見出し画像

勉強嫌い、やる気を出せない子へのアプローチをユーモラスに学ぶ!『子どもの地頭とやる気が育つおもしろい方法(篠原信)』

「(問題に取りかかってすぐに)わからな~い!教えて~!」
「どうせ俺なんて勉強しても覚えられないし」
「わかった!(全然できてない)」

授業でこんな子、いますよね。家庭や学童で宿題をしている子にも、こんなことを言う子がいるかもしれません。

「もう!何でこんなことも分かんないの!昨日やったでしょ!」
「もっとちゃんと練習しなさい!」
「いつも言うこと聞いてないんだから・・・」

私たち大人は、子どもたちのこうした未熟な姿からついついこうした声掛けをしてしまうことがあります。
そして、そうした「こちらはそれほど深い意味で発した言葉ではない言葉」で子どもは傷つき、自己肯定感を高められず、勉強嫌いの子・やる気を出せない子になっていってしまうのです。

そうした勉強嫌いの子・やる気を出せない子にどう接していったらいいのか、たくさんの視点からQ&A形式で応えることで日々の子どもとの関わり方のヒントを示しているのが、「子どもの地頭とやる気が育つおもしろい方法」篠原信著(朝日新聞出版)です。


篠原信さんってどんな人?

篠原信(しのはら まこと)さんは大学入学と同時に塾を主宰し、不登校児や学習障害児、非行少年などを積極的に引き受け、悪戦苦闘しながら約10年間、およそ100人の子どもたちに向き合ってきたそうです。
2000年に大学の教員になって以降は、指導の傍らボランティアで育児相談や子どもの学習指導、市民講師などを務め、現在も継続中だそうです。

本職は研究者ですが、多様な背景をもつ子どもや保護者、教育関係者に寄り添いながら活動を続けてきた方です。
読んでみて、大勢を指導する教師の側の視点も、悩みながら子育てをする保護者の視点も、そして勉強嫌いの子どもたちの視点も取り入れながら本書をまとめたのだと想像しました。

この本を読むべきはこんな人!

・就学前の子どもをもつ親
・小学生、中学生の子どもをもつ親
・授業中や生徒指導をする中で個別の声掛けに悩む教師
・大人の価値観の押し付けに疑問を感じたことのある教師・幅広い年齢の子どもたちと関わる職種の方(学童保育指導員・スクールソーシャルワーカー等)

篠原さんの願いが「はじめに」の最後に綴られています。
こんな子どもたちになったらいいな、と思える人はぜひ読んでみてはいかがでしょうか。

勉強嫌いの子供、なかなかやる気を出さない子どもにどう接したらよいのかお悩みの方は、目次で興味をもったQ&Aを好きな順で読んでみてください。本書を読めば、人間は生まれながらに学ぶのが大好きなのだということを思い出してもらえると思います。
学ぶことを楽しみ、成長することがうれしくなる。そんな赤ん坊のころから備える感情を、多くの子どもたちが取り戻してくれることを願ってやみません。

子どもの地頭とやる気が育つおもしろい方法(篠原信
はじめに より

私もこんな風にあたたかいまなざしで周りの大人に見守ってもらいたかったな。笑

本書の構成と章立て

さて、いよいよ本編に入ります。

第一部 好奇心が湧き出るいずみをつくる
 第1章 「不思議」は学ぶ意欲の源泉
 第2章 学ぶ意欲の基礎になる「自己肯定感」
第二部 意欲はどう育てる?
 第3章 ほめる・叱る・そそのかす・楽しむ
 第4章 やる気を損なう注意点
 第5章 意欲を引き出すコツ
第三部  やわらかくしなやかな地頭を育む
 第6章 具体的な教え方
 第7章 創造性・グリット・見渡す力

本書はそれぞれの章ごとにトピックがQ&A形式でまとめられている上に、大事なところは太字と傍線、各項目の最後にはアプローチのポイントが短くまとめられており、それを追うだけでも十分に学ぶことができます。親切!めちゃくちゃ読みやすい!

トピックを一部抜粋します。
・「なんで、できないの!?」と思わず子どもに怒ってしまいます。
・宿題のことを聞くと「いま、やろうと思っていたのに!」と言い返してきます。放っておいたらやらないくせに!
・中学生になっても意欲というものが見えません。
・どれだけヒントを出してもトンチンカンな答えしか出てきません。
・何度言っても、ちっともできるようになりません。
・すでに指示待ち人間で、ちょっと心配です。

どうですか?気になってきませんか?
それぞれのトピックの篠原さんの回答について書き出すとキリがないのでここでは書きませんが、どれも「そうか!」とひざを打つような内容なので気になった方はぜひ手に取ってみてください。

それぞれのトピックを読み、それらに共通する根っこのようなもの(私が学べたこと)は、大きく分けて3つです。
・先回り指導の弊害
・親や教師の観察眼の重要性
・「子どもを信じて待つ」にもいろいろな方法がある

【先回り指導の弊害】大人の「よかれ」が子どもの好奇心を奪う

子どもの健やかな発達のために、私たちは「できることはすべてやってあげたい」という思いに駆られます。

大人は子どもの将来を心配するあまり、ついつい不得意や短所を矯正し、めだたなくするようなありがた~い先回り指導をしている気になってしまうのです。(あなたのためよ、なんて言い始めたらいよいよまずいですね)

