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007:母に誓う、「女性差別」との闘い|クレイジーで行こう!第2章

警備員や、寮のコックさんに気に入られる

日本に住んでいる人はあまり感じないかもしれないが、アメリカに比べて、日本の男尊女卑はまだまだ根強いと思っている。かたやアメリカは……という話をする前に、昔から、あらゆる物事に対してフラットに生きてきた僕の経験を少しだけお伝えしたい。

新卒で東京三菱銀行に入行してから、エリート銀行マンとはたいして仲良くなれないのだが、警備室の警備員の方や、住んでいた寮のコックさんとはとても仲が良かった。自分で言うのも何だが、とにかく好かれる。寮に帰宅すると、なぜか僕だけステーキの枚数が1枚多いなんてことがよくあった。銀行では、警備室でよくサボり、寮のコックさんの部屋で、コックさん、奥さんと一緒に、ワイン片手にクリスマスパーティーをやった。

アメリカでも同じで、レストランのウェイターにもフラットに接するからか、すぐに名前を覚えられる。いつも、「おいおい、一回しか来たことないのに、何でそんなに喜んでくれるんだ」なんて思うのだが、これが毎回続くと、自分のキャラクターが影響していると考えざるを得なくなる。理由を真面目に考えるに、誰に対しても明るく接するし、とにかく差別なく、同じ目線で相対するからだと思っている。

銀行時代には、パートとして働く女性が行内に何人もいた。同僚に接するのと同じように話していると、上司に呼び出され注意をされた。残念だが、その人の発言は女性に対する差別意識に溢れていた。大企業のサラリーマンは、「さすがに今の日本でそこまでのことはないですよ」と言うかも知れないが、僕は全く信用していない。日本はアメリカより20年遅れだ。間違いない。差別とは空気のようなもので、実に根深いものなのだ。

エクストリームな女性「逆差別」はなぜ

アメリカ、特にカリフォルニアでは、女性差別というものを、ものすごく深刻に捉えているし、それに対してどこまでも正しいアクションを取っているように思う。例えば、女性を低く見るような発言をしたら、周囲の全員に眉をひそめられ「お前は差別主義者か」という目で見られるだろう。多くの人の眼をもってして、社会全体の圧力が、社会を正しい方向に保たせている。

フラットな文化が実現したのは、ひとつに教育の効果がある。幼稚園(保育園)や小学生の頃から、男女をイコールに扱う教育が徹底しているのだ。

もうひとつは、間違いなく訴訟だろう。女性が「差別された」と訴え、企業側が敗訴したら膨大な金額を支払うことになる(そして企業は結構な確率で敗訴する)。これで会社の評価や評判が落ちるだけではなく、数億円位での損害賠償を支払うことになるのだ。だからこそ、女性蔑視の発言に対してとてもセンシティブだし、セクハラに対してはなおのこと。社会全体で抑止し、均衡を取ろうとしているのだ。 

一方で、僕がもともとフラットな考え方だからかもしれないが、やや不思議に思うことがある。

アメリカでは、解雇が日本ほど重くないのは以前も書いたとおりで、給与に対して能力が追い付いていなければ、自由に解雇できる。その際、訴訟されないようSeparation Agreementという契約を結び、会社からお金(要は「手切れ金」だ)を支払う場合がある。給与1か月分~1年分程度と幅があるが、弁護士と相談して妥当だと思う額を決める。

この5年間会社を経営してきてさまざまな場面に遭遇したが、女性が辞める時には相手から金額の積み増しを要求されるケースがほとんどだった。男女をフラットに捉えているとなかなか理解できないところだが、アドバイスに当たる弁護士はだいたい「要求を飲んでおいた方がいい」と言う。

「加藤さんがセクハラや女性差別をしていないとしても、『女性だから解雇された』と訴訟される可能性があります。カリフォルニアは特に従業員の立場が強いため、先方についた弁護士の手腕によっては、身に覚えがなくても女性差別だと認定される場合もあるでしょう。念のため、積み増しておくのがセオリーです」

僕は母と姉、それから僕といった3人だけの母子家庭で育ち、その最愛の母を大学3年生のときに亡くしている。僕が今ここにいるのは、まぎれもなく2人の女性のおかげであり、根っから、女性に対するリスペクトは強い。だからなのか、起訴される可能性を鑑みて通常より多く支払うなんて、むしろ女性を貶(おとし)める発言に感じてしまうのだ。

ただ、過去にひどく差別されていた歴史があるからこそ、法律をかいくぐったほんの少しの汚れも見逃さないよう、徹底的にやるしかないのだろうと今は思う。アメリカにおける「時代遅れで女性蔑視のおじさまたち」を「シロアリ」に例えるならば(失礼!)、シロアリ駆除のように、たった一匹も見逃さない姿勢が必要なのだ。そのように捉えてから、多少は納得がいくようになった。

黒人や女性を雇用しづらい心理が働く可能性も

フラクタでは以前、アイリーンという黒人女性を雇用していた。書籍『クレイジーで行こう!』にも書いた、スタンフォードで博士号を取ったとても優秀な人だ。技術の分かる製品開発マネージャーを目指したいからと、プログラミングをさらに学ぶため会社を辞めた。とても前向きでいい辞め方だったし、僕は個人的に、今でも連絡を取り合っている(家が近いので、散歩してるとたまに会うので、話をする)。

