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なぜデジタルマーケティング会社が気候変動問題の解決をビジョンに掲げるのか

ついに日本政府が温暖化ガス排出の2050年実質ゼロ宣言をするようです。と書いていたらちょうど所信表明演説で宣言されました。

道のりは大変だと思いますが、未来志向のチャレンジであり応援します。菅さんがんばれ。そしてこれを実現するのは全企業、全国民のチャレンジだと思います。EUも中国も既に宣言しており、アメリカも大統領選挙で大方の予想通りバイデンが勝った場合は同様に宣言するだろうと思われ、国際社会に押されてという印象はぬぐえないものの、とりあえず後ろ向きな姿勢であり続けたところから前向きな姿勢に転じられて良かったと思います。

ちなみにこの記事では気候変動・温暖化の現実や危機については特に書きませんので、その辺りに自信がない、疑問がある方は、国立環境研究所の江守さんの動画がとても易しくまとめられていてお勧めです。

日本中のクリエイターの力で、気候変動・人口減少を中心とした社会課題解決へ貢献し、持続可能社会への変革をリードする

弊社メンバーズでも、2030年をゴールとした長期ビジョンであるVISION2030において、「日本中のクリエイターの力で、気候変動・人口減少を中心とした社会課題解決へ貢献し、持続可能社会への変革をリードする」ことを掲げています。このビジョン・ステートメントにはいくつかの要素・想いが組み込まれていますが、今回は気候変動についてのみ取り上げます。

もちろん気候変動という大きな問題を僕らだけで解決できるなんて1ミリも思っていません。だからステートメントでも「~解決へ貢献し~」と書いていて、解決するとは書いていない。政治的な規制や税制などのアプローチが圧倒的に重要だろうし、科学技術的なイノベーションも非常に重要だろうと思います。しかし、じゃあ人任せ、政治任せでいいかと言うと、そんなはずもない。政治が変わるのも企業が変わるのも、国民・消費者の後ろ盾が必ず必要です。気候変動問題を解決するにはこの10年が勝負だと言われていますので、現代を生きる大人、特に先進国に生きる大人全員の将来世代に対する責任だと思っています。そしてそれぞれの人がそれぞれのポジションでできうる行動をすべきだと思います。

では僕らはその責任をどう果たすのか。ちっぽけなデジタルマーケティング支援企業のメンバーズにそんなに貢献できることがあるのでしょうか?私はメンバーズはかなり重要なポジションにいると思っています。

広告マーケティング業界の責任

まず広告マーケティング業界について考えてみたいと思います。温暖化とは産業革命以来、人間の活動、特に化石燃料の使用によるCO2を中心とした温室効果ガスの排出が非常に増加してしまったことが原因であり、その背景には大量生産・大量消費・大量廃棄の消費社会があり、経済成長・経済効率を最優先に追い求める資本主義社会があることは否定のしようがないことだと思います。そしてその大量消費・大量廃棄を煽り、消費主義的な価値観を広めるのに大きな役割を果たしてきたのが広告マーケティング業界と言って過言ではないでしょう。私自身、資本主義の恩恵を大きく受けているのでそれがダメだと言うつもりはありません。しかし今のままでは持続可能ではないことも明らかなので、システム、価値観の転換が必要です。もしこの時代においても広告マーケティング業界がサステナビリティを無視して、大量消費・大量廃棄の消費主義思想を煽り続けるのならば非常に罪深い業界だとのそしりを免れません。私は自分自身そういう罪深い、責任のある業界に身を置いているのだと考えています。

