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021:才能があっても解雇に|クレイジーで行こう!第2章

日本のメンバーと意見が合わない

フラクタの製品を大きく変えるために活躍してくれたのが、マイク・リアンだ。

エージェントがスカウトしたのでもなく、有名な会社にいたわけでもなく、僕がメンロー・パークのレストランで見つけた原石だった。

彼が率いたプロジェクトホエールは、製品ローンチを目前にしていた。マイク・リアンは、粉骨砕身とてもよくやってくれた。驚くべきスピードで昇進したあとも、まさに寝る間も惜しんで働いていた。僕から見ても、正気の沙汰ではないと思えたほどだった。

プロジェクトホエール内の機械学習アルゴリズムは、日本人のチームがその中核を担っていた。いいアルゴリズムができているが、設計思想の部分で、マイクの思想と、日本人の開発チームがぶつかってしまうことがあった。

アルゴリズムがほぼできているにもかかわらず、製品とのつなぎの部分でどうしてもわかりあえない。日本チームはつたない英語でやり取りしなくてはならないから、弁が立つマイクにやり込められてしまう。ミーティングでは毎回言い合いになり、平行線をたどるような状況を何度も経験した。

マイクは頭がよく、反骨心も強い。人工知能はこうあるべきという譲れない一線があり、情熱のままに発言する。その結果、日本人のチームをコテンパンにしてしまうのだった。とても感情的になっていたし、もしかすると、日本チームに対して猜疑心を持つこともあったのかもしれない。

そんな中、事件は起きた。

マイクが日本チームに対して、「それは、アメリカ人と日本人の違いだ」といった趣旨の発言をするようになったのだ。ここアメリカで、人種の違いを理由にした言論は、なかなか対処することが難しい。会社の内規違反となる可能性も高く、アメリカ人の会議参加者も、不快感をあらわにする。どんなに優秀でも、会社に貢献していても、作った製品が優れていても、こうしたことを厳格に罰さなければ他のメンバーが黙っていないのだ。

僕は頭を抱え、人事のマリッサともたくさん話をした。彼女は「許すべきではない」と言う。つまり、解雇すべきということだ。

イノベーションの片側を支えているのは狂気

才能のある人が活躍できるのがシリコンバレーだ。一般には受け入れがたい感覚をもっていて、だからこそシャープで精度の高い製品を作り上げる。

マイク・リアンは母子家庭で育ち、おばあちゃんに面倒を見てもらっていたという。中国で生まれ、小さいころにアメリカに移住してきた。今よりももっとアジア人に対する差別がある時代だし、イリノイ州のシカゴといえば、尚更だったかも知れない。差別以外にも、いろいろな不自由を経験してきたに違いない。

スティーブ・ジョブズも養父母に育てられている。13か月でナスダックに上場したNetscapeを創業したジム・クラークも、母子家庭だった。

僕も母子家庭で育った。そういう部分が感性を豊かにしたと思う。ものごとをよく観察する特性みたいなものがあり、マイク・リアンにも同じものを感じていた。

僕とマイクに違いがあるとしたら、僕が母から無限大の愛情をかけて育ててもらったことだろう。だからこそ、狂気を感じる人に共感をする部分を持ちつつ、自分自身は安定していられる。一方でマイクには、ある種の不安定さを感じることが多かった。人に対して猜疑心があり、自分を虐げるものに対する反発心が強いのだ。

才能がある人は、とても偏っている。だからこそ、法律や常識をあてはめようとすると八つ裂きになってしまうことがある。僕自身も社会性があるほうではないが、それでもなおビジネスの世界を渡っていけるくらいは持ち合わせていると思っている。マイク・リアンのような突き抜ける才能は、時に常識外れと隣り合わせなのだ。

高速道路に乗る準備ができていなかった

毎朝恒例のコーヒーを飲みながら、ヒデに相談する。

「なんとかならないだろうか。マイクはとても反省しているし」

例えば、彼を降格させ、給料を半額にしたらどうだろうか。こんな悲劇が二度と起こらないように仕組みを変えて、彼の才能を活かす方法はないだろうか。そう話しながら、マイク・リアンの言葉が頭の中をこだまする。

