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013:フラクタが訴えられる?アメリカでゲリラマーケティング始まる|クレイジーで行こう!第2章

拝啓フラクタ様、あなたを訴えます。

数週間前、ある民間水道会社の顧問弁護士から手紙が届いた。

「このキャンペーンを取り下げていただけない場合、フラクタ社に対し、法的な手段に訴えることも、選択肢として検討しております」

僕はそのレターが届いたときに「YES!!」と叫んだ。ねらい通りだ。テクノロジーを使って世の中を動かすための仕掛けが、やっと動き始めた。

フラクタがそのキャンペーンを打ったのは、アメリカのとある街。その街では、かつて公営の水道局が民間の水道会社に買収され、その後、水道料金がどんどん値上がりしていた。ついには1家庭の平均水道料金が月に5万円を突破し、日本の約10倍にもなっていたのだ。

アメリカの民間水道会社のいくつかは、市民との間に大きな問題を抱えている。彼らは何か理由を付けては水道料金を上げようとする。「配管が古いので、念のため交換します」「貯水池が必要なので、新しく作ります」と、分かったようで分からないことばかり言うのだが、その裏では、「そのためには、投資が必要です」「そのためには、水道料金を上げる必要があります」と言って、どんどんお金を使い、それを水道料金という形でどんどん市民に付け替える。こうして膨れ上がった水道料金から、彼らは「年間8%にもおよぶ利益」を取っていく。傍目(はため)から眺めていると、単なる「釣り銭詐欺」にしか見えない話なのだが、実際にはこういうことがまま起こっており、いくつもの地域で市民との訴訟問題に発展している。

水道料金が値上がりすると、当然ながら市民は黙っていない。やがて「こんなに水道料金が上がってしまったら、市民生活が成り立たない。これは民営化の弊害だ。もう一度この水道会社を市で買い戻そう」という動きが始まる。ところが、既に水道料金がパンパンに膨らんでいるため、地域の水道料金を合計した金額である水道会社の「売上」や、さらにそこから換算される水道会社の「企業価値」も上がっていると民営水道会社は主張する。こうして、市が200億円で民間に売却した自分の水道会社(水道局)を、なぜか500億円で買い戻さなくてはならないという事態が発生する。住民たちのライフラインが、マネーゲームに使われている。

※アメリカ水道産業の闇については、新潮社フォーサイトの連載記事に以前まとめて書いた。ジャーナリスティックな視点からこういうことに興味がある読者の方は、こうした記事を参照してもらいたい。

こうした事態を黙って見ているのではなく、フラクタのテクノロジーをうまく使って市民を助けられないだろうか。僕たちはいつもそんなことを考えていた。

水道会社から一切データをもらわず、水道配管をマッピングする

ここに、僕たちがずっと開発を重ねてきた、ある技術がある。水道局から一切データ(水道配管に関するデータ)をもらわなくても、彼らの水道配管が埋まっている場所、それを埋めた時期、また現時点における劣化の度合いが予測できるという、夢のようなテクノロジーだ。思えば3年前、共同創業者のラースさんと雑談していたときに出てきたこのアイデアが、3年の時を超えて、最近、やっとソフトウェアとして実装された。

こうした技術を使えば、アメリカの水道会社周辺で巻き起こっている社会問題解決の手助けをすることができるのではないかと、僕たちは思った。

フラクタは、アメリカにある5万3000社という水道会社が保有する合計100万マイル(160万キロメートル)もある水道配管に関して、既に6%以上の情報を分析し終わっている。イギリスでも大型の水道会社が保有するデータを分析してきたし、日本でも大型・中型の市区町村が保有するデータを大量に分析している。こうした過去の経験から、地図上のどこに水道配管が埋まっており、どんな状態であるかを推定するアルゴリズムが完成する。

このテクノロジーを使えば、たとえ僕たちとまだ契約をしておらず、水道配管のデータを受領していない水道会社に対してであっても、「あなたの街の水道配管はここに埋まっていて、こんな状態だと推定できます」と、かなりの確度を持って説明できるのだ。この技術のミソは、「水道会社から配管データをもらわなくても」というところだ。裏を返せば、勝手に分析を始めることができてしまうということなのだ。

僕たちが販売している水道配管の劣化分析ソフトウェアは、水道会社が相手だからこそ、販売に時間がかかる。アメリカの水道会社というのは、地域の独占企業であるという特性もあり、そもそも極端に行動が遅い。日本人が社長をやっている、吹けば飛ぶよなベンチャー企業がアメリカ5万3000社にこうした技術を導入することは、一筋縄でいかないことは経験済みだ。一方で、上記のような問題が、毎日のように、アメリカの水道会社周辺では巻き起こっている。点と点を繋げられないだろうか?やがて、僕たちはあるアイデアを思いついた。

市民が水道会社にフラクタを紹介する仕組み

僕たちのアイデアはこうだ。ターゲットとして設定する、ある街のパイプ情報(地図上にマッピングされた情報)を市民に無料で公開して、劣化が激しく漏水のリスクが高いと推定される水道管を赤く示す。エリア内に住んでいる人たちがそれを見て、「家の近くの配管が真っ赤になっているが、どうなっているんですか?」と、水道会社に問い合わせをするという算段だ。ゲリラ・マーケティングとはこのことで、水道会社は僕たちの存在を市民からの紹介で知ることになる。

かくしてこうした活動のパイロットプロジェクトとして、「Save Water Now」というキャンペーンがスタートした。フラクタのCFOであり、また僕の友人でもあるカオルをリーダーに据え、キャンペーンのウェブページを作り、そのエリアに住む人たちに向けてFacebook広告をバンバン打っていった。

