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医学論文をできるだけ簡単に書こう!

はじめに

この記事は「できるだけ簡単に英語の医学論文を書く」ための 私なりの方法論を紹介することを目的にしています。

実は自然科学系の論文なら、この記事は参考になるかもしれませんよ!
この記事のコメントで きくちしんいち様 が指摘してくださっています。

あくまで方法論ですから研究や論文の意義は言及しません。
初めて医学論文を書く若手医師を対象にしています。
研究テーマが決まっている前提です。

ですから、想定している読者は

大学院に入って研究はだんだん進んできた
そろそろ論文書けと指導医に言われているけど・・
いったい何から手をつけてよいのか・・・

という悩める若い先生です。

なお、これは大学院生だった当時の私の姿そのもの。
なので、過去の私自身に向けた文章でもあります。

ちなみに私は本来は4年のところ、卒業まで5年かかってしまいました笑

そんな人の記事で大丈夫?
まぁそうなりますよね。。

自慢のようになってしまうのは嫌なのですが、記事の権威付けのために少しだけ言わせてください。
筆頭論文数は英文15本、和文1本です(リストはこちらの記事から。)。
滅茶苦茶多いわけではありませんが、そこそこでしょう?

なお、書き始めたら相当なボリュームになってしまいましたが全て無料記事です。
ですが熱量は込めましたよ!笑
8133文字ですって!


では目次です。



論文作成の4要素

基本的な要素は次の4つです。

  1. レファレンス集め

  2. レファレンスまとめ

  3. 日本語で本文作成

  4. 英文化

この4つを順にこなしていけば論文は必ず書けます!

ちなみにレファレンスとは参考文献のことです。

この中で優先度をつけるとしたら
超重要:レファレンスまとめ、日本語で本文作成
普通:レファレンス集め
極小:英文化

後述しますが「英語で論文を書く」ときに英語力は不要です。

むしろ重要なのは
先行研究や関連研究のレファレンスをきちんとまとめる作業と、
日本語で論理的な文章に仕上げる作業です。

ひとつずつ解説します。


1.レファレンス集め

まずは、関連する研究のレファレンス(参考文献)を集めましょう。
最初は5本程度で構いません。

多すぎると後のレファレンスまとめ がしんどくなります。
ほどほどに。

ポイント。
自分の研究に関連したコアになる重要文献があるはずです。

ヒントは
・有名な臨床試験の論文
・学会の教育講演で引用されている論文
・教科書で引用されている論文

です。

なかでもオススメが教育講演の引用論文です。
教育講演の講師は相当のプレッシャーです。
やったことはありませんが。

講師は変なことは言えません。
となると重要な論文をピックアップしてくれています。

これを利用しない手はありません。

そして、そのコア論文から周辺の論文を探していきます。


ここで役立つのがConnected Papers

超重要ツールですよ。
大事なのでもう一度言います。

Connected Papersです。

月5回までなら無料で使えます。
何がすごいかというと、次の図をご覧ください。

Connected Papersより

はい、何がすごいかわかりませんね?笑

まずConnected Papersのトップページでコアとなる論文を検索します。
すると、その論文と関連のある論文が上図のように表示されます。
それぞれの円をクリックするとAbstractまで表示される優れモノです。

円の大きさは引用回数を表します。
円の色が濃くなるほど最近の論文です。

つまり
円が大きくて色の濃い論文を優先的に見ていきましょう!
ということです。

このツールを利用すれば重要なレファレンスを集め漏らすことはありません。


まずは5本。なければ3本でもいいです。
カギとなる論文を集めましょう。

最終的に論文で引用するレファレンスは、少ないものでも20本、30本以上は普通ですが、それはこれらのコアレファレンスの孫引きだったりするのです。
なので、最初からたくさんの論文を集める必要はありません。


所要期間:1日から1週間程度


2.レファレンスまとめ

集めたレファレンスを読み、重要そうな部分や使えそうな言い回しを抜き出して、まとめておく作業です。

極めて地味です。
ですがその効果は絶大です。

これによって
・論文の構成を理解できる
・レファレンスの理解度が深まる
・論文本文に使える英語表現を得られる
・考察を組み立てる材料が得られる

などのメリットがあります。

非常に地味で、クリエイティブではない作業です。
でもここが大事です。

私も全ての論文で必ずこの作業をやっていました。

では そのやり方を紹介します。
まずは下の図をご覧ください。

私のレファレンスまとめ

ここでは太字はレファレンスのタイトルです。
本文をそのままコピペしています。
このときに文章末尾のレファレンス番号までコピペしましょう。
上図の文末の2とか16-23とかがそれです。

