見出し画像

(10) 新たな財源となる、 新電力


 チベット・ラサの空に日の丸を付けた戦闘機が次々と現れ、ラサ市内の市民も一体何が起きたのかと、轟音と共に上空に現われた戦闘機を仰ぎ見て、心配そうな顔をしている。
自衛隊駐屯地へ急行した記者達は輸送機が大量のミサイルを下ろす様を見て、騒ぎ出した。突如として物々しいまでに武装配備している自衛隊の取材に向かう。大半のミサイルは何処かに持ち出されたようだが、滑走路に近い数箇所に、15基のミサイルを並べて設置していた。目の当たりに兵器を配置されると、誰しも不安に思う。滑走路の停泊ポッドには多くの戦闘機が駐機している。チベットの国防は、米軍担当ではなかったのか。何故、自衛隊が兵器を増強をしているのか、戦闘機は既に30機を超えて、まだどこからともなくやってきて滑走路へ着陸してゆく。

自衛隊で何が起こっているのか。プレハブ小屋の駐屯地施設へ記者達が確認に向かう。駐屯地の自衛隊司令は、具体的な話はここでは出来ないと詫びた。18時にチベット首相が記者会見を行なうと聞いているので、そちらで確認して欲しい、と発言した。その頃、中国外交部の報道官が、昨日人民解放軍のヘリがチベット領内を飛行した事実を認め、謝罪会見を行ったとの一報が入った。中国側の動きを受けて、事実関係の確認の為に米軍駐屯地へ向かう。そこで中国政府の発表と、自衛隊の戦力増強との相関関係を訊ねると、アメリカ時間の朝8時に本国で会見があるので、そちらで確認して欲しいと言われ、米軍に訊ねてもラチが明かない。「バババッ」とヘリのプロペラ音が聞こえ建物の外に出ると、ヘリの大編隊が自衛隊駐屯地の方角へ飛んでゆく。自衛隊が米軍を圧倒的に上回る、兵力を揃えつつある現実が目の前にあった。
輸送機が3機滑走路から飛び立つと、今度は上空に大型輸送機が現れ、着陸体制に入ってゆく。圧迫するかのような巨大な機体が西日を遮えぎり、街の一角を日陰にしながら着陸してゆく。空を見上げると、着陸機と編隊を組んで来たのだろう。着陸の順番待ちの輸送機がラサ上空を旋回している。各国の記者達は自衛隊が配備した航空機、ヘリ、大量のミサイルを映像に撮して、チベット首相の会見の模様と合わせて報じようと決めた。国防の主力は自衛隊に転じたのだろう。恐らく米軍に何かしらの失策が生じたのではないかと記者たちは考えた。誰もが考える光景が人々の目前に展開されていた。

寝起きだったのか、国連事務総長が「チベットでの状況を知り、憂慮している」とのSNSの投稿から始まって、チベット首相の会見、アメリカ政府スポークスマンの会見の模様が立て続けに伝えられる。チベットは防衛体制の変更を決めた。アメリカではなく、日本とインド両国から防衛も含めた全面的な支援を受ける。幾つかの問題が発覚した為だが、体制変更に関する最終的な判断は、国連の決裁がなされてからとなる。「幾つかの問題」に対して具体的な言及を何処の国もせず 原因が何なのか、分からず仕舞となる。