「ずっと独りぼっちだったけど、フラクタに出会えてよかった。レストランで加藤さんに声をかけてもらって本当に感謝している」

彼の才能と、許されざる差別的な発言。どうやっても混じり合わないものを僕たちは抱えてしまった。

一般的な日本の会社なら、10年も20年もかけて部長になり、常務になり……と昇進していく。毎日髪が伸びていることに気が付かないように、少しずつポジションに慣れていくのだろう。でも、僕たちベンチャーは、マイク・リアンは、それを数か月でやってしまうのだ。そこにはもしかしたら、強烈な副作用があるのかもしれない。

瞬く間に権力や所得を手に入れ、初めて会社のチーフになったマイク。多少横柄になった部分があったとして、その責任はすべて彼にあるのだろうか。いや、そうではない。彼をスピード昇進させた僕にも責任があるだろう。

軽自動車が思いのほかスピードを出せるからといって、ハイオクを積んで、高速道路に促したようなものかもしれない。アクセルをベタ踏みしなくてはいけない状況に追いやり、その結果、交通事故を起こしてしまった。

シリコンバレーは、そういった事例にあふれている。学生が起業してサービスが話題になると、「お前ならスーパースターになれる」とお金のある人たちが集まってくる。20代そこそこの学生を夜な夜なパーティに連れていく、みたいなことが起こるのだ。そこでダメになる人もいるし、突っ走る人もいる。才能のある人たちを、周囲がやみくもに加速させようとするのだ。僕は、マイク・リアンを加速器に載せるタイミングを誤ったのかもしれなかった。

3日間悩み抜きいろいろな策を練ったが、どれも実現は難しそうだった。僕は、マイク・リアンと話をし、会社を辞めてもらうことになった。

今でも、それが一時期だったとしても、彼がレストランのウェイターだったことは信じられない。ソフトウェアに対する高い感性。1分1秒を早めること、1ドルを下げることへの執着心。ずっと続く集中力……。マイク・リアンは、フラクタで活かせる才能があるのにも関わらず辞めてもらうことにした、はじめての人だった。

マイク・リアンは、退職の日、僕に一通のメッセージをくれた。

そこにはこう書いてあった。

「加藤さん、これまで色々とありがとうございました。これまでの人生で、僕は寂しい思いを抱えて生きてきました。しかし、あなたのような友人に会うことができて、僕は本当に嬉しかった。フラクタで働くことがあまりにも楽しすぎて、時間を忘れました。自分にとっては、長い夏休み(ロング・バケーション)のような時間でした。フラクタは素晴らしい会社です。またいつか、いつかきっと、一緒に働きましょう」

僕はこの先の人生のどこかで、マイク・リアンとまた一緒にベンチャーをやる日が来る気がしている。会社を去った彼は、今どこにいるのだろう。僕と彼の人生は、あの瞬間、確かにシンクロした。生まれも育ちも別の場所ではあるものの、彼という人間と僕が会うことは必然だったような気がした。不思議で濃密な時間を一緒に過ごした。

ここから、フラクタは立ち上がらなくてはならない。もし、復元力を持って立ち上がることができたら、フラクタはどこまでも進むだろう。新しい製品は、マイク・リアンが2月にプレゼンして、驚くべきスピードで完成させたものだ。ものすごくいいものができた。

彼は、今のフラクタにどうしても必要な人材だった。瞬く間にやり遂げて、そして惜しまれつつ去っていった。

日本ではありえないが、それがシリコンバレーなのだ。

そしてそのすぐあと、僕たちはトムという才能に再会することになる。

(記事終わり)

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連続起業家。1社目を米国Googleに売却。2社目のフラクタを栗田工業に売却(現在も同社CEO)。カリフォルニア州メンローパーク在住。Newsweek誌『世界が尊敬する日本人100』に選出。渋谷のカフェオーナー@menloparkcoffee

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