これをしないと、どの論文を引用すべきかわからなくなります。

そして、英語の下に簡単な日本語訳をつけておきます。
日本語を書いておくことで、パッと見でなんの話かわかるからです。


ではこの作業を次の手順に従い進めていきましょう。

2-1.レファレンスを読む

英文を読むときはDeep Lを使用してください。

ご存知の方も多いと思いますが超大事なのでもう1度言います。

Deep Lで日本語に翻訳して読んでください。

DeepLは無料版で十分です。
アプリ版が便利なので推奨です。
本文をドラッグした状態で 「コントロール、c、c」の順に押せば翻訳してくれます。

2-2.必要な文章をコピペする

ワード文書などで管理します。

このとき、
Introduction (イントロ)
Materials and Methods (マテメソ)
Results (リザルト)
Discussion (ディスカッション)
の4つに文書を分けて作成します。

私はこんな感じで整理しています。

それぞれのセクションごとに英文をコピペして日本語訳をつけましょう。
日本語訳もDeepLからコピペしてもいいですが、文章が長くななると一覧性が低下し発見しにくくなるかもしれません。

イントロの文書には、イントロのコピペだけにします。
マテメソにはマテメソのコピペだけ。
以下同様です。

この作業を集めたレファレンス全てで行います。

これによって、みなさんが自身の論文を作るときに超役にたつ最強のイントロ集、マテメソ集などが完成します。

所要期間:1-3か月程度


3.日本語で本文作成

3-1.原則

英語で書くことを推奨しているケースもまま見られます。
が、私は絶対に日本語作成を勧めます!

その理由は主に2点:
・母国語でなければ理論的な思考は不可能
・あとで何度も見返すときに便利

論文なので論理的に書かなければなりません。
自分のネイティブでない言語でものごとを考えられますか?
論理的思考をするのには母国語が必須です。

そして何度も何度も見返す必要があります。
「あれどこに書いてあったっけ??」
それをアルファベットの羅列から見つけるのは大変。
日本語はすぐ探せます。

さらに日が経つと、英語で書いた文章は自分が書いたはずなのに意味がわからなくなります。
「これ何の話だっけ?」と考えるのは時間の無駄です。

ですから、本文を書くときは必ず日本語(母国語)で書くべきです。
日本語ができたあとに、ゆっくり英語にすればいいんですよ。

ここでは日本語で文書を組み立てていきましょう。

ただし!

日本語で論文を投稿するわけではありません。

日本語はシンプルに!
主語と述語をきちんと明示しましょう!
専門用語は英語でも可!

イメージは英語論文を日本語に翻訳したような文章です。
これによって後に英文化するときに、適切な翻訳結果を得やすくなります。

そして日本語で作成している時点でレファレンスも管理しておきます。

私はWordで別文書で管理していますが、Mendeleyという文献管理ツールを使うと、よりスマートにできるそうですよ。
ここは案内できなくてごめんなさい。
私は使ったことはありません。


3-2.イントロ

極端な話、イントロは他の論文の寄せ集めで成立します。
ほとんど全ての文章にレファレンスがつく、といっても言い過ぎではありません。

基本の流れは
『はじめに広い話題→だんだん話題を絞って自分の研究に寄せる』
です。

例えば前立腺癌の最新の放射線治療に関する論文を書こうとします。
以降引用文献は(ref)と記載します。

そうするとイントロは、次の3段落くらいになります。

1段落目:病気や治療一般の話。
例)前立腺癌は○番目に多い(ref)。前立腺癌の治療は〇〇だ(ref)。放射線治療は良好な成績が報告されている(ref)。最近の放射線治療では・・・(ref)
のように、レファレンスをつなぎ合わせて、だんだん自分の研究内容に話題を寄せていきます。

2段落目:自分の研究内容に寄せて、これまでに分かっていることと、まだ分かっていないことについて言及する。
例)近年の放射線治療では・・・(ref)と言われている。だが〇〇の研究は少なく、検討が不十分だ(あればref)。
このように、わかっていないこと(=今回の研究で明らかにしたいこと)を明確にすることが重要です。

3段落目:だから研究した、と目的を述べる。
例)そこで今回我々は〇〇について研究した。〇〇を明らかにした。


私が書いた日本語の本文


注意点はイントロで詳しく文献の内容を述べていくと、後半のディスカッションでネタ切れあるいは重複を起こします。
内容の重複はスマートではないので、できるだけ避けましょう。

そのため、イントロでは具体的な数値などには言及せず、総論的な内容のほうが望ましいと考えられます。

イントロはさらりとしていたほうが読みやすく好印象ですよ。
(個人の意見です)


