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(5) 緩い組織と、つい 緩くなる人々と。


 北朝鮮と台湾に配備された10年落ちのF35Aがベネズエラにも100機配備された。その内AI機が90機、10機が有人機で、現在F15JとF2で訓練中のパイロットが50名居て、彼らの訓練終了に合わせて、40機のF35A有人機が調達され、中南米の各基地に分散配備される予定だ。

プルシアンブルー製A1戦闘機は有人機のベネズエラ主力機として20機が配備されている。ベネズエラ所属パイロットのトップ10が、この中古のF35のテスト飛行を行なう。大統領のご都合は如何でしょう、というお誘いだった。F35より、どちらかと言うとA1に乗せて欲しいのだが、既にパイロットが確定している機体はさすがに不味い。まぁF35でも構わないと思いながら、カラカスのミランダ空軍基地にやってきた。

キャリーバッグを転がし、ヘルメットを車庫前を抱えて歩いて行くと、整備士達に「こいつのヘルメットは専用のものが必要なので、ヘルメットはロッカーに置いてきてください」と言われて頷く。そうだった。アメリカ製の現行機は全て専用ヘルメットだと思い出した。
普段、F15Jに乗っているからこうなる。一方でプルシアンブルー製のA-1とZ-1戦闘機は従来のヘルメットのままで構わない。表示情報を強化せず、AIの音声情報の方を重視した。その方が情報量も多く、情報把握もし易い。それにヘルメット内に情報を投影するアメリカ方式は視界が狭まって、危険だと自衛隊は判断していた。実際、日本が新型機として購入したF35は13年前の30機弱だけだ。しかし1機あたり103億円も払った。今回の中古機は5億円で、改良費が5億円。1機10億だ。それで新型機よりも性能が向上するというのだから・・表示情報の変更を要請したのだが、そこまでは及ばなかったと聞いている。

ロッカーで着替えて、ピットに戻る。スマートウォッチの健康チェックを確認すると「問題なし」だった。時計の表示を整備士に見せて、座席へ座る。整備士からF35の機体の特徴とスイッチ類のF15J、F16との相違についてレクチャーを受ける。AIを教育モードに設定しておく。これでAIが誤操作の無いようにガイドしてくれる。

「閣下、参加されるかどうかはお任せしますが、ペイント弾を今回は積んでいます」

「え?模擬戦やってるのかい?」

「ええ、A-1パイロットが乗って比較するのが今回の主目的です。使い勝手がどう違うのか、5対5で分かれて、海上でバトルします」

「おや? F35は取り敢えず10機って聞いていたんだが・・」

「この機はイーグルワン専用で、別枠です。市ヶ谷が支給してくれました」

「そう・・」・・専用機って、費用はどう工面したのか?データ採集が目的だろうか・・

「ですので、設定はF15Jに近い感じにしましたが、飛びながらコメントを残しておいて下さい。あとで映像を確認して、フライトデータと合わせて設定しておきますから」

「了解しました・・」 やはりデータを集めるのが、目的か・・

「F15より図体が重たいので、そこが多分に影響するのではないかと考えています。しかし、エンジンはA-1と同じですので、速度感は最新鋭機の感覚を味わっていただけると思います。A-1のエコモード機能が無いので、燃費消費量はアメ車なんだとご理解下さい。MAXで交戦して20分って感じです」

「ありがとう・・それじゃ、追っかけてみるよ」

「大統領、連中をコテンパンにやっつけて下さい」
・・どうして爺さんと現役のパイロットで勝負しなければならないんだろう・・

「F35のバルカン砲ってさ、現実的な交戦じゃ使わないんだよね?」

「それはそうですが、ミサイルを積んで戦う訳にも行きませんし・・」

「まぁ、仕方が無い・・では、G3は無理しないように飛んで参ります・・」

「ご武運を!」整備士がニヤッと笑って敬礼して、地上へ下りた。それを目視してハッチを閉める。・・ご武運・・はヤメて欲しい習慣だな・・と思いながら、エンジンをスタートさせる。静かになったと思う。それとも気密性の向上か、ヘルメットの構造だろうか。

AIに滑走路まで運んでもらう。AIが管制塔とやり取りをしている間に、計器類、スイッチ類を確認する。「イーグルワン、離陸準備出来ました」勝手に名乗っている。G3に変えてくれってお願いしたのに・・