マーケティングは人の心を動かすもの

逆にその大きな力を持ったマーケティングのあり方を変えられたらどうでしょうか。マーケティングとは一般的には売上を上げるため、人々に購買させるための手段、技術と捉えてられていると思いますが、別の言い方をすれば人の心を動かすもの、人々の態度変容・行動変容を促すものと捉えられると思います。マーケティングがどのように売上を上げようとするかというと、よく言われるAIDMA(アイドマ)やAISAS(アイサス)のモデルに代表されるように、人々の興味関心を引き、ニーズ・欲求を引き出し、行動をさせるわけです。その最後の行動というのがマーケティングの場合、基本的には購買という行動を促すのですが、その技術を応用すればもちろん別の使い方もできます。例えば選挙活動であったりとか、献血への協力であったり。であるならば、人々がより気候変動に対して積極的に行動するようになる、気候変動に対して積極的な政権・政策を支持するようになる、そして気候変動対策に積極的な企業や商品・サービスを支持するようになる、というような態度変容、行動変容もマーケティングの技術を使って可能になるはずだと考えています。

環境では売れない、とよく言われます。それはそうでしょう。今まで散々、もっと安く、もっと速く、もっと便利に、もっとおいしく、もっとかわいくキレイに、もっとラグジュアリーに、もっと新しいものを、もっとたくさん、もっともっと、、、と消費主義的な価値観を広めてきた企業が急に「環境にいい」とか「地球にやさしく」とかちょっとくらい言ったって売れるわけがない。もちろん消費者の一部ではエシカル消費のような動きも出てきていますし、世の中は基本的にはそっちの方向に動いていると思われますが、現状ではその動きは気候変動の危機に対しては非常に歩みが遅い。では企業は環境では売れない、消費者は環境に興味がない、と言って消費者のせいにして、消費者が変わるまでは自分の行動を変えなくていいのかと言うと、もちろんそんなわけもない。ではどうしたらいいのかというと、消費者が気候変動対策に積極的な企業、商品・サービスを支持し、購入するように、企業がマーケティング活動で消費者の態度変容、行動変容を促すべきだと思います。消費主義的な価値観を広めてきた従来のマーケティング活動と同レベルで。

RE100という自社の事業活動の使用電力を100%再エネ化しようと宣言している企業も非常に増えてきていて、2020年9月末現在で日本企業で39社が参加しています(世界では255社)。リストをご覧いただければ分かるとおり、錚々たる大企業群です。

しかしこれらの企業が、気候変動対策に積極的だからという理由で消費者から支持されているか、売上が上がっているかというと、やはりほぼそうなっていないということがこれらの企業から多く聞かれる悩みです。しかしこれらの企業が気候変動対策で消費者から支持されていないのは「まだ本気出してないだけ」だと思います。環境では売れないと思っているから、再エネ100%は事業活動として取り組むけれども、それはそれ、これはこれと、マーケティング活動とは切り離されていて、本気でそれを自社の価値・強みとしてマーケティングしようとしていないのだと思います。

デジタルマーケティング企業のメンバーズがやるべきこと

とはいえ、急に全面的に従来のマーケティング活動を切り替えることも現実的ではないでしょうから、まずやるべきは、小さくてもいいから成功事例を作ることだと思います。事例を積み上げることでだんだんとより本格的にマーケティングを気候変動対策を価値としたものに変革していく。そしてそれはメンバーズだからこそできること、やらなければならないことだと考えています。

その理由はまず、デジタルマーケティングと社会課題解決の相性の良さです。デジタルマーケティングというと、ビッグデータやアドテクのようにテクノロジーを活用して効率的な売上向上を追求する手段というイメージが強いと思います。そのような一面ももちろんあると思いますが、別の一面を見ればSNSを活用したマーケティングのように企業と消費者の距離を近づけ、情報を透明化して相互理解を深め、お互いのつながり、信頼、エンゲージメントを深めるものでもあります。そして良いことも悪いことも、共感も反感もあっという間に大きくなり広まってしまうのが今のスマホ/SNSの時代であることは、皆さん実感していることだと思います。

