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フィクション

出会いは大学時代のアルバイトだった。

当時の俺は金欠で、何事をするにもお金が頭の片隅にある状態。

いくら焦らない性分の俺でも、(これはいけない)と思い、アルバイトを始めることにした。

先輩からの紹介で入ったバイト先はとても楽で、立って同僚と雑談しているだけでお給料がもらえる呑気な職場。入って一ヶ月は楽しくお話ししているだけで最高であった。
すぐに馴染めたのは幸運だった。

しかし、いきなり状況が一変した。

「はじめまして、今日からお世話になります。吉田です」

いつも通り、バイト先のロッカーを開いた時だった。
目の前に天使が舞い降りた。
こう表すと仰々しいが、当時の俺はそう感じたのだ。

身長は150cmくらい、ただそれを隠すように履いた厚底の靴。
幅広な白い服にはたくさんのフリルが付いており、締め付けた腰から広がるようなチェックのスカート。
大きいマスクに覆われた小さい顔、可愛いを強調するかのように施された黒い目元。
純な金色に染まった髪は後ろで丸く収められている。いわゆる地雷系。

自分の思う可愛いを詰め込んだような少女に出会った。

その瞬間なんだと思う。恋をしたのは。

「よろしくお願いします」

ぎこちなく俺は返事をした。動揺は隠し切れてなかったと思う。

その日から俺の楽しいが淀んでしまった。

同僚との楽しい雑談も、職場にその子がいるという事実だけで意識がそっちへ傾いてしまう。家にいたら少しは落ち着くが、生活のどこかでチラついてしまい、心が乱される。

その子と話す機会はあまりなかった。同じフロアにならず、あまり話せる機会がなかったから。
その子もバイト先の人と仲良くなることはあまりなく、仕事は仕事と割り切るような人間であり、あまり交流はなかった。

そんな日が二ヶ月ほど続いた。

流石にこんな状態が続くのは嫌、そして関係を深めたいと考えはじめた。

そんな矢先、ちょうどその時同じフロアになり話をする機会が到来した。会話を通して、どんな人間なのかを知り、より深くその子のことを思うようになった。
自分の好きなものに一直線、格好通りしっかりした芯がある部分が羨ましく、きれいに感じた。

思い切ってその子が好きな映画を見に行こうと誘った。断られるかなと半分諦めていたが、案外すんなりO K。

当時の俺は布団の上で小躍りしちゃった。今思うと滑稽。

デート当日、映画だけを見て解散した。ご飯に行こうと誘うが、用事があるから難しいと。
理由は今になってもわからない。多分楽しませられなかったのと、当時の俺がダサかった、見た目が悪かったからなのかなと思う。

それから、その子とはあまり職場でも話さなくなっていき、就職のためバイトを辞めるとなり、東京からも離れた。関係はそこで終了し。これっきりだ。そしてその子のことを考える頻度は減った。しかし頭から完璧に消すことは無理。

三ヶ月が経過し、元バイト先の面子と呑むことになった。

そこでその子がみんなとよく遊んでいるという話を聞いた。
様々な感情があったが、一番は

辛かった。

何が辛いかってのはわからない。傲慢だし、自分のわがままだなってのは理解している。
しかし、その感情が湧き出るのは抑えられなかった。

それから再び忘れようとしたが無理であった。




これが、この文章を書くことになったきっかけ。
思い返すと、最初から最後まで自分が愚か、いかに傲慢かということがまざまざとわかる。

ただ、前向きになるための大事なプロセスだとも感じる。

自分勝手だが。

一回失敗した。次は次だ。

俺はここで筆を置き、冷めたコーヒーを飲んだ。

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