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17章 ビルマ共和国?  (1) PB製UAVのインパクト(2024.3改)

ネピドー入りしたBBCcのジーン・マクガイバー記者は、クーデター鎮圧となった1日の内にNLDの議員を取材して、集めた情報を直ぐに記事にした。

・少数民族で構成されているビルマ解放戦線に対して、軍部が暴走した際には議員を保護して欲しいとスーチー最高顧問が事前に要請していた。

・航空戦力の無いビルマ解放戦線は、プルシアンブルー社にドローン等のUAV機の支援を要請。万が一に備えて、プルシアンブルー社は陸路でUAVを輸送すると、タイ北部からUAVを飛翔させるプランを立てた。ミャンマー軍のクーデター勃発と同時に、少数民族の支配エリアから航空隊を越境させ、首都ネピドーと首都周辺の軍事基地を制圧した。

・ミャンマー軍幹部のクーデター前夜の会合を撮影したのは、ビルマ解放戦線の内通者。

・UAVの操舵担当、メンテナンス担当の日本人エンジニアが8名、タイ北部からビルマ解放戦線の支配エリアに侵入した。急造航空隊の指揮を取ったのは、プルシアンブルー社創業者の一人で、東京都議のモリ氏。

・モリ氏はビルマ解放戦線に留まっているが、7名のエンジニアは日本大使館に身を寄せている・・

BBCcの記者による このスクープ記事は、スーチー最高顧問とウィンミン大統領、ビルマ解放戦線の将校とモリが握手しあっている写真と共に配信された。
「事実関係が改竄されている」のを知っているのは、当事者以外では米国だけとなる。
クーデターを事前に知っていた日本の首相と防衛相、それに社会党関係者でさえもこの時点では騙されていた。BBCcのスクープを「事実」として初めて知らされた格好となっていた。

ネピドーというミャンマーの首都の特性もある。
政治機構に従事する者と軍関係者が大半を占め、一般の人々が極端に少ない。首都で何が生じており、現状はどうなっているのか、伝えるメディアが無ければ知る由もない。
軍部が発信する偏向した情報を半信半疑で受け止めていたのが昨日までの首都の状況だったので、BBCcの情報がスクープ扱いとなるのも不思議ではなかった。

当初モリが立案した計画では、「クーデター制圧後、NLDと接触」という手順を踏んでいた。スーチー最高顧問もウィンミン大統領も、クーデターと同時に軍に粛清されている可能性が高い、という含みを持ったプランだった。
米国がスーチーとウィンミン大統領がNLDを統率するのは役不足であり、2人では国家運営に支障をきたす、と分析していた。再度の軍部の台頭や国家騒乱は十分にあり得ると米国は危惧していたのだ。
クーデターが失敗に終わると知った軍の幹部達が、「せめてもの見せしめ」として、監禁した2人を殺害する・・という展開に期待していた節も多分にある。軍が2人を処分してくれれば、全てが丸く収まると言う思惑も少なからずあった。
故人となれば新政権はスーチーを美化し、人々は永遠に民主主義を唱えて、偶像化したスーチーをブッダと並んで拝み続ける。2月1日は「受難の日」として休日とする・・筈だった。
憂いが無くなり心機一転した米国は、傀儡政権を擁立するなり、米国寄りの新たなリーダーを作り上げる。日本や韓国、フィリピン等で「保守」「民主主義」を謳って民衆を偽り、対米従属傀儡政党を打ち立てて来たのと同じ流れとなる・・筈だった。

この米国主導の方法論では「新たな苦しみを民衆が被るだけ」と知っているモリは、計画の手順を独断で変えてしまう。
偶像だろうが、無能だろうが、ビルマの人々が期待しているNLDのリーダーだ、としてクーデター勃発前に保護してしまう。選挙で圧倒的な支持を集めている。これこそ、民主主義じゃないかと。

米国は「モリは最初からこうするつもりだったろう」と分析した。
NLDの支援を掲げて党のオブザーバーの地位を得て、今後のミャンマー治世に関与するつもりだろうと推測する。
今まで各国でモリが取った手順を参考にして考えて見た。
・タイとカンボジアで主にコンタクトを取っているのは、軍事政権ではなく王族側に加担している。
・アジア最大の島ボルネオ島の開発に際し、同島を所有しているブルネイ/マレーシア/インドネシアと強固な関係を構築しようとしている。
・プルシアンブルー社の最大の投資先であるベトナム政府は、一介の地方議員に過ぎないモリを国賓待遇で饗すほどだ。

以上から、ミャンマーでは与党NLDと結託して投資と開発を進めると見ていた。
また、国連未承認国家シャン王国の大統領であり、ゴールデントライアングルの麻薬王として名を馳せたクンサーの埋蔵金も狙っていると見て良いだろう。
クンサーの娘と孫を日本大使館で保護する為に、ミャンマー沖に派遣したミニ空母出雲に乗船させて出国するつもりだろう。

