週1で戦略PRジョインする違和感
パブリックリレーションズの業務委託で、さいきんなんとなく増えてきているのが、週1勤務という業務委託です。作業レベルではまあ納得の内容ですが、週1回月10万円とかでストラテジックコミュニケーション(戦略PR・戦略広報)の募集とかが出てきてて、「えー、うそだろー」となっています。
戦略づくりって、週に1回しか来ない人が作れるものなのか?
もう、表題の通りです。週に1回しか来ない「どこかの人」が、戦略作りをさくさくっとやってくれるものなのでしょうか。また週1で作業をすすめたとして、どのくらいで戦略ができあがり、どのくらいで目標設定がなされ、どのくらいでプロジェクトの第1弾がスタートするものなのでしょうか?
「週1からでOK!」と書いているすべての求人に、この、重要なことが書かれていません。とくにスピード感をもって経営をしているはずのベンチャーでこんな記載をしていると、その意図がわからなくなりますね。
一般的に戦略作りのプロセスは、こんなかんじのはずです。
1.ヒアリング
2.要素出し(仮説設定)
3.調査・検証
4.言語化(戦略の文言化)
ヒアリングは経営者からの聞き取りがほとんどなので、これは1日で済みそうですが、本音を引き出す、サイドストーリーを引き出すなどを考えると数か月かかることもあると思います。だいたいサイドストーリーとかに真意が隠されていたりするし。
定型的な分析フォーマットに沿って、そこに事項を埋めてもらう、という手もありますが。。。それでもすりあわせは数週間かかるものです。
↑この日にち感覚は、週5でおつきあいした場合の目安なので、週1換算だと、ヒアリングだけで半年近くかかることもある、ということです。そんなあほな。
それとも、超絶スピードですばらしい構築スキルを、受託する人たちは持っているのでしょうか。だとしたらうらやましい。じっくり人と話してしまう私にはムリですし、超絶スキルで週1回10万円というのはとんでもない安値、とも思えます。企業の方向性を決めるかじ取りの役を担うような重要なものなのに。
あ、私の言う戦略は、主にコミュニケーション戦略です。
用語の定義を忘れていました。戦略PRで議論されるべきは、経営戦略に沿って構築されるコミュニケーション戦略のことをさします。各種の戦略の関係を図で示すとこんなかんじ。
ここでは経営戦略、コミュニケーション戦略を使い分けるようにします。戦略共通のことは、上記の段落のように「戦略」と使います。コミュニケーション戦略を作るうえで、経営戦略がそもそもしっかりとまとめられていないということも多々あります。というか、そっちのほうが多いから、末端で個別戦略(財務、人事、プロダクト、開発、コミュニケーションなど)を建てられなくなるわけで。パブリックリレーションズの専門家としてストラテジックコミュニケーション(戦略PR・戦略広報)を使う者としてジョインする場合は、基本的にコミュニケーション戦略を作ることを請け負った、ということで、作業を担うのではありません、と思っています。
では、話題にもどりましょう。
もしかして宿題案件か?
ヒアリングで出勤して、それをその他の日でまとめて次週にもっていく、ということになると、まあできなくもない、ですが、それも週1回月10万円というのは非常に安すぎる料金設定ではないでしょうか。
こういう業務委託は、作業現場で拘束される時間に対して対価設定が行われているものです。たとえリモートワークであっても、目安として1日のその仕事にかかわる時間をだいたい8時間とし、求める仕事にかかる時間を週16時間くらいだね、とするなら週2日(分)と計算し、委託を募るのが常識かと。
そもそも、戦略の意味をまちがえている場合もあるか?
戦略といっておきながら、募集詳細で「え?」ってなるものもありますね、そういえば。メディアがどうのこうのと言うから募集のいう「戦略」は、コミュニケーション戦略のことを言っているのかもしれません。が、こういった区別はなかなかできないでしょうから、全体としてまずとらえて仕分けしないといけなくなります。。
そして、(たぶんこの人が言ってることはコミュニケーション)戦略の募集を見てみると。。。。基本的に前提だらけですね。
たとえば、、、
<サンプル1>
・広報戦略を一緒に考える
・広報実務、特に攻めの広報としてメディアへの露出を増やす働き掛け
・若手社員の育成
↑すでにメディアリレーション戦術を導入することを前提とした戦略策定のニーズがありますね。戦術ありき、というのは危険なんですが。。。っていうか、戦術のことしか書いてない。
<サンプル2>
・どうしたらサービスの認知をもっと広げられるかPR戦略づくり
・実際のメディア露出のための企画作り(切り口づくり)
・プレスリリース作成
・メディアキャラバン
*パラレルキャリア可能
まあ、これもメディリレーションという1戦術の実施が前提です。広報の仕事がメディア対応だ、というステレオタイプのなせるわざだとはおもいますが。。。
そしてニーズの量。これを週1でやれと?
