自転車日本一周の旅49日目
寒すぎて目が覚めた。声を出そうとすると、喉が乾燥してひっついており、声が出ない。枕にしていた2リットルの水をガブ飲みした。甘ったれたことを言うと、野宿には本当に厳しい季節になってきた。
テントのファスナーを開けると、目の前にこんな景色が。一瞬で目が覚めた。
タバコを吸いながら震えていると、軽トラに乗った農家のおじいさんがやってきて、兄ちゃん寒いのにようがんばってるな、と缶コーヒーを2本も買ってくださった。人から奢ってもらってばかりだ。
感謝しながらコーヒーを2本飲み、タバコを吸った。そろそろ出ようかなと思って用意していると、違うおじさんが車に乗ってやってきた。
その人は旅人を応援してまわっているという。福島から来たそうだ。旅人を応援するために旅をしているという、よくわからないことになっているおじさんは、僕が旅人だと知るとめちゃくちゃ嬉しそうな顔をした。そして缶コーヒーを買ってくださった。もう2本飲んだとは言えなかった。
おじさんが目の前で缶コーヒーをすすり出したので、僕も缶コーヒーを飲まざるを得ない状況になる。3本も缶コーヒーを飲むことになるとは思わなかった。
缶コーヒーといえば、中学生のとき、朝によく缶コーヒーを飲みながら友達と学校に行った。なぜかよくわからないが、缶コーヒーを飲む=大人になった気分になれたのだ。野球チームでコーチや監督が缶コーヒーを飲んでいたからか。親父は缶コーヒーで僕がコーラだったからか。
もはや旅人のおじさんは、タバコを2本ほど灰にすると缶コーヒーを一気して出て行った。今日も旅人を応援して回るという。変わったことをする人もいるものだ。
腹が痛くなったのでトイレに行き、用を足し終えるとまた地元のおじいさんに話しかけられた。起きてから1時間もしないうちに、3回も旅の話をするハメになる。話しかけられるのはありがたいが、そろそろ行かないと夜に間に合わない。
おじいさんが去ると、また別のおじいさんと目があったが、僕は出発した。すいません。
カラッと晴れていてとても気持ちよかった。潮風が爽やかだ。気持ちいい気分で走ることができた。
10時過ぎに諫早市に入る。ついに長崎!僕が一番来たかったといっても過言ではない場所。
みかんを食う。温暖な気候で育ったからか、甘酸っぱくてうまい!
昼過ぎ、長崎市に入る。街が見えた瞬間にお腹が鳴った。長崎であるモノを食べるために、みかん以外口にしていなかったのだ。
長崎市街を走る。インスタに写真を上げると、サンフランシスコに住んでいる後輩から「住んでいる街に似てます」というコメントが。アメリカっぽいんだーと思うとテンションが上がる。
たしかに街並みが近代の西洋風ではあった。お洒落なレンガの建物やコンクリートの建物が残っている。
ただ、坂はきついし、広島県みたいにその坂に家が建っている。土砂崩れがおきたらどうするんだ?と思うような町の作りなので少し驚いた。
ということで、本日のお楽しみ、ボルドーへ。
ずっと食べたくて食べたくて仕方がなかったトルコライスを食べた。このトルコライスは
クッキングパパで出てくるのだ……(より正確には、この画像のトルコライスは、ボルドーのトルコライスを食べられなかった田中のために一味がつくったもの)!
中学生のときの修学旅行は長崎県だった。そのとき既にクッキングパパでトルコライスに憧れていた僕は、旅の日程を決める際、友達にその魅力を語った。
あれはまさに大人のお子様ランチなんだと。大人が唯一食べることを許されるお子様ランチなんだと。
だが却下されてしまった。なにを食べたのかは思い出せないが、僕の友達なので多分マクドナルドだと思う。それ以来、ボルドーのトルコライスを食べられなかったことが心残りだった。
念願のトルコライスはただただ美味だった。そして、「僕は今長崎県に自転車で来て、念願のトルコライスを食べている!」と自覚する瞬間が至福すぎた。
一杯じゃ満足できねぇ。
ハシゴした。ここは「ツル茶ん」。タイプが異なるトルコライスである。
トルコライスには厳密にルールがないように思う。みんなが好きな味を3つ用意すればいいのかもしれない。こんなに嬉しくなる見た目はそうそうない。
カレーが美味し過ぎた。2杯もトルコライスを食べるなんて贅沢すぎる。
そしてしっかりミルクセーキを決めた。たまごくさくてめちゃくちゃ美味しい。甘さもきつくなく、やさしい味だった。
最高でした!僕に夢を与えてくれてありがとう!うえやまとち先生!
食後、商店街を歩く。地方都市の商店街は適度に賑わっていて本当に最高だ。おばあさんに話しかけられ、次にティッシュ配りのお兄さんに話しかけられた。
お兄さんは結構マジな感じで「いくらくらい貯めました?1日にどれくらい走ってます?」と訊いてきたので答える。21歳の大学生で、旅をするかどうか迷っているらしい。やっちゃえよ。
15歳ぶりに平和公園を訪れて手を合わせる。
その後、近くのモスバーガーでコーラを飲みながらMを待った。Mは大学の友達で、今は長崎県で新聞記者をやっている。今日はMに泊めてもらうのだ。
仕事が終わったと連絡がきた。少し歩いたところにある、浜町で合流する。浜町は飲み屋街だという。
1軒目は海鮮が美味い店に連れて行ってもらった。Mはメガネで真面目そうだが、実はめちゃくちゃエロい。Mにはしっかり彼女がいる。いつもいる。Mが奢ってくれた。
2軒目はMの友達が働く立ち飲み屋へ。卓上の器にお金を置いて飲み物や料理を頼むとそこから引かれていく。Mが奢ってくれた。
この店がまた最高で、僕とMはずっと喋りながら飲んだ。
だんだん記憶が曖昧になってきて、気づいたらもう夜中の2時だった。
シメに行こうとMがいうのでラーメンを食べて帰ることに。ラーメンを頼んだら豚骨ラーメンが出てきた。九州ではラーメンは中華そばではなく豚骨ラーメンだという。
お店のおばちゃんと喋りながらビールを飲み、またMにご馳走になった。今日は本当に奢ってもらってばかりだ。
そのままMの家に行った。Mの上は坂の途中にあり、かなり広い部屋だった。家に着いたのは朝四時。Mは仕事なんてどうでもいいや、と言って歯磨きすると寝た。
Mの寝息を聞きながら、仕事があってもこんな時間まで遊んでくれる友達がいることが嬉しかった。サンキューM。たくさんいい思い出ができた、とても幸せな1日だった。
生きます。