ーーーー

米中両国にとっては大騒ぎだろうが、インドと日本・ベネズエラにとってはシナリオ通りなので 後回しとする。ラサで両国首脳会談を行い。インドに於ける新財源の活用方法につき、詳細を決めてゆく。インド議会に早々に承認して貰って、諸々の準備に取り掛からないと、来年の開始の予定が再来年に延期となりかねない。
カースト外の10-30歳の女性を北朝鮮に転出して頂く。この財源となる費用を捻出するために、第1弾として「カースト内」の低所得者で「大都市圏内に住んでいない人々」をインド政府に選出して貰う。どの集落を対象とし、どの土地に居住して貰うかリストアップしてゆく。
候補地の中からインド政府が開発事業地を用意し、日本側で発電機能を備えた長屋式住宅を建設してゆく。長屋式住宅に入居可能な人々の基準もインド政府が決めるが、「家長が現在の職に就いて10年間経過していること」と当面は位置付けるらしい。10年置きの国勢調査が終わったばかりなので、判断がし易いそうだ。入居者の家賃は無償だが、光熱費を払ってもらう。光熱費を支払えず、滞納が続くと、ペナルティとして退去させるという。
この長屋式住宅に備えられた発電機能が生み出した電力を、PB Enagy社が用意する蓄電ステーションに集約してゆく。因みに電気の管理だけではなく、ガス、水道の利用量もITで管理され、PB Enagy社のサービス子会社が各家庭に請求してゆく。PB Enagy社が集約した電気はインド国営電力へ売電され、その収益が、長屋の建築費の支払いと、北朝鮮に教育・就業目的で移住するカースト外女性3000万人用の基金に充てられる。
インド政府の費用負担は長屋式住宅の建設地の確保となる。用地の殆どで国有地を利用する方向で考えているという。対するベネズエラは、インド議会説明の為の資料作成と、説明時に使うプロモーション用の映像を用意する。

このように住宅や施設が発電した電力を財源へと置き換え、プロジェクト事業や政策用の財源等として活用する枠組みが整ってきた。国によって、必要とするものもそれぞれ異なる。太陽光が降り注ぐ南国が前提条件となるが、人口が多ければ多いほど、財源創出が可能となる。インド、パキスタン、バングラデシュ、インドネシア等では住宅が資金源となる。十分な予算や資金が確保できない国、特に地下資源の無い国にとっては朗報となる。モリが懸念したのは無暗にパッケージを渡してしまうと、住宅が生み出した電力費用が何に使われるか分からなくなるので、必ず、日本と日本企業が電気事業に携わるように徹底する。財源の健全化を維持するは何よりも重要だ。例えば、この資金が軍事費に充てられると、近隣各国との軍事バランスが崩れ緊張関係が増大する。仮に、この資金が与党の政党助成金に充てられると、野党は万年野党となる。赤字国債の穴埋めや、独裁者の私腹を肥やす目的で使われる・・そうなるかもしれないという前提に立って、日本側が常に資金の流れを把握出来るような体制を敷く。

今回インドでの資金用途は、国内長屋式住宅の建築費と、北朝鮮での教育・就業費に使われる。日本は各所で監視する格好となる。カネが絡むだけに、もし費用が悪用されれば、日本の威信も失墜する。インド政府といえども、野党もあれば、インド国民の目も有るので、注視せざるを得ない。各国別に監視体制を設けて徹底してゆく。今回、新たなる資金源創出をインド議会が認めると、北朝鮮でインド人向け専用学校と寄宿舎の建設を始め、インド側に建設する長屋式集合住宅のパーツ製造をビルマと北朝鮮の工場で始める。

その朝鮮半島で、新たな動きが出始めていた。中国が方針を変更した兆候が確認された。韓国内に入り込んでいた中国企業が撤退を始めたと韓国のメディアが報じていた。資本関係には変更はないが、一定の成果が達成できた為に、中国人社員を本国へ戻すという中国企業側の発言を放映し、韓国経済の低迷で業績が儘ならないので期待されていないのではないか、と報じていた。
またチベットでの失策により、アジア政策で新たに失点を重ねた米軍が、韓国とフィリピンからの撤退を検討し始めたとの情報も報じられる。日本と台湾、そしてASEANのシーレーンオペレーションが確立し、対中包囲網が完成した事で、米軍の存在意義そのものが薄れた。今回のチベットでの失策によって、国内の軍需産業を維持する為にアジアから撤退して、軍事費の支出を一時的に減らし、浮いた財源を兵器開発へ廻す必要があるのかもしれない。

