことないように言った。

「どの町だって危ないところはあるよ。 気を付けていれば大丈夫さ」

彼の内側にある、大胆な楽観性、前向きな感覚がまぶしく思えた。シカゴのコンビニで夜を明かそうとした何年か前の僕も、こんな風に見えたのかも知れない。

「このキャンピングカーの屋根に、太陽光発電のパネルを付けようと思ってるんだ。そしたら電気代もかからない。GoogleやFacebookで働いている僕の友だちの中には、こんな風に生活してる奴らも多いんだよ」

とにかく楽観的で、楽しそうなのだ。彼の性格はもちろんだが、カリフォルニアという土地の持つ雰囲気が、そうさせるのかもしれない。

今日も希望に溢れる場所、シリコンバレー

僕がアメリカに移住する前、2週間だけアパートを借りて過ごしていたことがあった。その部屋の鍵を渡してくれたのが、アメリカに永住している、年配の日本人女性だった。雑談しながら僕のことを聞かれたので、当たり障りなく答えた。

「シリコンバレーで起業をしようと思っているんです。上手くいくと思っているし、希望も持っているけど、初めて来るアメリカだから、最後にどうなるかはわかりません」

すると彼女は、僕が予想もしないことを言ってくれたのだ。

「大丈夫ですよ。ここはシリコンバレーですから。ここにはチャンスにあふれています。失敗しても必ずなんとかなります。どうにもならなくなったら、別の会社に入ったっていい。とにかく、ここにはチャンスにあふれているんですよ」

その言葉の前向きさに、とにかく衝撃を受けた。僕は日本人としては究極的に楽観的だと思っていたけれど、ここでは、ベンチャー企業などではなく、アパートの鍵を渡してくれる人の方が僕より明るく楽観的なのだ。街ゆく人の隅々にまで、楽観性が浸透している。

それこそが、シリコンバレーのパワーなんだと今は思う。誰かに人生相談をすると「絶対に大丈夫だよ」と返事が返ってくる。たとえ、本人の勇気や才能が足りなくても、それをたきつけて億万長者にしてしまう、無限のエネルギーがある。

今のケビンは、貧しい生活をしているかもしれないが、キャンピングカーに住むことを心から楽しんでいるように見える。それが10年も20年も続くわけじゃない。輝かしい将来がイメージできているから、未来から見れば、今のこの生活が、楽しい思い出になることがわかっているのだ。

日本には残念ながら、そういう雰囲気はないように思う。今の貧しさ云々よりも、「成功する」と思えることが、その人の今と未来を大きく左右する。人間には、希望や光が必要だ。人は「成功する」と思うから成功するのだ。

テクノロジーじゃない、楽観性だ

世界各地で、「シリコンバレーモデル」などと言って、これを真似しようとする動きがある。とりわけ中央政府がこういうことに躍起になる。基本的に応援してるし、大いにやれば良い。それも楽観性の一つだろう。しかし、最もコピーすることが難しいものは、その土地にある再現不可能な歴史であり、またその土地に住む人たちが醸し出す雰囲気とも言うべきもの、シリコンバレーであれば極度の楽観性に他ならない。

もともと半導体産業が成功し、そのあとにパーソナルコンピューター、インターネット、ソーシャルネットワークと、ここには連綿と続く成功の歴史がある。楽観性があり、ノリがよく、誰もが成功すると信じられる。あらゆる場所から集まった人たちが、アメリカンドリームを追いかける。その雰囲気が、成功を後押しするのだ。シリコンバレーで「テクノロジー」が果たす役割は、あくまで物語のスパイスに過ぎない。

僕は時折、日本人に向けて講演をしたりすることがある。もちろんベンチャー企業を2社創業して、2社売却しているので、ある種のパターンについても話せるし、その意味でコンテンツというものも多少はある。しかし、おそらく本当に大切なのは、コンテンツ自体というより、ある種のエネルギー、前向きさ、楽観性のようなものだろうと思っている。こういう底抜けに明るい人間と接することで、自分の将来に「希望」を持てること。それが一番大切なことのように思う。

ケビンを見ていて、そんなことを考えた。

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You do have a California Soul!
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連続起業家。1社目を米国Googleに売却。2社目のフラクタを栗田工業に売却(現在も同社CEO)。カリフォルニア州メンローパーク在住。Newsweek誌『世界が尊敬する日本人100』に選出。渋谷のカフェオーナー@menloparkcoffee

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