実際の週1なんて、ひとりだけではなにもできない
実際に私は週1で勤務したことがありますが、企業側が相当の協力体制を敷いていないとまずムリです。戦略策定となると、さまざまな材料が事前に必要で、その人がいない6日間に、企業側でなにを準備できるかにより、制作のスピードは変わるはずなんですが、たいていの企業は「自分たちがやるヒマがない」から委託するわけで、となるとジョインしてもひとりでこじあけていかなければできない仕事、ということが多いものです。
といいつつ、週1でも可能の仕事がある
作業です。
・データを集計する、ならべなおす。それをみて感想をのべる
・リリースをあらかじめ用意された資料をもとに書いてみる
・WebやSNSの記事更新(1週間分できればラッキー、みたいな)
・取材対応補助、電話対応補助など、業務の補助
こういう仕事は、週1でもOKでしょう。
この国の広報が「メインの仕事」としている「仕事」の大半がこういうものであり、これなら週1でも週7でもかわりません。人工×時間数により、成果の量は増減するってだけです。
これはこれでお仕事ですが、戦略とはちがう次元のものです。週1回月10万円で十分でしょう。っていうかAIに任せればいいんじゃないの?と思ってます。
あなたの求める戦略は、作業なんですかね?
ストラテジックコミュニケーションには経営戦略という前提が必要
です。戦略というのは、先にあげたようなプロセスを経て、経営者がどんな思いで何を主力に社会に貢献するのかをシンプルなことばにまとめることから始まります。インタビューをすれば、そのときの熱が冷めないうちに翌日、翌々日と質問をしたり、調査を開始したりというリズムがあります。0から作っていく、途中から参加するにしても、週1で完結するようなものではありませんね。
戦略広報、戦略PRとはなんなのか。それってどういうこと?というそもそもの理解度の双方の確認から入っていかないと、そんな話聞いてない、という展開が待ち構えているようで怖いです。
弁護士事務所のビジネスモデルなら、週1でも戦略PRは成立するかも
弁護士さんの相談スキームをストラテジックコミュニケーション(戦略PR)に導入するなら、週1回月10万円、というような気がしています。ただし1日2時間相談に乗る、というようなものになりますので、「1日」の定義は「9:00~17:00」ではありません。
相談されたことに対して、制限時間以内に見解を述べたり、指導をしたりするのが弁護士に相談に行くときに起こることです。会社が事前に準備した資料を持ち込んで、「こういうケースはどう対応すればいいか」ということを相談されるなら、週1回月10万円でも成立するとは思います。
で、具体的な作業が必要になったら、拘束時間を含め別予算を組んでもらい、ディレクションに入ってもらう、というモデルです。
コミュニケーション戦略策定は、どう転ぶかわからないことが多い
経営戦略は、最初にしっかりと作っておけばそうそうブレることはありません。問題は、経営戦略をもとに情報発信をどう扱うかを考えるコミュニケーション戦略です。ここは専門性がないと(どのチャンネルにどういった適性があるかを知らないと)とんでもなくお門違いなメディアミックスができあがってしまいます。
ヒアリングを重ねていくと、ウリのポイントがまったくちがうところにあることはよくあることです。企業の成長ステージによってお客もかわりますし、規模もかわってくる。それにあわせてコミュニケーション戦略もかわります。なので、報道対応が前提だとか、そういう注文はなるべくつけずに更地で募集要項をまとめてもらいたいし、そうでないと自由な活動ができなくなります。
コミュニケーション戦略策定のあとにある仕事も込みで依頼を出すのか?