韓国の都市部では多くの漢人が我がもの顔で闊歩する姿が見受けられたものだが、その姿今では鳴りを潜めていた。一時期は中国に国内の経済を牛耳られ、軍事的には米軍の傘下に居続けて、このままでは韓国はどうなるのか、未来を見い出せるのかと議論になっていた。中国と米軍がもし韓国から撤退するようになると、根本から状況が変わってくる。年明けに大統領選が行われる韓国では、争点の大幅な見直しが必要になる。既に韓国メディアは国の将来をどうするか、様々な意見を掲げていた。政権与党は中国と米軍という柱を失うにせよ、日本には決して頼らないと言い続けてきただけに、方向の転換は難しかった。反日本・抗日という岩盤支持層もあるだけに難しい。方や野党陣営は、与党とは真逆の政策を掲げるので、日本と北朝鮮に支援を仰ぐのが現実的な方法だとする議論が始まっていた。韓国企業とすれば、中国の撤退が進みつつある中で、北朝鮮への転出や日本の資本の受け入れが現実的な選択だろうと移転や企業提携の計画を打ち出した。財閥企業は平壌にも拠点を構えたいと北韓総督府へ打診をし始める。韓国から撤退すると言えば騒ぎになるので、韓国と北朝鮮の双方に軸足を置いて、天秤にかける生き残り策を講じた。北韓総督府・日本政府からすれば韓国の財閥が北朝鮮に来ても、日本企業が居るので相手にならず、果して事業自体が成り立つのか半信半疑だったが、来る者は拒まずに事業登録を受け入れた。企業だけでなく、人々の動きも活性化していた。この10年間は大学を卒業して韓国企業に就職できなかった人々が、北朝鮮で就職すると言う流れと、軍に入りたくないと軍への入隊を拒む若者が北朝鮮に転ずる動きがあった。そこに、韓国企業を離職して北朝鮮入りする、3つめの群れが目立つようになっていた。

北韓総督府は韓国の人々の更なる流入を黙認した。幸いにして新住居に北朝鮮の人々が移転すれば、従来の住宅が空く。そこを簡易的にリフォームし、居住していただくよう、急遽整えていた。
中には稀に個人資金を持っていて、新住居に加入したいとか、個別に家を建てたいという人々もいたが、特に制約もしなかった。

その流入とは異なるかのように、プルシアンブルーグループ企業で従事する北朝鮮の社員がソウルへ移動を始めだした。北朝鮮へ移転した企業が使っていた社宅や寮に入居してゆく。プルシアンブルー社の先発を担うのはBlueStar製薬のMR達だ。会社から支給された軽自動車に助手のAIロボットと共に韓国中の病院へ薬の提案に向ってゆく。企業の倉庫を改良して大型冷蔵冷凍庫を持ち込み食料品倉庫に改良すると、IndigoBlue Groceryのネットスーパー事業が始まった。食料品だけでなく、生活衣料のRs / Rs Sportsの服や靴もドローンが配送してゆく。

38度線北朝鮮領内の数カ所と、手に入れたソウル市内の活用用途の見いだせない地所に、北朝鮮からヘリで空輸した巨大な電波塔を建てて、放送事業を始める。ソウル市内に建設するプルシアンブルーグループのビルの屋上に電波塔を建てれば、韓国全域での受信がカバー出来るようになる。北朝鮮内で放映しているテレビ局とAM/FMラジオ局を受像・受信出来るようになると、韓国のテレビ局・ラジオ局の受信率が下がっていった。日本と同じで24時間ニュース専門局「United Nations」バラエティ番組専門放送局「VarietyProgram」への韓国の人々の反響は凄かった。人々は北朝鮮の放送局だと半ば信じ込んでいた。そして北朝鮮で発行している新聞「The Nation North Korea Edition」の販売がPB Motorsの各ディーラー、携帯・IT機器販売店PB Mobileで始まった。新聞1部あたりの値段は1000ウォン(約100円) と、北朝鮮・日本と同じ値段で販売していた。