「閣下、愉しんで来て下さい」管制官が言う。「初物だから、少し緊張しているよ・・じゃあ、行ってきます・・」

「お気をつけて!」

スロットルを小出しにしながらエンジン出力を試す。バケモンだなと思う。1/3位の出力で飛ぶのではないだろうか。

「OK、異常なし。G3行きます!」

「離陸を認めます」そこからは、あっという間だった。これがA-1やF3だったら、どれだけ凄いのだろうと思わざるを得なかった。F16やF15と比べるのは年代も世代も違うのだから可哀想だ。オリジナルのF35Aよりも高機能といわれても、取付部材を強化して、エンジンを最新の国産型に変えただけだと聞いているが・・

直ぐにカリブ海に入る。暫く大西洋側を飛んでから、交戦ポイントへ向かうことにする。こちとら、少し慣れる時間が必要だ・・。

「ジーン、暫く練習したい。安全な空域を紹介して欲しい」

「了解しました。候補の3つを紹介します。2つ目が一番安全です」

ヘルメット内に表示された。イマイチ視点が合わせづらい。老眼だろうか・・

「了解、ではおすすめのエリアへ行こう。座標を出して」

「はい、どうぞ」「ありがとう・・」到着地の指定をすると、F35 G3機は真っ直ぐに大西洋フリーゾーンへ飛んでいった。

ーーーー

経済排他水域外に出ると、イーグルワンがテスト飛行を始めた。相変わらず不思議な飛び方をする。しかもF15よりも振り幅が大きい。エンジン出力の違いだろうか・・

「うえっ、気持ち悪くなってきた・・」イーグルワンのカメラでコクピットからの映像を見ていた、ベネズエラ航空隊のチーフパイロットが、耐えきれずにゴーグルを外した。「どうした・・大丈夫か?」司令が近寄ってゆく。

「ええ・・しっかし、もう自分のモノにしちまいましたよ。エンジンの出力に合わせて、動きを調節できるんですね、あの方は・・」

戦闘機乗りとしてずば抜けていて、射撃の腕前も超一流・・なんて人だ・・

「交戦は中止だ。勝てっこない。パイロット達の気力を削いでしまう」

「司令、その判断は間違っちゃいませんがね、パイロットには「負け」も必要なんです。自分達よりもとんでもない上が居るって知って、そこで打ちのめされて、そん中から切磋琢磨するやつが必ず何割か出てくるんです。その何割かの人材を私たちは求めてるんです。大統領は、その「何割」かを生んでくれる、そんな方なのかもしれません」

「分かった。お前のチームだ。・・コテンパンにやっつけて頂くとしよう」

「ありがとうございます。あんな化け物と交戦する機会なんて、そうそうあるもんじゃありませんからね」

「その化け物相手に、お前無しで勝てると思うか?」

「思いません。それに、私が采配したとしても勝てないでしょう・・」

「何故だね?」

「大統領はAIを使いこなせるからです。大統領機のAIは無人機用の開発者用AIも積んでいます。既に驚きですが、AIとご自身の操縦とを場面場面で適時に変えています。つまり、あの大統領機には、異なるパイロットが2人居るんですよ。このモニターをご覧下さい。今は無人機用のAIが操縦しています。その間に大統領は有人機用のAIから計器類のデータ分析方法を習っています。F35Jの特性に合わせて、これからの戦闘シミュレーションを無人機用AIに覚え込ませようと準備しているのです。つまり、あの方は無人機用AIに自分のフライトデータを覚え込ませて、無人機の選択肢を増やそうとしているんです。勿論、市ヶ谷が大統領機を用意した目的はそこです。しかしデータを市ヶ谷で分析して、解析して、テストパイロットで試して他のパイロットがスキルを習得できるか確かめて、それから無人化、有人化AIそれぞれに展開すれば有に2ヶ月は経ってしまいます。その間に、有事が生じたらどうでしょう?データを一刻も早く反映させることで、作戦リスクが更に軽減できるかもしれない。作戦の成功率が上がるかもしれないんです。ご自分が飛ばなくても、無人機用AIが1日も早く対応できるように用意なさっている」

