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【短編小説】人工台風兵器

「中国では人工的に天気もコントロールできるらしいね。」

ユリはキンペイに聞いた。ユリは新聞社の経理部で働く若手社員。

「ああ、そうだよ。オリンピックみたいなイベントの時に天候が崩れちゃうと台無しだから、天気が崩れないようにコントロールするんだよ。」

キンペイは出張で日本によく来る中国人ビジネスマン。早稲田大学を卒業していることもあり、日本語は上手で、日本の文化や歴史にも詳しい。

「どうやってやるの?」

ユリは驚いて目を丸くしながら聞いた。

「大気中にヨウ化銀を散布して、人工的に雲を作り出すんだ。そうすると天気が崩れる。結果的にその後は晴れるってわけ。」

cloud seedingという技術である。

「技術的に難しいわけじゃないんだね。日本でもイベントの日にやればいいのに。」

「ヨウ化銀は人体に有害な部分もあるから、日本みたいに表現の自由が保証されていて、少数意見でもメディアが大きくとりあげちゃうといろいろと難しいのかもね。」

キンペイは表現の自由が実感を持って理解できる。東京オリンピックだってノイジーマイノリティーが騒いだせいで無観客になった。中国では考えられない。

「天気を人為的に操作出来たらメリットもたくさんあるんだけどな。」

「昔の日本政府は天候操作をやっていたらしいよ。」

キンペイは得意げな表情で言った。

「そうなの?昔っていつ?」

「今から700年以上も前だけど、モンゴル帝国が日本に攻めてきた元寇ってあったでしょ。」

「まさか、神風?あれって人為的に作ったの?」

信じられないという表情でユリが言った。

「最新の歴史研究ではそういう説があるらしい。カンバツ時にお祈りとか儀式とかいろいろやっている中で、火を大量に炊いたら一番効果があったんだって。火を炊いて上昇気流を作って雲を強引に発生させるって話なんだろうけど。当時の知識ではヨウ化銀なんてわからないから、それっぽいものを大量に燃やしたんだろうね。」

「焚き火ごときでそんなに上昇するかなぁ。」

「元寇の時は、モンゴル軍のてつはうの火薬を奪って上空に打ち上げたらしい。最初はなかなか雲が出来なかったけど、めげずに続けていたら1週間後に台風になったんだって。」

「それは嘘っぽいけど、ホントだとしたらスゴイ。」

キンペイは、台風繋がりで話を展開する。

「実は、現代でも日本では台風を人工的に生み出す技術が極秘に研究されているらしいよ。尖閣諸島に中国船が来ても日本政府があまり騒がないのは、いざとなったら台風を作って、全部沈められるからなんだって。日本ではあまり聞かないけど、上海や北京では何度か聞いたことがある。」

キンペイは中国で聞いた人工台風技術のことについてユリに話してみた。

「確かに尖閣諸島に来た船を台風で沈めちゃえば、天候のせいに出来て、憲法9条にもひっかからない。そんな抜け道があったなんて…」

「だから中国国内では『平和憲法があるにも関わらず自衛隊も保持しているし、人工台風みたいな兵器まで保有してけしからん。日本がまた戦争やろうとしている!』と一部の知識人が騒いでいるよ。」

「憲法改正が無理そうだからって、そんな抜け道まで使って酷い。戦争は嫌。軍靴の足音が聞こえてきた。会社の社会部の友達に相談してみる。」

数年後、キンペイは中国にいた。その年、中国船が尖閣諸島に上陸。

その日は晴天だった。

あとがき

cloud seedingという人工的に雨を降らせる技術はシンガポール、中国、ロシアといった国々で実際に使われています。実際にある技術をベースにそれっぽく話をふくらませるとそれっぽく聞こえるかなぁと思って、強引に歴史と政治に絡めてみました。

話のベースとしては、某国のスパイがデマを流して世論を操作することをイメージして、台風兵器なんてモノはないというストーリーで考えていました。

しかし、「台風兵器は実際にあって、技術力の差で負けて、最後に晴れちゃった」という解釈や「国内世論で台風兵器の開発を止められた」という解釈も可能でしょう。

読んで頂いた皆様はどのような解釈をされたでしょうか?ここにない解釈があったら教えて下さい🙏

次の作品の参考にさせて頂きます!


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