顧客を特別扱いして優良顧客化、ロイヤルユーザー化させるようなOne to Oneマーケティングやファンマーケティングに近く聞こえるかもしれませんが、ここで言いたいのはそうではありません。消費者がもっと企業の価値観や掲げるビジョン・世界観、社会課題解決姿勢・行動に共感し、そのビジョン・世界観の実現や社会課題解決へ参加してもらう、協力する仲間となってもらうことができる、ということです。例えば、テロ・紛争の軽減のために不正送金被害をゼロにするという取り組みに、ユーザーに参加してもらったみずほ銀行の事例をご覧ください。

このように消費者の便益・欲求のためだけでなく、企業の売上や事業目的の追求だけでもなく、社会の課題に対して真摯に向き合い、行動する企業と、デジタルマーケティングの相性は非常に良いと考えています。

そして言わずもがな、マーケティングにおけるデジタルの重要性は高まる一方であり、デジタルこそが当たり前にマーケティングの中核になります。いま現在、メンバーズは大手企業50社のデジタルマーケティング業務を支援していますが、10年後にはもっとはるかに多くの大手企業のデジタルマーケティングを支援していて、(デジタルに限らず)マーケティング業界においてもっと存在感のある有力なプレイヤーの1社になっているはずです。これは私がそうなりたいと言っているのではなく、論理的な帰結としてそれが可能であると言っています(この辺りはまた別途、詳しく書きたいと思います)。ほら吹きのように思われるかもしれませんが、例えば(コロナ影響で一時的にせよ)サイバーエージェントが時価総額で電通を抜くと考えていた人が10年前にどれほどいたでしょうか。

マーケティング業界で地殻変動が起きているのは間違いありません。次の10年の間にメンバーズはマーケティング業界において大きな存在感のある有力プレイヤーになる。だからこそメンバーズが、消費主義を煽り大量生産・大量消費・大量廃棄の社会を強力に推進してきたマーケティング業界を変える責任があると考えています。

そもそも気候変動問題の位置づけが他社と全然違う

そしてそもそもメンバーズが自社のミッション(存在意義・目的)にCSV(*)の普及を、そして10年後のビジョンに気候変動問題の解決を掲げているからこそ、マーケティングの変革のチャレンジが可能になるのだと思います。
(*Creating Shared Value。社会的課題の解決と企業の利益、競争力向上を同時に実現させ、社会と企業の両方に価値を生み出す取り組み)

多くのマーケティング企業はクライアント企業の売上、ビジネス成果向上が目的です(もしくは自社の利益)。メンバーズももちろんそれをクライアントへの提供価値としていますが、目指すところはそれだけでは足りなくて、CSVや気候変動問題の解決に繋げなくては意味がない。それはクライアントの売上、ビジネス成果向上を妥協して、CSV・気候変動問題の解決を優先するという意味でもなく、クライアントの売上、ビジネス成果向上を可能とするデジタルマーケティングの力を、CSVや気候変動問題の解決の方向にも使うことによって、両方を実現するということです。クライアントの売上、ビジネス成果向上と、CSVや気候変動問題の解決のどちらが難しいと言ったら後者に決まっています。従って目的がクライアントの売上を向上することであるならば、わざわざ難しいCSVや気候変動問題の解決にチャレンジする意味はありません。自社のミッション・ビジョンにCSVの普及や気候変動問題を掲げるメンバーズだけが、その余分とも思える難しいことに真剣にチャレンジできるのだと考えています。

CSV型や気候変動対策のアプローチの方がビジネス成果を向上できるという客観的な理屈やエビデンスは多くはないけれどチャンスはあります。デジタルマーケティングの強い力を持ち、自社のミッション・ビジョンにCSV/ 気候変動問題の解決を掲げるメンバーズだけがマーケティングをサステナブルなものへと変革できるし、そうしなければいけない、という気概をもってチャレンジしています。そこにチャレンジしなければ、自分がこの業界にいる意味もないとすら思っています。
そんなに気張って見せても巨大資本の前にあっけなく敗れ去るという可能性もすごくありうると思いますし、特に傍から見たらそうとしか見えないかもしれないけれども、VISION2030を達成すべく10年間チャレンジしようと思います。


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