「大統領機に2つのAIを積んでいる?・・これは知らされているのか?」

「日本に3人しか居ないテストパイロット用の設定です。AIを熟知していなければ普通のパイロットには無理です。咄嗟に判断が出来ませんからね。 大統領は市ヶ谷に栄えある4人目として認められたってことです。空自のエースのフライトデータが、それだけ、貴重で欲しいと言う証拠です」

「驚いたな・・手本にしたいというのか」

「そういうことです。おっと、出来上がったようですよ。ご覧下さい。これが大統領が事前に作成した紅白戦用のシミュレーションです。10人のパイロットの名前から飛行パターンを解析して、有人機で体にGの負担の掛からない攻撃パターンを28パターンも僅かな時間で作成しました・・
これで、ウチの10人は撃墜されたも同然です。しかしデータは最良のサンプルが残るんです・・大統領の凄さがお分かりいただけましたでしょうか?」

「28パターン・・これを無人用のAIが習得してしまうのか・・」

「ええ。市ヶ谷は大統領に今後も任せる訳にはいかないので、ベネズエラに追加のテストパイロットを送り込んでくるでしょう。そして今回のように有人機と模擬戦を繰り広げて、データを検証し、取り込んでいくのです。AIの能力を更に高める為に。日本と北朝鮮ではこんな訓練は出来ません。中国、在韓米軍の目がありますからね」

「大統領はそこまでお見通しで、こういう行動に出たのか・・」
・・飛びながら、国の防衛を常に考えている・・確かに、そんな方に勝てる訳はないか・・

「10人のパイロットにとって、やっかいなのはAIと大統領の2人を纏めて相手にするんです。大統領は全力を出す必要がありません。この28パターンを見るとAIと交互に操縦桿を握ってますよね?特に攻撃対象に接近する場面では、AIが操縦を担当して、大統領はご自分の目でドッグファイトを冷静に見学しながら、もう一つのAIと、分析作業に集中するんです。
単座敷なのに、副座敷戦闘機のような安定力を備えて、しかもその相棒がAIなんです。単座敷戦闘機が主流のご時世に勝てる訳がありません。しかも、パイロットでこんな戦い方が出来るのは、空自では大統領だけです・・」

「驚いたよ・・そんな事を空でやっているだなんて・・」

そう、バトル系AIには共通したコンセプトだ。このコンセプトがサッカー用AIにも採用されている。軍事用AI、しかも戦闘機だ。分析が緻密なものになるのは当然だった。

ーーーー

アジアフットボールチャンピオンズリーグ(AFC)西地区(中東エリア)の予選1回戦が1週間後に始まる。昨年リーグ準優勝のアル・サッドはアジアNO.1の座を目指す。
サウジアラビアの強豪で、今年のAFCへの出場権を逃したアル・ファトフとの練習試合がモリ兄弟の移籍後、初試合となる。
カタールの人々も隣国にも関わらずそれなりに観戦に来ている。今回はナイターなので、PB MiddleEast社の皆さんを兄弟がご招待した。A代表のユニフォームを着ている一団があるのでよく分かる。志木さんも、柴崎さんも、結構なモノをお持ちなので驚いた。アラブのたっぷりした服だったせいなのか、前回お会いした時は気が付かなかった。海斗のモチベーションが上がっているのがよく分かる。
今回は、対戦相手のデータが無いのでAIは使わない。相手も3月にシーズンを終えて、新チームになってからの初めての試合だ。素の状態でそのまま対峙して、チーム内の今の状態を知るのが今回の目的であろう。しかし、モリ兄弟にとっては自己アピールの場でもあるので、虎視眈々と狙っていた。日本人女性をスタンドへ招いたのも、弟を奮い立たせる為だった。いや、実は自分がそのつもりだったのかもしれない。

モリ兄弟は4バックの左右のサイドバッグのポジションについた。前半から左右のサイドラインを何度か駆け上がりながら、相手のディフェンスを切り崩すタイミングを伺っていた。チャンスも何度かあったが、ゴールの枠を捉えるのは残念ながら出来なかった。概ねゲーム自体は押し気味だった。チーム状態としては来週の試合に備えてチームビルディングしてきたカタール側の完成度が勝っていた。ハーフタイムに入ってコーチ達のアドバイスを貰う。後半、相手が攻めてこなければ、両サイドは前半以上に上がれとの指示だ。通常なら、このクールダウン時にタブレットにヘッドホンを付けてAIが表示する内容と後半の戦術を共有するのだが、今日はそれがない。この数時間の練習で、波長が合う選手で突破するしか策は無かった。

