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自転車日本一周の旅60日目
おばあさんたちの話し声で目が覚めた。3人のおばあさんたちが椅子に座り、コーヒーを飲みながら話をしている。周りに民家がなかったので、このパターンは想像していなかった。
コソコソ支度をしていると、おはようございます、と言われる。おはようございます、と返事をして、猛スピードで支度する。時計を見たら、まだ朝の7時だった。
道の駅を出て、セブンイレブンでパンを食べる。コーラを飲んで気合を入れ、山道を走った。
途中、次の坂が見えるほど見通しのいい場所を通過した。遠くに見える山の一部は赤と黄に染まっている。
なぜ、人は紅葉を見ると感動するのだろう。季節の移ろいを感じられるからだろうか。なぜ季節の移ろいを感じると感動するのだろうか。生を実感するからか。谷川俊太郎みたいなことを考えながら自転車を走らせた。
ジーンズストリートに到着。来年から繊維業界で働くので、ここには来ておきたかったのだ。
洗濯物かと思った。
通りを歩く。どの店もジーンズだらけだ。ジーンズソフトクリームとかがあったら食べようと思ったが見当たらない。
そしていくつかデニムショップを見てまわり、その値段に驚く。原宿で「ナイスな店がある」と声をかけてくれた、ショーンポールみたいな兄ちゃんの店では、新品の桃太郎ジーンズは7000円だった。
しかし正規の店では25000円もするのだ。あのとき、ショーンポールを信じなくてよかった。
ジーンズソフトクリームを探したが、やはりなかった。「かっこいい通りだったなぁ」とバカ丸出しの感想を自分に言い聞かせながら街を出る。
(追記:今もないのかなと思って調べてみた。すると、この翌年である2015年に「デニムソフトクリーム」を出す店がオープンしたみたいだ。次は食べよう)
また紅葉。いい景色〜。さいこ〜とか思っていると、倉敷市に入った。
倉敷といえば美観地区である。美しい街並みを見て回ろうじゃないか、と思って国道沿いを走っていると、道路が二手に別れた。右側は上に向かっており、左側はそのまま信号に差し掛かる。
信号が赤だったので右側に入った。これまでの経験では、この右側の道は、ちょっとだけ走るとまた道路に合流するのだ。たくさんそういう道を走ってきたのだ。
坂を上がると、バカでかいトラックがすぐ横を通過する。排気ガスの臭いはスゴイわ金玉は縮み上がっているはでもう、とんでもなく大変だった。
坂を登り終える。青空が近い。左手には山々に囲まれた街が見える。眺めを見て爽やかな気分になった。
爽やかな気分になったのだが、同時になにかが違うとも思った。道路に終わりが見えないのだ。見通せる限りだと、限界までこの道は続いているた。最後は角に曲がって見えない。角の向こうにもあるのだ。
立ち止まろうとするとトラックがビュンビュン通り過ぎていった。立ち止まるわけにはいかなさそうである。
ここはどこなのかがマジでわからない。マジで、ここはどこ。
出口があることを願いながら走っていると、後ろからクラクションを鳴らされる。振り返ると、一台のトラックがスピードを緩めて走っている。
前方に注意してからもう一度振り返ると、おでこにタオルを巻いたグラサンの運ちゃんが運転席で何かを叫んでいる。僕に向かって。
何も聞こえないが、僕に向かって必死に叫んでいるのだ。
運ちゃんのトラックが並走する。窓ガラスがあき「兄ちゃん!ここはバイパスだぞ!」とおっちゃんが叫んだ。
「やっぱりバイパスでしたか!」と僕も叫ぶ。やっぱりバイパスでしたか!という感じだったのだ。「まっすぐ行ったら下りられますかね?」
運ちゃんは首を横に振る。「引き返した方がいい!いますぐ!」