IndigoBlue Groceryの朝鮮人営業マンが、韓国内の個人経営のスーパーとコンビニに飛び込んでいき、「インディゴブルーで扱っている商品をこの値段でご提供します」と紹介してゆく。同じ商品でも卸値が安いので、個人スーパーは「Indigo blue協賛店」となりコンビニは北朝鮮や日本のコンビニ「Indigo Blue」に変わってゆく。スーパーもコンビニと同じで24時間営業となり、19時から9時まではロボットが人間に変わって就業するようになる。
韓国に進出した企業といっても全てプルシアングループだが、そのCMが「Variety Program」で流れてゆく。そのCMを作成したのがAngle社だ。韓国には進出していないがネットでCM制作を請け負います。サンプルは無料で、採用された時にお代を頂戴しますという、モリ・アユムのコンセプトを踏襲したものだった。このように、6月の中旬を見計らっていたかのように、プルシアンブルー各社が韓国内へ展開していった。

北韓総督府は、韓国内の鉄道と北朝鮮の鉄道、北朝鮮の港と航路を繋げませんか?韓国内の国内航空路線を北朝鮮主要都市と繋げませんか?と韓国政府に持ちかけてきた。

「日本の揺さぶりだろうか」「野党を利する動きとしか思えない」と韓国政府は揺れた。しかし、野党議員が多数を占める議会で、鉄道・航空路線の接続は採決の結果、承認されてゆく。すると北韓総督府が、追加の提案を行ってくる。航空機の副操縦士にロボットを採用し、鉄道・路線バス・定期連絡船の運転手・操舵手をロボットでも可能と認めて頂きたい。そうなれば航空機のパイロットは1人で済むし、鉄道も運転手不在のまま、韓国に乗り入れられる。北朝鮮ー韓国間の長距離バスの運行も、人手が掛からず出来ると訴求し、韓国議会はこれらも全て承認する。スーパーコンビニだけでなく、交通機関でも働くロボットを韓国の人々が見掛けるようになる。

次に驚いたのは、韓国空軍は北朝鮮内の航空自衛隊の滑走路を利用しても良い。北朝鮮の都市部上空以外は高度を保って貰えば飛んでも構わないと一方的に言ってきた。航空自衛隊/海上自衛隊/陸上自衛隊は韓国の基地には寄らないが、高度を保つので韓国上空を飛行させて欲しいと進言してきた。
在韓米軍撤退後を睨んだ、提言でもある。

韓国政府は警戒する、日本は北朝鮮を利用して、この韓国を飲み込むつもりで居るのではないかと。

ーーーー

台湾のテレビ局とAngle社が放送分野で提携関係を結んだ。Angle社が制作したテレビ局「Variety Program」で取り上げた番組を、台湾側に提供すると共にニュース専門チャンネル「United Nations」を台湾の新チャンネルとして登録運営し、朝昼晩の台湾国内のニュースを制作し放映することになった。制作と言っても必要な国内の映像を収録して、どのニュースを取り上げるか決めるだけで、ニュース原稿やアナウンサー、スタジオ風景は全てAIが作成する。映像を録って、採用するニュースと順番を決めるだけで良かった。

この台湾のニュースと香港のニュースを加えて、United Nationsの国際ニュースを若干減らして、その枠で中国国内ニュース番組も制作し、中国向けに衛星配信してゆく。中国の全員が視聴できる。中国共産党への揺さぶりだ。情報統制などさせやしない。後任の主席が情報公開に積極的な、自由主義経済信奉者が選ばれるように画策してゆく。

現在、タイとビルマでもNation社とAngle社のTV局、ラジオ局が視聴できるが、ラオス・ベトナムでもTV・ラジオ放映を始めて、両国と北朝鮮が中国と国境を接する地帯に電波塔を建て、中国南部に向けて台湾向けの電波を流す。これで中国全土への放映が可能となる。

