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【掌編】デジ亀

 息子の入園祝いにデジ亀を買った。
 充電水槽と併せて総額13,000円強となかなかに割高だったが良い買い物をしたと思っている。まあ義父持ちなんだけど。

 背中の甲羅に、貯金箱に開いているような細長い隙間がある。SDカード入れだ。始めのうちは手伝わないと三歳児の指には難しかったが、いまでは大人顔負けのスマートさでもって簡単に抜き差ししている。
 頭を押さえるとカシャリ、と音がして写真が撮れる。デジ亀を裏返すと、お腹の割れ目に沿って撮影した写真を閲覧することができる。息子はいつも慣れた手付きでスライドしている。
 防塵、防水、耐衝撃性に優れる。幾度となく怒り任せに投げ飛ばされもしたが、接地する前にしっかりと手足を引っ込めるのでいまのところは無事である。
 お尻にはUSB Type-Cの電源コード差込口がついているが、あまり使うことはない。水槽の水につけることでワイヤレス充電できるからだ。

 最近、息子はあまりカメの頭を抑えなくなった。
「カメしゃん、とって」と言えば勝手に撮ってくれるようになったからだ。そのときはピロ〜ン、と、WEB説明書にも記載のないへんてこな音がする。デジ亀が適当に鳴らしているのかもしれない。ちなみに、私たちが同じようにお願いしても聞き入れてはもらえない。デジ亀も人を選ぶのだ。

 それでも息子はたまに頭を押す。デジ亀は若干むずがゆそうにして目を瞬かせ、写真を取る。息子はあのカシャリ、という原始的で小気味のよい音が大好きなのだ。

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