いますぐ引き返せって……と思っていると、運ちゃんは「気をつけてな!」と言いながら走り去った。感謝。僕は止まって後ろを振り返る。
車が走っていなかったので全力で自転車を漕いだ。ただただ車が姿を現さないのを願いながら。
幸い車が通らなかったのだが、入口が見えたときに限って軽自動車が現れる。ルールを破ったのは僕だが、勘弁してくれ!と叫んだ。
すると願いが通じたのか、車は僕に気づくとスピードをゆるめてくれた。感謝。無事に入口を下って出た。
地面についたときの脂汗がすごかった。変なアドレナリンが出ていて、我に返った瞬間にめちゃくちゃ体が疲弊していることに気づく。ポカリを飲んで休憩した。
ストレッチして出発。そして美観地区を見ようとしていたことを思い出してすぐに立ち止まる。地図を見るともう通り過ぎていた。あちゃー。また今度のお楽しみだなぁ。
その後はただひたすら山を上って下りるの繰り返し。
途中、コンビニで休憩し、これからのルートを考える。すると備前市には小さな港町があり、牡蠣のお好み焼きである「カキオコ」が有名だということを知った。
カキオコ、絶対おいしい。
備前市に向かう。途中、海が見えた。波が穏やかだからか、静かで澄んでいた。秋は静かだからリラックスできていいね。
小さな港町に着いた。おいしそうな店があったので入ってみると、おばあちゃんがお孫さんとお話をしていた。
カウンターに腰を下ろしてカキオコを頼む。ソワソワしていると男の子に話しかけられた。
その子は妖怪ウォッチが好きらしく、いろんな妖怪を教えてくれた。おばあちゃんは「話聞いてもらってるの」と笑っている。なんと平和な世界なのだろう。
喋りながら食べた。牡蠣×お好み焼きなんてもう、見るからに反則である。美味しくないわけがない。しかも鉄板の上からはソースが焦げる香り。美味しくならないわけがない。
ビールを飲みたかったが、我慢してサイダーを飲む。お好み焼き屋で飲むサイダーは最高。
男の子にもサイダーの入ったコップが渡されたので乾杯した。めちゃくちゃ癒される。おいしかった〜。泉富久(せんぷく)というお店です。みんな行ってくれー!
お腹いっぱいになったあと、おばあちゃんと子供店長に手を振って見送られながら街を出る。海を見ながら急な坂を登り、山に入った。空が暗くなりつつあった。
その後も自転車を漕ぎ続けて、ついに赤穂市にイン。ついに近畿に入り、旅の終わりが見えてきた。
途中、小さな街で銭湯を見つけたのでお風呂に入る。久しぶりの風呂は最高だった。
フルーツ牛乳を飲みながらのんびりテレビを観ていると、番台のおじさんに話しかけられる。少し話をして出発。街灯が1つもない山に入った。
真っ暗な道を、自転車のライトを頼りに走る。真っ暗な道を走るとき、めちゃくちゃスピードが出ているような気がするのはなぜか。
アップダウンを何回も超えて汗だくになる。風呂に入るタイミングを間違えたなーと思って坂を下っていると、道の駅が現れた。
近くのスーパーが半額祭りだったので大量に買った。下品だけど、今日はこれくらい食べたい日だったのだ。
なぜなら、今日で野宿は最後だからだ。
明日、僕は大阪の先輩の家に泊めてもらうことになっている。だから、外で寝るのはこれがラストなのだ。
ご飯を食べて酒を飲みながら、この旅をちょびっと振り返る。貧乏旅行なりには美味しいものをたくさん食べたなぁと思った。本当に奢ってくれた方々に感謝です……ありがとう……。
そして、さすがに全部は知れなかったが、日本中のいろんな景色を見たなぁと思う。
これまでに見た景色を思い出しながら、旅を通して飲めるようになった日本酒を飲んだ。おいしかった。
最後の野宿だから寝れなかったらどうしようかと思ったが、疲れていたのですぐに寝た。
終わりは意外とあっけないものだ。またいつか、僕はどこかで野宿をするのだろうか。
生きます。