その先回りは、子どもが自分で何かを成し遂げたという楽しみを奪ってしまう行為です。結果的に、子どもは主体性や能動性を損ない、逃避したり、指示待ちになったりする悪循環に陥ってしまうのです。

子どもがスムーズに正解にたどり着くように、準備万端の手厚い支援満載の授業をする教師がいますが、その45分間を経て子どもたちは「成し遂げた」と思えるでしょうか。見栄えはいいかもしれませんが、子どもたちの中で本当の意味で次への意欲が湧くとは限りませんね。

効率や結果よりも、子どもが何かを成し遂げる過程に目を向け、主役を子どもに譲ることが重要なのです。

【親や教師の観察眼の重要性】指示で子どもを動かすよりも前に、よ~く観察して仮説を立てよう

計算問題に取り組めないでいる子が目の前にいたら、みなさんはどのようにその子を分析しますか?
「九九やくり下がりに不安があるのかな?」
と考える人は理解力に原因があると考えてしまう思考の癖があるかもしれません。

私たちが相手にしている子どもは一人ひとり違う特性をもっていますから、それぞれに抱えている課題はちがいます。
ということは、手立てもその子に合った手立てが子どもの数だけあるはずです。取り組めない原因を理解力の低さに結論付けるのは少々短絡的かもしれませんね。

ところが、大人はそんな子どもに対して「早くしなさい」「こうやって計算しなさい」と、その子のペースを尊重することなく言葉の指示で子どもを動かそうとしてしまうものです。(学校現場が最たるものかもしれません。反省です・・・)
時間的制約や効率を優先するあまり、子どもの実態に合っているとは言えない方法を押しつけ、その結果主体性や能動性を損ねてしまうのです。

そこで重要なのは、子どもをよく観察して問題がどこにあるかを推論し、仮説を立てて手立てを試していくという試行錯誤に大人が取り組むことです。
「早く終わること」「効率がいいこと」よりも、子どもとのボタンの掛け違えを回避し、悪循環を生まないことの方が大切なのです。手間も時間もかかりますが、その方が子どもが「何かを成し遂げる瞬間」をたくさん味わうことができます。

とはいえ、子どもを簡単に「理解する」なんて、たくさんの児童生徒と触れてきたベテランの教師たちにも難しいことです。そこで、子どもを観察する様々な「タイプ」や「傾向」を学ぶ必要があります。

本書の中で篠原さんは

  • 子どもの個性には「意欲型」「放散型」「委縮型」の3タイプがある

  • 子どもの理解の仕方には「なぜ?」さんと「役立つ?」さんの2つがある

  • 子どもの学習スタイルには「毎日コツコツ型」と「ラストスパート型」がある

といった分類を示しています。
これらの分類をうまく組み合わせながら、「うちの子はこういうタイプなのかもしれない」と、対応を工夫していくと、何回かに1回は「お、がんばって取り組んでいるなあ」という場面に遭遇できるかもしれません。(少ない!と思うかもしれませんが、それがきっかけになって次の成功につながります。大きな大きな一歩です)

大事なのは親や教師の指示を的確に遂行させることではなく、「その子」をよく観察しながら、「その子」に合うやり方を試行錯誤しようとする姿勢なのです。

【子どもを信じて待つ】手を変え品を変えて子どもが成し遂げるのを見守り、一緒に喜ぼう

「信じて待つ」は「放任・放置」とは違います。

子どもを言葉で動かそうとしすぎると主体性や能動性を損ねてしまいますが、かといって主体性や能動性を子ども自身がゼロから主体性や能動性をムクムクと大きく育てられるかと言ったらそれも違います。

主体性や能動性が発揮されるように、子どもの好奇心をくすぐってみたり、時に大人げなく打ち負かしてみたり・・・
手立ては無限にあるのです。大事なのは子どもが主役になれることと、子どもと大人のボタンの掛け違えを防ぐことです。

時間がかかるかもしれない。
見栄えはよくないかもしれない。
それでも、子どもが「やった!」「成し遂げた!」という瞬間に立ち会った時には、驚き、喜びといった感動を一緒に味わいましょう。

うちの3歳の娘は「見てて!」を一日に100回くらい言いますが、少し大きくなっても子どもは自分のやっていることを見ていてもらいたいものです。
そして、自分が苦労して成し遂げたことならなおさらです。

その「出来た!」を「それくらい当たり前だよ」と冷めた目で見るのか、「できちゃうなんてお父さんびっくり!うれしいなあ」と感動の共有のチャンスと見るのかで、その後の主体性や能動性には大きな差が生まれることでしょう。


おわりに

いかがでしたでしょうか。

費用対効果や時間対効果、効率といったものが重視される時代ではありますが、子育てはそんな単純なものではありませんよね。私も2児の父として、日々それを実感しながら、子どもたちと向き合っております。

この本の「おわりに」では、篠原さんの「楽しんじゃえ」という言葉が印象的でした。

子どもは未熟な存在ですが、だからこそ私たちに驚きや喜びを与えてくれます。意外性がなく、親のコントロールを忠実に遂行するだけの子どもがいたとしたら、それっていいことだと言えるでしょうか。
子育てや教育に携わる私たちは、もっと子どもたちとの関わりを楽しんでもいいのではないでしょうか。そして、子どもの成長のおかげで自分も豊かに生きていけることを味わってもいいのではないでしょうか。

そんな風に思わせてくれる素敵な本に出会うことができました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?