 後半20分でゲームが動いた。
相手チームのコンディションがまだ不完全だったのだろう。疲れなのか、相手の中途半端で不用意なパスが出た。そのパスを難なくインターセプトした海斗が そのままドリブルで突っかけてゾーンへ侵入してゆく。ディフェンダーを一人躱すと、シュート体勢に入ってゆくと相手ディフェンダーがワヤワヤとコースを消すために海斗の正面に集まってきた。そこでガクンとフェイントを掛けて、右から上がってきた味方のスペイン人FWにパスを出して、ごっつあんゴールを進呈した。移籍後、海斗が初アシストを記録した。

残り10分、相手もシーズン前なのでまだ体が出来ていないと認めたかのように、負けてるのにも関わらずゴール前を固めだした。選手達も疲労したので、このままゲームセットにしたがっているようにも見える。全員守備体制で、暫く切り崩せない時間が続く。
こういう局面は、性格の歪んだ兄弟にとってはお手の物だ。歩は攻撃の進行方向右側、自分と対峙する2人のディフェンスに不慣れな連携を見て取っていた。アイコンタクトで海斗へ伝達の意志を伝えて、重ねて大きな声で日本語で伝える「こっちに穴がある!」海斗が右手を挙げて親指を立てた。
味方からのパスを受けた海斗が、バックパスをする動きを見せかけながら、マンマークされていたボランチを抜き去って2度めの侵入を試みる。先制点の再現はさせないとディフェンダーが海斗に左右から寄ってきた。海斗がチラリと見ると、確かに右のディフェンダー間に穴があった。
海斗はドリブルしながら切り込んで行く、予想通り相手のセンターバックが不用意に動き、隣のディフェンダーとの間にコースが生まれた。またシュートすると見せかけて右足の甲で、右へパスを出す。そこへ猛然と歩が走り込み、相手の手薄となった隙間を見逃さず、右足を思い切り振り抜いた。豪快なミドルシュートとなってネットに突き刺さる。移籍後の初ゴールは嬉しかったが、ここはサウジアラビア。一応アウェイなので控えめにした。応援に来てくれた方々に「何か」があってはいけない。海斗もこの日、2アシストとなる活躍を遂げた。

相手がベストコンディションではなかったとは言え、初戦としては上出来だったのではないだろうか。シャワーを浴びて、試合後のミーティングを終えて散開すると、プルシアンブルー社の皆さんと、メディナ市内のレストランで夕飯を食べに行った。
海斗と柴崎さんはいい感じになっている。そんな 歩も、ホテルの部屋には志木さんが泊まっていった。6ー7つ年上の筈だが、許容範囲だった・・

兄弟をそれぞれ尾行していた2人が、それぞれ日本人女性と宿泊先のホテルへ帰ってきたモリの息子達を羨みの目で見ていたら、尾行の2人がロビーで鉢合わせして笑い合うしかなかった。日本人は性に大らかだとも聞くし、これが当然なのかもしれない。それなりに勝利に貢献した2人には、この位の恩恵は穏当なのだろう、と話し合っていたらしい。
モサドの2人は、更に尾行者が居た事に気が付かなかった。アラビア服を来たカタール人に扮したパキスタン人のMI6が、その背後に潜んでいた。

ーーーー

人民解放軍は何度目かのローラー作戦に臨んでいた。これで駄目なら、海外に逃れていると断定するしかなかった。軍の網を掻い潜れる能力がある組織とは何者なのか、2週間たっても何もアクションを示さないとは、何を考えているのか?足取りがプッツリと消え、情報は皆無だった。

ウクライナの日本農場の旧作業員宿舎に国連調査団が到着し、収容被害者との面談、調査が始まっていた。収容されるに至った背景、収容される際の容疑内容、収容されてから受けた行為や中国人担当者の言動、収容所内の規則、食事内容、運動、余暇等、想定される質問項目を87人に問合せると、細かな相違点はあるものの 殆どの点で一致した。
面談が終わった方と これからの方が、同一空間で接触しないよう徹底した。
次は中国側が分類した犯罪レベルと、容疑毎にチーム分けしてそれぞれの担当チームがヒアリングを重ねてゆく。

