【インクルージョン】意外とよくわかっていない、「インクルージョン」とは何か?
ここまで、インクルーシブ・リーダーシップ(IL)に関する主要論文を投稿してきましたが、今回は、IL研究の元となっている、「インクルージョン」に関して見ていきます。
インクルージョンとは何か、を理解するために個人的におすすめなのが、こちらの書籍です。学術書ながら、とてもわかりやすい良書です。過去の研究を紐解き、インクルージョンをここまで明瞭に解説した書籍を他に知りません。超おすすめです。
インクルージョンとは?
そもそも、「インクルージョン」とは何か?と聞かれて、どう説明するか、意外と難しい・・・というのが悩みでした。
「多様性が活かされること」
「多様な人たちが組織の中に受け入れられ、活躍すること」
「多様な人たちが包摂される(Includeされる)こと」
といった説明がネットや書籍には多い気がします。(包摂って言葉、滅多に使わない・・・)
D&I(DE&I)にも仕事でかかわることも多いのですが、この辺りの定義は結構ふわっとしている印象。
そこで、理論が力を発揮します。
他の理論や調査内容をもとに、偉大なる過去の先人たちがインクルージョンとは何か、を定義してくれています。
知の巨人たちの肩に乗ることで、インクルージョンという、分かったようで分かっていない概念をより鮮明に理解できるのです。理論って便利!
では、インクルージョンの定義を見ていきます。先述の書籍の著者である船越さんの博士論文から引用させていただきます。
様々な学者が、様々な定義をしています。つまり、インクルージョンという概念は、まだまだ研究者の中で1つの定義に落ち着いていない、ということです。
数ある定義の中でも、理論に支えられたインクルージョンの定義が、Shoreらによるものです。
帰属感とユニークさ、がキーワードです。企業の文脈で言うと、社員が
組織に対する帰属意識を持ち、
自らのユニークさ(強みや能力など)が活かされたと感じる
状態と言えるのだろうと思います。
「包摂」という言葉より、個人的にはしっくりきます。
インクルージョン概念のフレームワーク
さらに、Shoreらは、帰属感とユニークさ、それぞれの高い状態と低い状態という2×2のフレームワークを提示しました。こちらも船越さんの博士論文から引用します。
帰属感が低く、独自性にも価値が置かれていない状態は「エクスクルージョン(排除)」、
帰属感は低いが、独自性には価値が置かれている状態は「ディファレンシエーション(差別化)
帰属感は高いが、組織における独自性には価値が置かれない状態は「アシミレーション(同化)」
と整理されています。
勝手な印象ですが、同質性の比較的高い日本企業においては、アシミレーション(同化)から、インクルージョンに向かい、多様性の高い欧米の企業では、ディファレンシエーション(差別化)からインクルージョンに向かう気がします。
日本でも多様性、ダイバーシティの促進が進んできています。そう考えると、これまでアシミレーション→インクルージョンのステップを想定し来たマネジメント施策ではなく、これまでとは異なる、ディファレンシエーション→インクルージョンの施策が、今後必要になるかもしれません。
補足として
なお、ここまで述べてきたのは、経営学領域におけるインクルージョンの定義です。インクルージョンは、教育学、社会学でも研究蓄積が進んでいます。書籍「インクルージョン・マネジメント」には、それらの学問領域における定義も紹介されています(ありがた過ぎる・・・涙)。
社会学・教育学の領域においては、共同研究で業務上かかわりのある、東京大学のバリアフリー教育開発研究センターや、星加教授・飯野准教授らの取り組みが素晴らしいと思っています。参考までにURL貼っておきます。
参考文献:
船越多枝. (2019). ダイバーシティ・マネジメントにおけるインクルージョンの効果と促進要因 (Doctoral dissertation, 神戸大学).
船越多枝. (2021). インクルージョン・マネジメント: 個と多様性が活きる組織. 白桃書房.
Shore, L. M., Randel, A. E., Chung, B. G., Dean, M. A., Holcombe Ehrhart, K., & Singh, G. (2011). Inclusion and diversity in work groups: A review and model for future research. Journal of management, 37(4), 1262-1289.
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?