ーーーー

中国政府も困惑していた。青海省の人民解放軍のヘリがチベット領内へ飛んでいった。締結したばかりなのに明白な協定違反だった。「協約通り、300万USドルをチベットへ支払え」とチベットが代理人としたモリが、中国に請求してきた。これは不味いと判断して韓国からの資本撤退と、南米進出の中止と、もしくはモリとの裏取り引きで、吉林省と黒竜江省をモリへ譲渡し、表面上は2省の北朝鮮との経済提携を活性化すると言う形にして、事実上の北朝鮮への領土統合を認めて、対価としてウィグル収容所の問題表面化も合わせて情報公開を封印して貰うのはどうだろうと議論し合った。まず、チベットとの協定違反金3兆円は韓国撤退の余剰財源で手を打つ。違反金の支払いの際に、吉林、黒竜江省の扱いにつき、モリと個別交渉しようという事になった。内相が万策尽きた主席に、助け舟を出した格好となった。このプランは梁振英が考えたものだった。中国政府としては、最早頭を下げるしかない。日本抜きにして、中国の状況打破は出来ないからだ。

この頃、間の悪い事に中国海軍の新型原子力潜水艦が完成し、進水式が行われていた。海軍の幹部達にとっては待ちに待った、新型船の完成だった。静粛性も然ることながら、推進力も従来の原潜の1.5倍近い能力を備えていた。日本のソナー網を掻い潜って、日本と台湾の太平洋側を航行して中国軍の技術力を見せつけてやろうではないか。日本の太平洋側にも迎撃ミサイルを用意しないと、中国が挟み撃ちにするぞと威嚇しようと何やら勇ましい。
この海軍の意向を後押ししていたのも、主席の対抗馬でもあるタカ派の広東省の知事だった。日本に一矢報いて、日本と台湾の包囲網など恐れる必要は無いと掲げて、一気にポスト主席の候補者へ駆け上がろうと企んでいた。

ーーーー

「アメリカは三度目の敗戦を味わった」アメリカのメディアは自国を酷評した。米軍撤退が正式に決まると勝利が確約されていた駐留の失敗を擁護するものは誰も居なかった。そもそもの対策に乗り出そうとしない米国の姿が、再び浮き彫りになった。
今でこそ、日本のITによって大幅に改善されたが、時刻通りに走れない鉄道、当たらない天気予報、渋滞対策に乗り出さない行政、標準的なインフルエンザで年間数万人が死亡する国、銃犯罪が毎日ある国、今回のように故障する兵器を使い続け、そこを改善せずに軍人を減らし、減らしたのにコンサルタント会社に委託して民兵、傭兵を使う。今回のチベットは武器の調達も纏めて、全て業務委託だった。米軍はノーチエックで仕様書だけ見て承認していたが、実際の兵器と人員の数量は仕様書を半分近く満たしていなかった。誰も庇いようがない、お粗末な敗戦となった。共和党も軍となると追及の手が及び腰になる。政治家にとっては聖域でもある。モリが 「在日米軍の80年近い期間の収支内容を徹底的に調査するつもりだ。当然、当時の日本政府の負担していた費用や米国に対して提供した使途不明金も合わせて、一切合切の調査を行う」と宣言したので、米国政府も共和党も頭を抱える。韓国とフィリピンが同調したら、米軍はアジアから完全撤退となってしまうからだ。モリが忘れもしないのは、共和党の最後の大統領の就任前に娘に対して数十億支援金を送ったバカな首相が居た。あれを矢面にして、芋づる式に暴いてやろうと企んでいた。

