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#12 MVVは組織のドラフトデザイン

これまで具体的な制作物があるプロジェクトを例にドラフトデザインを説明してきたが、ドラフトデザインの範疇はそれだけに留まらない。例えば、組織のような無形のものにも適用可能だ。

「独自のプロダクト、サービス、所産を創造するために実施される有期的な業務」というプロジェクトの定義に照らすと、100年続くかもしれないし来年潰れるとも分からない組織の運営や開発は、有期性という意味では完全には当てはまらないかもしれない。それでも、必ず終わりは存在するし、年度や中期経営計画などでフェーズを区切って捉えるならば、組織開発・組織運営も一種のプロジェクトとして見なすことはできるだろう。

では、組織における「理想のゴール像=ドラフト」とは何だろうか?
「理想のゴール像」を「実現したいイメージ」と捉えれば、それはいわゆるMVVの「ビジョン」に他ならない。


ミッション・ビジョン・バリュー

ここで改めてミッション、ビジョン、バリューそれぞれの定義をおさらいしておく。

ミッション(Mission)
「何をするのか」や「なぜ存在するのか」という、組織の存在意義や目的を描いたもの。現在の具体的な行動や短期的な活動の基盤となるもので、組織の運営や意思決定に影響を与える。

ビジョン(Vision)
「どこに向かっているのか」や「将来どのような姿を目指すのか」など、組織が未来に達成したい理想的な姿や目標を描いたもの。未来長期的な目標を描き、実現したい世界に向けた組織の成長や発展の方向性を指し示す。

バリュー(Value)
「どのように行動すべきか」や「何を重視すべきか」など、組織が大切にする信念や価値観、行動規範のこと。組織文化の基盤となり、メンバー個々人日々の意思決定や行動に影響を与える。

つまり、ミッション、ビジョン、バリューそれぞれの射程距離・対象範囲の関係を示すとこのようになる。
ビジョン(未来・長期・世界)>ミッション(現在・短期・組織)>バリュー(日々・個人)

ビジョン、ミッション、バリューをこうして一つの時間軸上にプロットしてみると、徐々に理想を今に引き寄せていくドラフトデザインとプロジェクトデザインの反復とも重なって見える。

ドラフトデザインとプロジェクトデザインの反復

資本主義は「永続的な成長」を求める

冒頭で「100年続くかもしれないし来年潰れるとも分からない組織の運営や開発は、有期性という意味では完全には当てはまらないかもしれない」と書いたのは、資本主義経済の中で機能する企業活動は基本的には「終わらない」ことを前提とされているからだ。
利潤の追求・株主価値の最大化を基本原則とする資本主義経済では、そのメカニズムとして企業は常に右肩上がりの成長を求められる。株主や投資家へリターンを提供し続けるためには、企業は持続的に成長し続けないといけないし、長期的な利益を追求するためには、当然企業は長期間にわたって存続しないといけない。

もちろん、実際には日本では年間1万社近くの企業が倒産しているように、企業組織にもいつかは「終わり」が来るのは間違いない。

“考えてみると、「終わり」があるのはプロジェクトだけでなく人生だって同じだ。でもその割には僕らは「終わり」に対して無頓着ではないだろうか。終わりという言葉は寂しさや死も想起させるので、つい考えるのに後ろ向きになったり忌避したりしてしまいがちだが、プロジェクトに限らず、人生のゴールや終わり方にも向き合ってその理想像を描くことで、前向きな力を生み出し、人生をよりよく生きることもできるかもしれない。”

#01 はじめに

#01でこのように書いたように、理想のゴール像を描くドラフトデザインは「終わりのデザイン」とも言える。理想のゴール像を描くことは、理想の終わり方をデザインすることでもあるのだ。

MVVの更新は、企業の「良き生と死」を考えるに等しい

人生と同じように、企業活動もまた「いつか終わりのある有期的なプロジェクト」だと捉えると、その「ゴール」であるビジョンを変えるということは、法人格としては同一性を保ったまま持続しているように見えても、本質的には一度現状の企業活動(プロジェクト)は終わりにし、また新しい企業活動(プロジェクト)を立ち上げるに等しいこととも言える。

そうであれば、その理想のゴール像であるビジョンは、抽象的な絵空事よりも、具体的で達成し得るものの方がモメンタムを生むはずだ。
そして幸運にもそのゴールに到達できたなら、またそこから新たなゴールを描けばいい。
もっと言えば、企業活動を延命すること自体が目的化してしまうくらいなら、見事ハッピーエンドを迎えられたことを祝って解散する企業がもっとあったっていいとすら思う。

「ビジョンを更新することは一度今の会社組織を終わらせ、また新たな会社組織を生み出すくらいの重大な取り組み」と言われると、さすがに極論だと感じるかもしれない。
でも、本気でトランジション(変革)と新たなビジョンの浸透を目指すなら、お題目だけの表面的なスローガンの掛け替えではなく、少なくともそれくらいの認識と覚悟でMVVを考える必要があるのではないだろうか。

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