ミャンマーという、まだ未開拓な市場を、プルシアンブルー社の単独ではなく、日本の支援拡大まで睨んで政府を巻き込む動きを取り始めている。同時に、現時点では米国関与からの一切の排除を狙っている様に見えてしまう。
モーラン駐日大使は大笑いし、米国大統領は苦笑いしたが、表向きは作戦の責任者であるCIA幹部のサミュエル・アッガスは激高していた。
アメリカが関与する箇所が皆無となり、CIAが当てにしていた活動財源、クンサーの埋蔵金が奪われそうな状況にある。

アッガスとしては諦める訳には行かなかった。埋蔵金を手するゲームは劣勢だが、まだ終わってはいない。アッガスは裏切り行為と断定しており、作戦内容を勝手に変更する行為に及んだモリを追い続ける。何処かに潜伏していると言うのだから。

ーーー

1日の午後にネット配信されたBBCcのスクープ記事は、世界中で話題を呼んでいた。
モリが国際政治の場に初めて姿を晒したので内外で反響を齎しているのだが、ミャンマーのクーデターを裏で画策して、大失敗した国にとっては「コイツの介入で失敗した」と判明したので、北京・中南海ではちょっとした騒動となっていた。
ミャンマーでの権益を失う事態となれば、一帯一路にも影響が出るだけでなく、ミャンマーの地下資源、石油ガスを日本に奪われかねないからだ。

更に中国国防省と人民解放軍には強烈な打撃となった。
ミャンマー軍が短時間で制圧された事実に衝撃を受けていた。ミャンマー軍の主要装備は中国製の兵器が占めており、尽く機能しなかった事実に困惑していた。
中国は、対立するインドとの防波堤としてミャンマーを位置づけて来た。近年は中国内同様の防衛体制を構築、最新の軍備を増強してきたが、防空網を難なく突破され、空軍が壊滅するのと同時に呆気なく制空権を奪われ、僅か数時間で正規軍が鎮圧されてしまった。

一体何が起きたのか?
部分的な情報のみで詳細は不明だが20機程のUAVが投入されているのは確認していた。ビルマ解放戦線と思われる組織が、UAVがミャンマー空軍の基地を攻撃している映像を公開している。
レーダーが捕捉しづらい小型ステルス機と認めながらも、対空ミサイルを始めとする中国製の迎撃網が全く機能せず、1機も墜していない。
「UAVに代表される新テクノロジーは、単独で戦闘の様相を一変させるには至っていない」というのが世界の定説であり、中国国防省もそう解釈していた。
ジャミング装置に代表される電子戦によりUAVの遠隔操縦を無効化し、対空ミサイルで迎撃せずとも勝手に墜落する・・ハズだった。

「・・米国のHARMの様な高速対レーダーミサイルが主要なレーダー施設を先行爆撃し、ミャンマー軍の防空システムを無力化するのと同時に、解放戦線側のUAVがその間隙を突いて主要な基地を制圧していったと思われます」
国防大臣が額に汗を浮かべながら、主席に報告する。
プルシアンブルー製のUAVを1機も迎撃していないばかりか、反撃している映像すら一つもない。
同社製UAVが「単体の軍事アセットとして有効に機能する」現実を、中国製の防空システムが認めると言う大失態となった。UAV単独で中国本土の制空権をも脅かせると、証明してしまったのだから。同時に、中東諸国を始めとする各国への中国製兵器ビジネスが停滞するのも間違いない。

各国がプルシアンブルー社にUAV提供を申し入れ、もし、インドと台湾が同機を手にすれば中国本土は深刻な状況に陥いるかもしれない・・・

ーーーー

「ヘリコプター搭載護衛艦」が「いずも」の正式名称だ。
海上自衛隊所属出雲型護衛艦の1番艦で、2番艦の艦名を「かが」といい、海自ヘリ空母「ひゅうが」の上位艦に当たる。
全長 248.0mのいずもは艦載機発着用に艦首から艦尾まで、全通式の発着用飛行甲板を備えている。満載排水量は26,000トンで旧日本海軍の中型空母「蒼龍」(227.5m、20,295トン)を上回り、2019年時点で海上自衛隊最大の自衛艦となっている。因みに「ひゅうが」のサイズは197m、19,000トンとなる。
建造費用は1,139億円だ。米国のF35が1機だけで100億円越えるのを考えると、F35を100機買うよりも出雲型ヘリ空母を5隻建造してプルシアンブルー製のUAVを100機購入して搭載した方が、造船費用が国内の重工メーカーに落ちるので景気対策にもなるし、何と言っても防衛力が格段に増す。

「F35・100機キャンセルは、大英断だ!」
ミャンマーの日本大使館員の黒岩は「いずも」の甲板に垂直着陸するプルシアンブルー製のUAVを眺めていた。同僚のネ・ウィンにしてみれば、祖国の救世主となった機体だ。涙目で着艦光景を眺めていた。
プルシアンブルー社のエンジニア5名と源 翔子、屋崎由真、アリア、リアムの母子はバンコクへ同艦で運ばれ、日本大使館で聴取を受ける。  