モリは10年間在籍した国連という組織をそれなりに熟知していた。特定の国の組織ではなく、各国から人材が集まってくるので、国連職員や特定の役職に就いた人達も多様で考え方も様々だ。言い方はあまり相応しくはないが、組織自体が寄せ集めな為にセキュリティには若干の難があり、国連が関与する場合、完全に秘匿する必要がある案件を請負うのは相応しくない。 「噂」の類が多少のレベルで漏れるのは日常茶飯事だった。しかも中国は常任理事国で、その経済規模に合わせて国連に納付し、人材も排出しているので「拉致されたウイグル人を秘密裏に調査しているらしい」と言う話題が、推測と歪曲が重なりながら変化して伝えられてゆく。中国人国連職員がランチ中に突然尋ねられた。

「拉致されたウイグル人が開放されたって、聞いた事ある?」

「えっ、拉致って、誰にされたの?」

「あら?それがね・・中国軍なんですって。ウイグル人で事業で成功している人にあらぬ容疑を掛けて逮捕するんですって。それで財産と事業を没収して、事業は軍が継続して、財産は軍の費用となるって・・そんな酷い話って今時あり得ないと思ってね・・きっと、何かの間違いよね?」

「そんな・・もしそれが本当なら、大事件になってるじゃないの・・」

「それが何人も居て、国連が調査団を組織してその逮捕された人達から話を聞いてる真っ最中だっていうのよ。笑っちゃうわよね。NYの職員は誰も減っていないのに」

「ウィーンの人達なのかも・・」

「あぁ、その可能性があったか・・って、でも話自体はガセネタなんでしょう?どうせアメリカあたりがデマの発生源だったりするんでしょうけど」

中国人職員には「いかなる情報であっても報告すること」という指名がある。食後に慌てて本国外務省に機密保護処理を施してメールを送った。中国は深夜であるにも関わらず、本内容が特A情報として、即時中南海の指導者達へ連絡が始まった。その報告を受け取った時、主席は腹を括った・・

ーーーー

チベットでロケットランチャーを放った6人のチームは、PB Burma社の社員と偽ってナイジェリアに入国した。1968年に建造された最大貯水量を誇るカンジダムを検査にやってきた技術者、検査官という名目だが、実際にそのダムにも訪れる。「訪れた」という事実だけを残すためだけに。
アフリカ最大の都市、ラゴス市内を物珍しそうに観察しながら、チベットとは異なる自然環境に肌をなじませていた。尾行者は見当たらなかった。
ラゴス市内にあるPB Motors社のディーラーに来ると、1台の日本の中古の簡易AWD機能の付いた、ミニバンを受け取った。後部荷台には天井に届くように荷物が載せられている。
「こりゃ、ルームミラーは使い物にならないな」と笑いながら6人が乗り込むと、カンジダムへと向かっていった。

その頃、海上自衛隊の1艦隊がベネズエラからナイジェリア沖の経済排他水域の外をゆっくりと航行していた。空母の甲板からヘリが2台飛び上がると、高度を上げながらアフリカ大陸へ飛んでいく。このヘリは自衛隊では採用していない。アルゼンチン軍が利用していたドイツ製のヘリをノーマル塗装の状態としていた。しかし、識別サインは海上自衛隊だった。

ナイジェリアの海上保安庁の船舶と通信し、ナイジェリア領海内への飛行許可を得る。大陸到達前に、ナイジェリア軍から上陸許可の連絡を受けた。
ナイジェリア陸軍の駐屯地兼、国防省に2機のヘリが着陸してゆく。ベネズエラの櫻田外相兼防衛大臣と越山厚労大臣、そして中南米方面艦隊総督と作戦参謀と護衛達がヘリから降りると、ナイジェリア外相、国防大臣にナイジェリア陸軍の面々で挨拶しあった。

「ナイジェリア沖に自衛隊、空母打撃群が航行中です。日本の衛星も確認できました・・」

こちらは何も隠すつもりは無さそうだ。ただナイジェリアが日本の支援を受けて何かを始めようとしているのは間違いなさそうだ。

「この動きを監視し続ける。全てをつぶさに見て、新疆ウイグル自治区の事件との相関関係を見極めるように」 モサド長官は、これも救出作戦だろうと半ば断定していた。

「了解!」オペレーションルームは何も隠そうともしないナイジェリア、日本の両国に感謝していた。

(つづく)

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