しばらくすると、僕たちの狙い通り、市民から声が上がり始めた。水道会社には問い合わせが相次ぎ、無事、冒頭のレターがフラクタの本社宛に届いたというわけだ。ただでさえ市民と色々と問題を抱えているのだから、あまり市民を刺激しないで欲しいということだった。

歓喜する僕を尻目に、フラクタの法務部門トップを務める社内弁護士のジョーダン・ブレズローは、珍しく重々しいトーンで電話会議に参加してきた。彼は3年ほど前からフラクタの法務部門トップを務めてくれている。シリコンバレーを中心に、アメリカで4社を上場に導いた超有能な弁護士だ。日本でもベストセラーとなった『Who You Are』(日経BP社刊)や『HARD THINGS』(同じく日経BP社刊)の執筆者であるベン・ホロウィッツがCEOをやっていた会社オプスウェア(旧ラウドクラウド)で法務部門トップを務めた。ホロウィッツの書籍2冊の中にも、ジョーダンとの思い出話が出てくる。

ジョーダンは、一言で言えば「志の高いヒッピー弁護士」だ。耳にピアスは開いてるし、ロックバンドでギターを弾いて、バイクで遠出をしながら、その途中で仕事をする。自分の信じたことしかやらない、まさに信念の人。上記の『Who You Are』で彼は、CEOであるホロウィッツが「違法ではない方法で、うまく会計処理をすれば(企業価値)評価を下げずに切り抜けられる。ウソをつくわけじゃない」という考えを思いついたとき、「ウソじゃないかもしれないが、真実と違うことが世間に伝わる」と、そのやり方に毅然と反対したのだった。ジョーダンは法の番人というより、「企業倫理の番人」と言っていい。僕が東京渋谷でやっているカフェ「メンローパーク・コーヒー」のコンセプトを、僕と一緒に考えてくれた、僕の大切な友人でもある。

会社のメンバーもジョーダンのアドバイスを心から信頼している。彼が、「この水道会社は、フラクタを訴える可能性があると言っている。まあ、訴えるといっても大事にはならないだろうが、やっかいなことであることも事実だ」とネガティブな発言をすると、一緒にキャンペーンを動かしてきた他のメンバーも緊張の面持ちでそれに聞き入った。「会社のレピュテーション(評判)が下がってしまうのではないか」と懸念を表明するメンバーもいた。電話会議が始まる前から、ヒデも「ジョーダンが心配そうにしている」と気にしていた。

僕だけが、なんだか違う気持ちでいるみたいだ。

僕たちが救うべきは水道局じゃない。その先の市民なんだよ!

「ジョーダン。心配することなんてないよ。今回の件は、何度も考えたけど、やっぱり良いことしかない。昔から僕は、水道局を救うとは言っていないじゃないか。市民の生活と、生活のためのお金を守るんだよ。名もなき市井の人たちが苦しんでいる。その人たちを救うためなら、僕がCEOとして訴えられるなんてことは、どうでも良いことなんだ!」

僕はジョーダンに訴えた。ジョーダンにも相談しながら進めてきた今回のキャンペーンは、本当に意義のあることなのだ。それを改めて伝えなくてはならなかった。

「水道産業の中で、マネーゲームに付き合わされて、ズタズタにされるのは、いつも市民の人たちなんだ。僕は、自分の会社の技術に自信を持っている。地下に埋まった配管の状態をこんな風に予想できるのは、世界で初めてのことだ。住んでいる人たちが目にすれば、水道会社が何をしているか、明確に気づくことになる。アメリカで最も高い水道料金を払わされている人たちが、自分の家の前が真っ赤になっている様子を見て声を上げるんだ」

「これは、始まりなんだよ。住民を救う第一歩なんだ。ジョーダン、これこそが本当の意味での社会正義なんじゃないか?僕たちは何も悪いことをしていない。テクノロジーを使って推定したデータを、勝手に公表しているだけなんだから」

僕が熱弁をふるい、しばらくの沈黙が流れた。改めて話し始めたジョーダンのトーンは完全に変わっていた。彼は、僕の言わんとすることを、きちんと受け取ってくれたのだ。

「加藤さん、分かったよ。加藤さんの気持ち、フラクタのやりたいことは分かった。僕が上手くレターを書こう。相手に対して不愉快な思いをさせたことは真摯に認め、水道料金の問題を指摘する。市民の人たちを救うために、フラクタのテクノロジーを提供したいと提案しよう。どのみち、僕たちがやっていることは、金儲けが目的ではないんだ。コミュニケーションを取ってみるよ」

僕たちがやったことは、社会通念上、マトモなことだったのかどうか分からない。ゲリラ・マーケティングであることは事実だし、またやり方がやや活動家的であったことも事実だ。しかし、こうしてシリコンバレーでその名を知られる企業倫理の番人、ジョーダン・ブレズローが納得し、言葉を返してくれたことによって、今まで心配そうにしていたメンバーの表情が、一気に明るくなった。

僕はその様子に、組織というものの「あるべき姿」を見た気がした。漠然とした不安というものは、人の心をむしばんでいく。そして、不安を払しょくするのは、決してお金などでなく、希望やビジョン、大義のようなものだ。それがあれば、僕たちの目には力が宿る。いつか共同創業者のラースさんともそんな話をした。僕は、その会議室に集まった面々を見つめ、創業期のフラクタに近い空気を感じていた。

ジョーダンが書いてくれたレターを、カオルとヒデが水道会社に届けに行った。今のところ、水道会社とのコミュニケーションは上手くいっている。日本人が作った会社が、アメリカの水道市場を落とす。普通のことなんてやってたって、成果なんて出るはずない。欲しい物を手に入れたけりゃ、人生を賭ける。僕の人生のルールは、昔から何も変わっていない。僕たちの冒険は、まだ始まったばかりだ。

(記事終わり)

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