3-3.マテメソ

ここはレファレンスまとめがあれば簡単です。
参考にしながら書きましょう。
あくまでも簡潔な日本語で。

各段落の構成要素は次のとおりです。

1段落目:研究対象、倫理
2段落目:治療方法、実験方法
3段落目:事象の判定やその判定方法
4段落目:統計学的な解析方法

このくらいが必要な部分です。

マテメソのセクションは定型的な文章が多いです。
したがって、先に作成したレファレンスまとめが、ここで非常に役に立ちます。

レファレンスとして選択した先行研究のマテメソは、皆さんの研究と類似するところも多いはずですよ。

それを参考にしつつ、マテメソを書いていきましょう。

以下、各段落について解説を加えます。

1段落目:研究対象、倫理
どういう人やモノを研究の対象にしたか明記する。
倫理的な配慮が必要な場合も明記。
だいたい必要なので、院内の倫理審査は必ず事前に通しましょう。

倫理コメントは投稿する雑誌によっては別の独立したセクションに記載することを要求されます。
それは投稿先を選定後に調整すれば構いません。

2段落目:治療方法、実験方法
何かの治療による影響を観察するなら、治療内容の詳細を示します。
実験ならば実験方法を明示しましょう。
ポイントは再現性です。
同じ研究をやろうとした人が、この部分を読んだときに同じ研究を再現できるか、を念頭に詳しく書く必要があります。

3段落目:事象の判定や、その判定方法
どういう結果を比べたか、またその判定方法を述べます。
たとえば、再発ならば、再発の定義やその判定方法を明らかにしましょう。
その場合、最初までの期間を計算することになりますが、「いつから」期間を計算したかも明記します。(例 治療開始日から起算した など)

4段落目:統計学的な解析方法
レファレンスまとめにヒントがあるはずですよ。
先行研究とだいたい同じような統計解析を使用することになるはずです。
統計についてどの解析方法を使用すべきかは指導医と相談しましょう。

わからない場合は、推奨されるべきは統計の勉強です。
ただ大変なので、似たような研究デザインの先行論文の統計解析方法を流用するのは十分可能です。


3-4.リザルト

ここも簡単なセクションのひとつ。

マテメソが用意できた時点で、リザルトの順番が決まります。
すなわち、マテメソに対応する順に、自分の研究結果の結果を淡々と書き連ねるだけです。
表現方法はレファレンスまとめが非常に役立ちます。

リザルトのセクションでは結果の解釈は絶対に記載しないでください。
研究で得られた数値や、統計学的解析の結果のみを記載します。
書くのは事実だけ。
結果の解釈は後のディスカッションでやりましょう。

リザルトの段落は研究デザインによって様々です。
例えば後ろ向きの臨床研究では以下の構成になることが多いです。

1段落目:患者背景
2段落目:治療効果
3段落目:有害事象

これは非常に大雑把なくくりですから、ご自身の研究内容によって適宜調整してください。


3-5.ディスカッション

最もつまづきやすい部分です。
しかし、ディスカッションの構成を理解すれば難しく考える必要はありません。

ディスカッションの基本構成は以下の通りです。

1段落目:結果のまとめ
2段落目から5段目くらい:諸家の研究との比較
6段目くらい:Limitation

以下、解説していきます。

1段落目:結果のまとめ
自分の研究でわかったことを簡単にまとめましょう。
3-4文くらいで十分です。
もし先行研究があまりない分野なら、「我々の知りうる限り、〇〇に関する研究は世界で初めてだ」と述べていいです。
私は結構言い切ってしまいます笑。だって私の知る限り、ですから。
査読で修正指示があったら修正すればいいのです。

2-5段落目くらい:諸家の研究との比較
先行研究でどういう結果が出ているのか詳細に述べます。
ここでもレファレンスまとめが活躍します。
それらの結果と、自分の研究の結果はどこが同じか。
あるいは、どこ違うのか、その要因はどこにあるのか、を中心に書きましょう。

段落数は言いたいこと別に分けましょう。
たとえば、

治療方法について議論する段落
治療成績について議論する段落
有害事象について議論する段落

などです。

1つの段落に1つのテーマと考えてください。

イメージは、ここまで自分の研究テーマに絞ってきたことを、他の人はこう言ってるよ、と話題を広げていく感じです。

6段落目くらい:Limitation
リミテーション。
研究の限界です。
ここまではわかったけど、この研究には限界があるよ、ということを述べます。
難しいですよね?
私も悩みます。

定型的には以下の文言で始めます。
「この研究にはいくつかのリミテーションがある。それは〇〇、〇〇、〇〇だ」

でそれぞれのリミテーションについて一言述べる。
それだけでも十分論文として体裁を保てます。

具体的な内容は、それぞれの研究内容に左右されるので説明が難しいです。
ただ、私がよく使っていたリミテーションは
「単施設の研究、うしろ向きの研究であること、対象患者数が十分でない、観察期間が十分でない、治療方法が一様でない」
などの記載が含まれることが多いです。