また、プルシアンブルー社が傘下の米国資本3社の本社機能を、株式を購入して米国以外の国へ移転するとHP上で報じた。既に発注を受けているプロジェクトも停止を覚悟しているという一文がアメリカ経済界には衝撃となる。米国のエネルギー政策が白紙になるかもしれない。アメリカの株式市場は、自動車、軍事企業、エネルギー関連が大きく下がり、プチ暴落状態となった。後に「チベットショック」と揶揄される停滞期間が訪れる。アメリカと中国がCO2の削減が未達成となると、人類は再び脅威に晒される。当然ながら両国は多額のペナルティを被る。2034年も間もなく折り返しを迎える。絶妙のタイミングでモリが両国へ刃を向けた。
ここまで沈黙していたロシアが、まるで呼応したかのように動き出す。アメリカ向けに日本が用意していた水素発電所を受け入れる姿勢を表明した。それにヨーロッパ各国も続いた。
地球全体で見れば、予定されていたカーボン排出基準を満たすことになる。アメリカと中国の株式市場は、下げ止まりの日々が続くことになる。

イスラエル政府は水素発電所と太陽光パネルの調達の意向を、テルアビブの日本大使館へ伝えた。このチャンスを逃す手は無かった。唯一の接点でもあるプルシアンブルーの子会社でもあるDB世界最大手のDefende社を通じて、イスラエル軍と政府でスパコンを調達したいと伝え、サウジアラビアに拠点のあるPB MiddleEast社にも一報していた。

既存の建屋を壊して更地になった土地に、アスファルト舗装をしていたアメリカの建設会社に、建設事業の一時中断の連絡が届いた。建設中の水素発電所と関連施設、病院、スーパー、そしてホテルも全て中断すると、北部の各州政府と、ホテル、酒類工場を出資する共和党にも連絡が届いた。

モリが会談で話していた事態が、現実のものとなった。共和党はチベットで何が起きたのか、政府民主党へ詰め寄った。次はプルシアンブルーのグループ会社がアメリカから出ていくかもしれない。産業政策、金融政策、エネルギー政策、環境問題政策等、ありとあらゆる民主党政権の骨格が、成り立たなくなるぞと、政策の賛成に回った共和党も困惑していた。カリフォルニアで遊説していた大統領もホワイトハウスに真っ青な顔をして帰ってきた。後先考えない勇み足が、裏目に出てしまい、弁明の余地は無かった。
ここで一大プロジェクトが中止となれば、アメリカに代替策などあろうはずもなかった。自身が大統領を退いて、何とかプロジェクトをスタートして貰うしかない・・

「しかし、ロシア、EU各国、インド、バングラデシュ、パキスタンが水素発電所の導入を検討すると報じています。日本とベネズエラはアメリカの水素発電所をこれらの国々へ持っていこうとするでしょう。日本にも生産の限界はあります。アメリカが再開を求めても、建設が終わるのは2035年以降となる可能性が非常に高い。つまり、カーボン排出量のペナルティに抵触する可能性が出てきます。地球全体で見れば、50機の水素発電所がアメリカ以外の国で稼働するので、全体のカーボン排出量は削減目標通りとなりますがね」

国務長官が冷酷に告げる。大統領が辞めた所で事態は大して改善しない。とは言え、どうやって日本を説得させればいいのか、その策が全く思い浮かば無い。

「策が無いとは言えませんが、共和党も交えて真摯に議論しなければならないレベルの話です。韓国とフィリピンから米軍を撤退させ、アメリカはアジアから退出します。この浮いた費用で経済対策案を打ち立てるのです」

 国防長官が悔しさを滲ませて言う。韓国政府への北朝鮮側の最近のアプローチを見れば、日本が韓国から米軍を追い出したがっているのは明らかだ。アジアに今後は関与しないという姿勢を見せて、和解するしかないだろう。

ーーーー

PB Motors社、Blue Mugs社、IndigoBlueGrocery社、ExxonMobi/社と米国企業の自己所有株式をチベット訪問前に5割づつ売却していたモリは、株価が大きく下がった時に売却した分の3倍の株を買い直した。売却益は出ないのでインサイダーには当たらない。4社の5割近くを占める大株主になった。

この世界同時株安のタイミングで再投資と企業買収の指示を、ラサでせっせとやっていた。また日本からの情報で、中国海軍で新型原潜を巡ってキナ臭い動きがあると知った。主席の座を狙う某省の知事が絡んでいるらしい、と

(つづく)

画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?