ところが別の見方をすると、彼女はアフリカンアメリカンの黒人女性だ。もし、彼女を解雇しなくてはいけない状況が起きていたら、弁護士は過剰に反応したに違いない。そう考えると、何とも不思議な気持ちになる。彼女はお金の積み増しを要求する人などでは絶対ない。そして、こちらも彼女に対して差別的な気持ちがみじんもないのに、弁護士からは、まったく意図しない方向から心配事を投げつけられるのだ。

とはいえ僕自身、古い固定観念に縛られていたと思うケースがある。以前、インド人女性の応募者を、採用面接の当日まで男性だと勘違いしていたことがあった。アメリカでは、採用時に年齢や性別を聞いてはいけないことになっているため、履歴書に書かれたエンジニアとしての優秀な経歴を見て、きっと男性だろうと思い込んでいた。驚きとともに、女性に対する考えを恥じ、反省した一件だった。

ただ、結局は面接をするので性別や肌の色はわかってしまう。解雇する際の訴訟や高額の支払いで痛い目を見た会社は、もしかすると、次の採用では慎重になるかもしれない。訴訟回避の観点から、「40歳以上」「黒人」「女性」を採用するのはリスクだと言う人もいる(もちろん僕は反対だ)。マイノリティの人たちに対して、過剰反応を示している時点で、どうやら本当にフラットな社会の実現というのは非常にやっかいなものであることが分かる。

違和感や懸念はあるものの、僕の会社では今後も、「40歳以上」「黒人」「女性」といったことを気にせず、フラットに採用を進めていくことに変わりはない。とにかくそういうこと(学歴や職歴、肌の色や性別)に興味が無いのだ。僕はただ、情熱のある人と働きたいし、情熱のある人が欲しい。それだけだ。

フラットな社会を少しずつでも実現させるために

アメリカとは逆の方向で、日本での女性活躍推進にも違和感を覚えざるを得ない。日本の大企業で、「初の女性役員が誕生!」などといったニュースを見ると、むしろ「これまで我が社は差別的でした!」「我が社の根底は、男尊女卑(だんそんじょひ)という理念で成り立っております!」と大声で演説しているようなものだなと思い、滑稽(こっけい)で笑ってしまう。

また、外部から社外取締役招聘の必要性に迫られた上場企業などで、他の「おじさま」幹部たちを持ち上げてくれる女性を選ぶ企業が本当に多い。「事なかれ主義」と「予定調和」を分かってくれる女性を役員として選定する。これでは取締役会における本当の議論など、望むべくも無い。もちろん、実力でリーダーになる女性はたくさんいるが、実力勝負でない人選(残念だが、それは見れば分かる)を目にすると残念な気持ちになる。

ただ、嘆いているだけで社会は変わらない。個人的に運営している渋谷二丁目のメンローパーク・コーヒーでは、能力のある女性が多く活躍している。最大限の裁量を与えており、自由にお店づくりを任せ、儲かった分はボーナスとして受け取ってもらう。つまり、フラットで完全実力主義の環境を作っているのだ。

僕は経営に口を出すのではなく、知識を惜しみなく教える。客数や客単価の考え方、プロモーションの仕方、改善方法などを日々伝えているのだ。これは見方を変えれば、僕にとって、亡き母に対する恩返しのようなものだ。枯れることのないバイタリティと知性、無限の愛嬌を持っていた母。あの母にして、この息子ありなのだ。

1言えば10分かってくれる。世の中の差別や偏見について、子供に対しても誠実に事実を伝える。お勉強ではなく、社会の本質を教える。どこまでも自主性を重んじ、勉強だろうがスポーツだろうが、一言も口を出さない。判断軸は「それがフェアかどうか?」。フェアじゃないなら、最後まで闘う。絶対に泣き寝入りはしない。

母から教わったことの大きさは計り知れない。最近、社会変革を実現するためには、2世代かかると言い続けている。無限の知性とバイタリティを持ちながら、女性として生まれ、死んでいった母。その思いは今、僕の中にある。それを今、メンローパーク・コーヒーを通して、女性スタッフに、またカフェを利用するお客さんに還元しているつもりだ。

理想主義を掲げているだけでは何も変わらない。行動がすべてだ。ほんの小さなカフェかも知れない。しかし、自分のお店で公平性を実現し、日本の制度や文化を草の根的に変えていけたらいい。人工知能もロボットも関係のない、とてもアナログなビジネスで、女性の地位を向上させようと、僕は日夜真剣に取り組んでいる。

これが、僕なりのやり方であり、母親に対する恩の返し方なのだ。

(記事終わり)

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連続起業家。1社目を米国Googleに売却。2社目のフラクタを栗田工業に売却(現在も同社CEO)。カリフォルニア州メンローパーク在住。Newsweek誌『世界が尊敬する日本人100』に選出。渋谷のカフェオーナー@menloparkcoffee

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