そして決め台詞。
「今後も症例の集積(あるいは長期の観察など)を要する。」
などの今後の課題を記しましょう。


3-6. 結論

Conclusionです。

雑誌によっては結論のセクションがないこともあります。
その場合はディスカッションの最後に書きましょう。

ここまでの内容を3文くらいでまとめます。

3つの文の構成は
①調べたこと ②わかったこと ③課題

くらいなものです。
学会の抄録の締め文と似ていますね。
ここは簡単に。



長くなりましたが、これで本文は完成です。

全体の分量としては、本文のみで
Wordで通常の余白、フォント10.5で書いたときに、
100行から多くて200行くらい

になるでしょうか。

ひとつの目安にしてください。

この段階で指導医に論文を見せるかどうかは、一考の余地があります。
日本語で論文を書くことに否定的な意見 を持っている可能性があるからです。

ただし修正するときにも、日本語で修正した方が圧倒的に楽で、質も担保できますから、この時点で指導を受けたほうがいいと思います。

「私は英語が得意ではないので、頭を整理するために日本語で書きました。
先生と論文の構成を詰めてから英語にします。」
などと説明すれば通常は大丈夫だと思いますが。。

なお、個人的な経験から言えば、指導のときには日本語で先に見せてもらうほうが圧倒的に楽なので好きです。


所要期間:3-6か月程度


4.英文化

もうここまでくれば怖いものはありません。

作った日本語本文をDeepLに放り込んで英語にしてもらいましょう。
翻訳作業はChatGPTでも可能かもしれません。

DeepLの翻訳の精度について、それを検討した有名な論文があります。
リンクをのせておきます。

調子に乗りました。
私の論文です。
有名ではありません。

ただ、検証した結果では、医学論文において日本語を英語化するツールとしてDeepLは非常に優秀だといえそうです。

よりよい翻訳をしてもらうための日本語論文のコツは
・簡潔な文章で書くこと
・主語と述語を明確にすること
・専門用語は日本語本文内でも英語でよい

です。
それはこの紹介した論文で検討した結果です。


とりあえずDeepLに英語にしてもらったら、1度自分で読んでみましょう。

通常は問題ありませんが、意味が変わってしまっていることがあります。
その場合は、再度DeepLに翻訳しなおしてもらいましょう。


そうして完成した英語の論文は、正しい英語になっているのでしょうか?
文法的には問題ないのでしょうか??

私のような英語ネイティブではない人間には判定できません。

仕方ないので、英文校正サービスを利用することになります。

ただし英文校正は有料です。
5万前後と考えておきましょう。

大学院であれば、研究費があるはずなので指導医と相談してください。
市中病院も補助があるかもしれないので、まずは総務課などに尋ねましょう。

英文校正を受けるときは、Cover Letterを作ってもえるオプションの加入を検討しましょう。
カバーレターとは投稿するときに雑誌の編集者に宛てる手紙です。
若干面倒です。
ですからお金で解決してください。
私は自分でカバーレターを書いたことはありません。


なお、校正後の文書は必ず内容を確認しましょう。
たまに意味が変わってしまっていることがあります。


英文校正を利用しない(できない)場合。

Grammarlyを利用しましょう。
有料サービスが好ましいようですが、すみません私はグラマリーを使っても最終的には校正をかけていたので、どの程度の質が担保されているかは知りません。。


この作業で、英語の論文ができあがりました。
英文化はすごく簡単な作業です。
素晴らしい時代になりましたね。


所要期間:1週間から1か月程度


まとめ および 謝辞

論文の書き方の手順は

  1. レファレンス集め

  2. レファレンスまとめ

  3. 日本語で本文作成

  4. 英文化

です。


なお、この論文作成方法は、
群馬大学 腫瘍放射線学教室 尾池貴洋先生
のご指導が全ての基本になっています。

この方法を紹介するにあたってご快諾くださいました。
名前出さなくていいよ、と仰っていました。
なんたる人格者。
ですがそいうわけにはいきません。
何せ私はこの論文作成法を「尾池メソッド」と勝手に名付けているのですから。

この場を借りて御礼申し上げます。
尾池先生、誠にありがとうございました。
これからも宜しくお願い致します!


おわりに

論文の書き方について、私の知っていることを全部書き出したつもりです。
もしこの記事が、論文を書こうとしている先生の目に留まり、お役に立てることがあれば この上ない喜びです!

最後に宣伝を少しだけ。
この内容を中心とした講義も承っております。
下記リンクをご参照ください。

また、ご質問やご意見、お問い合わせを随時承ります。
下記アドレスまでお気軽にどうぞ!

E mail: info@ytakakusagi.com


お読み頂き誠にありがとうございました。
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