「あぁ由真さん、行っちゃうのかぁ」
ネ・ウィンが呟くので黒岩が笑いながらも、埠頭で中国・ロシア・韓国の3カ国のミャンマー駐在の大使館員がビデオ撮影しているのを見ていた。

日本の新たな海軍力・空軍力の誕生に度肝を抜かれている。いい気味だと思っていた。

***

いずも艦内での行動は制限されていたものの、翔子と由真は艦内を女性自衛官に案内され、部屋を充てがわられた。

「大使館に着いた時も安心したけど、陸から離れた分落ち着くねぇ」
「まだ港に接岸中だけどね」と従姉妹同士で寛いでいた。
娘の玲子が養女達とバンコクに到着しているのに翔子は驚き、CIAのサミュエル・アッガスから夕飯に誘われたが、バンコク支社の王女コンビとバンコク滞在中の里子から却下を食らって、王女達の家に居るという。
当初のプランから逸脱した内容なのでアメリカ側と関わらない方が望ましかった。ビルマでの事情を知らされていない娘たちをバンコク支社のメンバーが支えてくれたと、合わせてホッとしていると同室の由真が口にする。

「先生とマイちゃん、タイ領内に到達したみたい。道中、何もなかったって」
由真がタブレットを見ながら報告する。
翔子は自分のスマホを見るが、モリから連絡は届いていない。
「この薄情者め!」翔子は小さな白い枕を力の限りパンチした。

***

マレーシア・クアラルンプールで北朝鮮の今後について協議していた4カ国、米韓中露の代表団の元へ、ヤンゴン港に停泊中の日本のヘリ空母に着艦するUAVの映像が届いた。

アメリカ側は異なるUAVを提供されているので驚かないが、「乗船中のエンジニア達が何もしていないのにUAVが垂直着艦している」という一点で3カ国の代表団が大騒ぎとなっていた。
マイゲル・ボルドン米国特使は笑みを噛み殺すのに必死だった。

ジャミング装置等の利用によるミャンマー軍による電子戦で、UAVを撹乱出来なかった理由は「自立型UAVだったから」と映像を見て悟ったのだろう。
「リモート操作による攻撃が実施された」という「思い込み」に今頃になって各国が気がついた。プルシアンブルー社は、ヤンゴンでの着艦風景をワザと見せて、その「反響」を予め盛り込んでいた、という訳だ。

中国製の航空防衛システム網を易々と撃ち破る自立型UAVが登場した。
しかも、強襲揚陸艦アメリカのクルーは米国向けのUAV以上の機能を持っている可能性があると証言している。プルシアンブルー製のUAVの後部デルタ翼の下部に備えられたミサイルは可変式になっており、機体下部の半球を対象に飛翔しながら狙えるという。
ドッグファイトに代表される戦闘機同士の交戦時は、相手の背後を取って射撃するのが一般的な迎撃方法となっているが、パイロットがAIなので上下左右360度を常に視野に入れながら飛翔している。敵機や不意に地上に現れた対空部隊を、機首を変更することなく攻撃出来る。F35が背後についた敵機を迎撃する手段を得たが、プルシアンブルー製のUAVは更に上を行く可能性が極めて高い。

また、機体のボディをチタン合金とアルミを多用する事で軽量化を図っているようだ。米軍に提供されたB-117と比べて4割近く軽量化しているという。無人機なので被弾を前提としている。しかし、軽量化と前翼可動による操舵によって、B-117以上の旋回能力を得ており、軽量化で飛行継続距離も伸びている。F22/F35の第5世代戦闘機を遥かに凌駕しているのではないか?と、強襲揚陸艦アメリカのクルーはレポートしている。

そもそもAIによる操縦なので、ヒトの耐G性を無視して飛行出来る。パイロットの操縦を上回るのも確認済みだ。
「B-117を墜とせる戦闘機は存在しない」と国防総省のスパコンがそう断定しているが、今回の機体はB-117を上回る最強の第5Alpha世代機である可能性が高い。

突然現れたプルシアンブルー社は戦闘機産業と防衛市場を大きく変える一石を投じた格好だ。
無人機だからこそ機体が小型軽量化となり、ヘリ型空母に搭載すると、フル空母を上回ってしまう。
米軍も国防に対する考え方を改めなければならないが、自立型UAVを持たない国の方が大騒ぎだろう。

国防総省はプルシアンブルー社には輸出先を限定するように求めている。同社製UAVは厄災を齎す多目的利用が可能となるからだ。
先ず、彼らはトマホークやSCBM等の誘導ミサイルを開発する必要が無くなった。バギーが北朝鮮の核施設で爆破したように、ステルス機能で領空侵犯して攻撃対象に特攻するのが容易になった。UAV自体を最強のミサイルとして活用出来る。何れ特攻用のUAVをラインナップに加えるだろう。

「モリと言う男、そしてプルシアンブルー社の幹部達と一度会ってみたいものだな」

北朝鮮協議を他所に我を忘れて混乱している中露韓の代表団を見ながら、マイゲル・ボルドン米国特使はそう切望し始めていた。

(つづく)


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