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【マッチョイズム】男らしさを競う文化が女性の心理的な苦痛を生み出す!?(Xie & Zheng, 2023)

今日もマッチョイズムについて扱います。マッチョイズムとタイプし過ぎて、「マ」と打つと、「マッチョイズム」が変換されるほど、マッチョずいているこの頃です。

Xie, L., & Zheng, Y. (2023). A Moderated Mediation Model of Masculinity Contest Culture and Psychological Well-Being: The Role of Sexual Harassment, Bullying, Organizational Tolerance and Position in Organization. Sex Roles, 88(1-2), 86-100.


どんな論文?

今年出たばかりの、男らしさを競う文化(Masculinity Contest Culture;MCC)を扱った中国の研究論文です。

中国の働く女性(N=694)をサンプルとして行われた本研究では、MCCと心理的幸福の関連における対人的虐待、つまりいじめやセクハラの媒介的役割、およびどのような要因が影響を強めるのか、という点が調査されました。

扱った変数は、MCCが心理的苦痛(Psychological Distress)に与える影響に対して、媒介変数として、セクシャルハラスメントやいじめ(Bullying)、調整変数として、セクシャルハラスメントに対する組織的寛容度(Organizational Tolerance for Sexual Harassment;OTSH)、地位(Position)が使われています。モデル図は以下の通りです。

調査の結果、セクシュアル・ハラスメントに対する組織の寛容度(OTSH)
と対象者の組織内での地位が、MCCとセクハラ・いじめとの関連を調整することが明らかになった。具体的には、OTSHが高い組織で女性の地位が高い場合、MCCとセクハラ経験の関連はより強かったようです。

また、MCCを強く感じる社員は、いじめも強く感じる傾向がみられました。かつ、OTSHはMCCといじめの関連を強めることもわかりました。一方で、組織内の地位はいじめと相関せず、MCCといじめの関連を緩和しないという結果も導かれています。

また、セクシャル・ハラスメントやいじめを介して、MCCが心理的幸福に間接的にネガティブな影響を及ぼすことも示されました。

男らしさを競う文化については、別の投稿をご参照いただくとして、今回の説明からは割愛します。


研究の背景:中国の状況

文献によると、中国では職場のセクハラが蔓延しているようです(Can, 1995)。中国は過去40年間で、根本的な社会経済的変化を遂げ、市場化と都市化を進めてきた一方で、その「副産物」のひとつが、セクシュアル・ハラスメントの増加だと言われている模様。

多くの女性が農村部から都市部へ移住し、オフィスや工場、公共の場で働くようになったものの、そこでは男性管理職や同僚、顧客から容易にセクハラを受け、搾取されるようになったようです。女性たちをセクハラから守る法的規制や政策がないために、女性の状況は悪化したとのこと(Can, 1995)。

例えば、中国本土の大規模なサンプルに対する調査では、都市部の女性の15.1%が過去1年間に身体的または言葉によるセクシャル・ハラスメントを経験し、そのほぼ半数が同僚や他の仲間によって行われたという結果もあるようです(Parish et al., 2006)。

中国の急激な発展の裏にある、ダークサイドですね。。。
(詳しく知らないですが)

また、権力のある立場にある女性は、従属的な立場にある女性よりもハラスメントを受ける頻度が高い、という著者らの予測も紹介されます。

権力脅威理論(McLaughlin et al., 2012)によれば、伝統的に優位に立つジェンダー集団である男性が、権力のある地位にいる女性から脅威を感じると、ハラスメントをする動機が生じる(Maasset al、2003; Vandello et al., 2008; Willer et al., 2013)ようです。つまり、女性が権力では同等か上の場合、男性は性的な行動によって上に立とうとする、とのこと。

こうした考えに立つと、男らしさを競う文化の中では、弱さを見せず、弱肉強食の世界感での競争から、女性を打ち負かすことで男らしさを証明しようとしてセクハラが増えるのでは、というのが筆者らの仮説です。

実際に、調査結果からも、MCC→セクハラ→心理的な苦痛というパスは確認され、かつ、女性の地位が高い場合に多く経験される、ということが示されました。


組織のセクハラ寛容度

この調査では、Hulinら(1996)が開発したOrganizational Tolerance for Sexual Harassment Inventory(セクシャル・ハラスメントに対する組織的寛容度尺度)が用いられました。
このような尺度まで開発されているのですね・・・。

組織のセクハラ寛容度とは、ひとことで言えば、女性従業員が「組織はセクシュアル・ハラスメン トから自分たちを守ってくれない」と考えているような否定的な組織風土のこと、と説明されています。

この尺度は、セクシャル・ハラスメントの苦情があった場合、ハラスメントを行った者は罰せられ、苦情を訴えた者は保護されることを認識している度合いで測定されます。

文献には、設問の記載がなかったので、完璧には理解できなかったのですが、回答のスコアが高いと組織がセクハラに対して「寛容」(つまり、厳しくない)となるようです。

セクハラに対する組織の寛容度が高いとどうなるでしょうか。

寛容度が高いということは、組織が加害者を罰したり、被害者を守るための行動が少ない、ということです。そうすると、加害者も傍観者もそのような行為を繰り返すようになる、と文献では紹介されています。

さらに悪いことに、被害者は虐待を報告したことで報復を受け、さらにいじめや社会的排除を受けるかもしれない。そのため、職場のセクハラ被害者の多くは沈黙を守ってしまうとのこと。

(パワハラと似たようなところがありますね。)

感じたこと

中国の経済発展の裏側には、こうしたセクハラ問題もあったことを知りませんでした。今はどうかわかりませんが。。。

研究的には、「まあ、そうだよな」という結果が多かったものの、一つ興味深いのは、女性の地位が高いほど、MCC風土を職場に感じる場合、セクハラも経験している一方、地位の影響は「いじめ」では現れなかった点です。

管理職の中でマイノリティである女性は「妬み」の対象になる気もしますが、セクハラというより、「嫌がらせ」(いじめ)の方が起こるのでは、と思ったためです。

MCCの風土において、地位のある女性は、いじめは経験しないけど、セクハラは経験する。ちょっとピンときませんが、「妬み」はセクハラに向かう(そしてマウントを取ろうとする)、という感じでしょうか、、、。


備忘メモ(MCCなど、英語尺度の妥当性検証)

構成概念妥当性を確立するために、各構成概念について複合信頼性(CR)と平均抽出分散(AVE)を評価し、すべての尺度間の判別妥当性の検討として
AVEの平方根と相互相関を比較した( Fornell & Larcker, 1981)。CFAの結果、CRは0.86から0.97の範囲であり(表1)、すべての値は推奨水準である0.70(Gaskin, 2021)よりも高かった。3つの尺度のAVEは0.50(Gaskin, 2021)の基準を超え、2つは0.40を超えた(表1)。ある構成概念の検証妥当性は、分散の50%以上が誤差によるものであっても、CRに基づいて適切であると示唆されています(Fornell & Larcker,1981; Lam, 2012)。したがって、我々の尺度の信頼性または収束妥当性は許容可能であった。さらに、すべての構成要素のAVE平方根は、対応する他の構成要素とのピアソンの相関係数を上回っており(表1)、すべての尺度がFornell and Larck-er (1981)の基準に基づく判別妥当性を達成したことを示している。

P92 訳:Deepl



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