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視野検査で毎度悟りの扉を開きそうになる話

持病のため定期的に眼科で視野検査をしています。

といっても実際視野検査ってどんなモノなのか、知らない人も多いですよね。簡潔に言えば、まっすぐ一点を見たままの状態で、周りがどれくらい見えているのかを測る検査です。

私が通っている医院でのやり方は、白くて四角い検査機械の側面が大きくドーム型にへこんでいて、そこに顔を半分突っ込みます。ドーム最奥にオレンジの光る点があるので、それを見つめたままの状態で視野内に別の光がピカッと光ったら手元のボタンを押すってやつです。

初めてやったときは…いやあ。えらい疲れました。いつ別の光がピカッとするのかわからないので身構えていたし、なるべく良い成績を出そうと(←アホ)気張っていたのもあります。
しかしあっという間に慣れ、今では別の問題が起きています。
検査のたびに自分の中の変な扉に飲み込まれそうになるんです。

「はーい。それでは始めますねー。」
という看護師さんの言葉でカーテンがシャッと引かれ、現場にはボタンを握りしめた私とオレンジの光の点だけが取り残されます。
おもむろに機械が「ヴ・・・ヴーン」と小さな音をたて始めると、オレンジの点の周りのどこかでピカッと光る。光ったのが分かったらボタンを押す。

「ヴ・・・ヴーン」
(あ!光った!)ボタンをポチッ

「ヴ・・・ヴーン」
(あ、また光った!)ポチッ

「ヴ・・・ヴーン」
(光った!)ポチッ

「ヴ・・・ヴーン」
(・・・。)ポチッ

繰り返していくと、機械音の後には必ずどこかが光るというリズムが嫌でもわかります。ちなみに被検者は「光ったのが見えた」をボタンで知らせるだけで、「どのあたりが光ったか?」までは答え合わせしません。検査終了後にどの箇所での光に反応できていなかったのかを確認するんですね。

しかし、やはり目に異状があるんですからこうなりますよ。
「ヴ・・・ヴーン」
(はいはい。また光っ・・・は?!光らなかった!音がしても光らないパターンがあるのか?)ブルブル。

この衝撃に耐える間もなく、すぐに次の攻撃が来ます。
「ヴ・・・ヴーン」
(ひ、光った!よし!)ポチッ。

「ヴ・・・ヴーン」
(見えた。待てよ。本当に今のは光だったか?)ポチッ。

「ヴ・・・ヴーン」
(見えた。光った。はず。ボタン押していいよね。でも看護師さんとか「やだー。光ってもいないのに押してる。ぷーくすくす」とか思ってないよね。)押し忘れる。

「ヴ・・・ヴーン」
(光らなかった。見えなかった。でも音は鳴っていたよな。。。このリズムなら光るはずなのに。まさか機械が私をバカにしているのか?)

「ヴ・・・ヴーン」
(見えた。見えた・・・と思う。いやしかし、今までの光とは違った気がする。どういうこと?。別種の光があるとか?)ポチッ。

「ヴ・・・ヴーン」
(見えた。見えたと感じる。しかし本当に光っていたのか。やっぱり機械のフェイント?さっきの光と同種の光だった?おい。まさか心象風景?)ポチッ。

「ヴ・・・ヴーン」
(見えた。見えるってなんだ?見るってなんだ?このリズムに呑まれて、見えてもいない物を見たと勘違いしているのでは?思い返せば変な光じゃなかったか?)ポチッ。

「ヴ・・・ヴーン」
(見えた。光った。でもあの光が、本当に光ったんだとどうやって証明する?私の心象風景ではないとどうやって証明する?同じものを他人が見て「光っていない」と言われたとき、自信をもって「光っていた」と言えるのか?その自信があるのか?)ポチッ。

「ヴ・・・ヴーン」
(見えた・・・と思う。しかし本当に見えたのか?音がしたら光ると思い込んでいるだけでは?本当は音すらなっていないかも知れない。待てよ。始めから音なんて鳴ってたか?思い出せ!いつからだ?いつから音が鳴っていると思っていた!!)ボタン押し忘れる。

「ヴ・・・ヴーン」
(光らなかった!そう。光らなかった!確実に光は見えなかった。待て。本当か?光の存在に疑問を感じ始めたから、その存在自体を無かった事と脳が補正したのでは?ワタシは本当に「見えなかった」のか?真実を捉えられているのか。)ブルブル。

「ヴ・・・ヴーン」
(見えた!光った!あの光が存在していると思いたい。・・・思いたい?これは検査だよ!光ったかどうかを訊いてるんだよ!思いたいとかオマエの気持ちを訊いてるんじゃねえんだよ!)ポチッ。

「ヴ・・・ヴーン」
(光った!見えた!自信を持っていいんじゃないか?だって見えたんだ。そうさ見えたさ!自分を一番に信じてやれるのは自分しかいない。あの光がまやかしでもなんでもいい。見えた!それだけさ!)ポチッ。

「ヴ・・・ヴーン」
(光った!見えたんだ!そうだ。世の中は自分の見方でどのようにも見える。今、私が見えたと感じたのなら、その光は存在したという事。私の心に存在したという事。本当は光っていなくてもいい。本当なんて無いんだ!他人になんて言われたっていい。見えたという事を認めよう。見えたって素晴らしい!見えたって美しい!見えたって伝えよう。さあ!)ポチィィィィ。

「ヴ・・・ヴーン」
(見えた!これは・・・光!そう。光っている。暖かい。ずっと前からそこに居た。見える見えないじゃない。ずっと居たんだ。ずっと側に居てくれたんだ!すべての光は一つの光だったんだ!ずっと繋がっていたんだ!)ポチッッッ!誰か止めてーーーーー!!

「はーい。終わりでーす。お疲れ様でしたー。検査結果出ましたら診察室でお呼びしますので、こちらでお待ちくださーい。」
シャッというカーテンを引く音と、いつもの看護師さんの言葉で現実に引き戻される。助かった。看護師さんありがとう。あやうく脳内開宗するところでした。
毎度毎度これの繰り返し。こんな様子で検査結果が正しく出ているのか分かりませんが、いつも同じ箇所が欠損しているので正しいのでしょう。



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