これは契約期間にかかわるものですが、戦略策定だけなら、週2か3回のペースで1か月から3か月もあれば十分でしょう。週1は不可能です。「戦略策定の資料部分整理のお手伝い」なら週1回月10万円でも可能で妥当です。
戦略ができたからといって、そのあとのメディアミックスすべてを社内の人が仕切れるのか、それに足る能力があるのかというと、ほぼないことが多いので(でなければ外部に委託などしない)、このディレクションも依頼することを前提に「コミュニケーション戦略策定」と募集をかけるのが妥当だとは思います。
コミュニケーション戦略をつくると、メディアミックスは最低でも5~7つのチャンネルを同時に動かすものです。季節によりイベントを立ち上げたり、定期的にプロモーションをかけるなどもありますので、年間で少なくとも20から40本は企画を動かすことになるのです。その都度フィードバックと検証と戦略や戦術の修正をしていくわけで。これをいつまで依頼を出し続けるのか、というエグジットも考えたうえで依頼する必要があります。
エグジットの方法として、若手にノウハウ伝授がひととおりすむ時期、というくくり方もありますね。
上記のような方法は、かなりガチでジョインしてもらうことになりますので、やってることは社員と変わらない、ということになります。戦略作りや貢献度が組織にフィットしていたら、その人の処遇は業務委託でいいのか、ということも考えるのがまっとうな働き方を提供できる組織である、と思います。人は消耗品ではないはずです。
戦略を作るお手伝いは作業ではない
戦略策定の資料作りのお手伝い業務でないかぎり、アイデアを出し、クリエイティブな視点で最低でも50から100本の企画をたちあげるわけで(戦術ディレクション込みの依頼なら)、かつそれらは組織の今後を左右する要素たっぷり盛り込んだものです。データをまとめなおす誰でもできる軽作業とは仕事のクオリティの次元が違います。これを作業目線で報酬設定するのはおかしな話で、作業マインドで戦略PRを扱う人をみるのはやめてください、って思います。
アイデアを出してもらいたい人がほしいなら戦略PRです。
手が足りないから手伝っては、作業員でOK。
あなたのニーズはどっちでしょうか?
理想的な戦略PRジョインのパターン
アイデア出しと作業のお手伝いをミックスした依頼を出すのが理想でしょう。
1.コミュニケーション戦略をつくる主担当を募集する
↓(だいたい3か月で策定を目指してもらう)
↓
2.その戦略を実現する具体的戦術組み合わせプランを策定する
↓(戦術執行が可能かのプチ調査群は主導してもらう)
↓(これは1~3か月かかるかも)
↓
3.その戦術の総コーディネートをする
↓(ディレクションはPR部署が行うとはかぎらない)
↓(PR部署のディレクションは社員が契約者の指導のもと行う)
↓(主役はあくまで社員です)
↓
4.社内の若手数人のヘルプを付けるので、その人たちにOJT
(1年後にひととおりの行動ができるように)
こんなプロセス設定が妥当かと思います。
「戦略の書」をひとまずまとめるまでが第1段階、
半期あるいは通期のディレクション総合プランを作るのが第2段階、
社員にその運用方法論を教えて自走できるようにする期限を1年後とするのが第3段階かと思います。
奇妙な目標、たとえばメディア露出数とかは、ここでは関係ありません。戦略策定が目標ですから。親切に、それが自走でつくれるようにも指導するわけですし。
また、掲載数など露出を目標にするのは危険です、と申し上げておきますね(くわしくは、気が向いたら別の機会に書きます)。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
[おまけ] ストラテジックコミュニケーションをはじめとするパブリックリレーションズについて、ちゃんと解説を試みるプロジェクトを試行中です。
http://pr401.com/
ストラテジックコミュニケーションについては、こちらのページで詳細解説しています。
◆ストラテジックコミュニケーション(戦略PR)へ
http://pr401.com/archives/317
…戦略にかかわるテーマなので、経営者の要素などもかなり大きく影響されます。記事では「経営」「経営者」「定義」「戦略」「中立」という視点で解説しています。
◆パブリックリレーションズとは(定義解説)
http://pr401.com/archives/172
…意外にも、広報担当者の多くがこの定義をちゃんと話すことができません。それは、日本では体系化された学部としての確立が遅れており、現場のたたきあげによる作業ベースでの理論、目先の方法論での積み重ねしか学ぶことができないからです。経営者目線で情報をどのように発信するのがいいのか、総合化という自分自身のアップデートに必須の「定義を知る」という内容にまとめています。
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