自転車日本一周の旅57日目
空が明るくなる前に家を出た。吐く息は白く、外はかなり寒い。Hは眠そうな顔をして送り出してくれた。まるで、またあとで会うみたいだ。ありがとうH。
のんびりと道を進むと、街全体にかかっていた靄が晴れていく。すぐに朝になった。
喉が渇いたので、小さいスーパーで缶のキリンレモンを買って自転車を押しながら飲む。のんびりとした雰囲気が流れていていい感じだ。山口県っていいところだなあ。
そんなことを考えていたらアップダウンに襲われる。クリアすると標識が見えた。どうせなら行きに通っていない場所を走ろうと思い、右折して海際に出る。
海の上に道路があったので走る。風は冷たいが、太陽が気持ちいい。体がポカポカあったまっていく。
途中、もう一度通りたかった道を走る。山中にある、小さな川が流れる街がすごくのんびりしていて好きだったのだ。古びた小学校の近くを走り、また山に入る。
そして山の途中にあるお店に立ち寄る。山賊焼きが有名らしい。
お腹が空いていたので、山賊焼きではなく、山賊おにぎりというやつを頼む。爆弾みたいな、めちゃくちゃデカいおにぎりが運ばれてきた。
具が3種類も入っている。そういえば、母はいつも3種類も中身が入ったおにぎりを作ってくれた。大きさは違うが、懐かしい。
米を食うとマジで力が出る。日が暮れかかっている山を超えて、小さな街に入った。
くたびれた雰囲気のスーパーがあったので、そこで夕飯をゲトる。閉まりかけていたらしく、弁当を安く買えた。感謝。地酒とビールも買った。
そして今日はここで野宿することにした。
錦帯橋である。数年前、家族旅行で来た場所だ。
あの椅子に座り、姉と話をしたのを覚えている。なぜかわからないが、姉のテンションがめちゃくちゃ高くてかなり爆笑した。なにがあって笑ったのはわからないが、かなり腹を抱えていた記憶がある。
その椅子の上にテントを張って寝ることにした。かなり目立つ場所だが、なぜかそこがベストに思えたのだ。
そして、お弁当とお酒を持って川沿いに出た。
錦帯橋を見ながらご飯を食べて、月を見ながら酒を飲んだ。なぜか、脳内でスチャダラパーの「彼方からの手紙」が再生されていた。
1人で見る景色もいいけど、誰かにも見せたいもんだと思った。友達の顔がいくつか浮かぶ。また遊びたいね。
酒を飲んだら良い気持ちになれたので、テントのファスナーを開けた。
するとおじさんが寝ていた、というのは大嘘で、普通に近くの洗面所で歯磨きしてトイレに行ってから寝転がった。
人は誰も通らず、気づいたときには眠りについていた。
生きます。