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たまに小説やエッセイ書きます。 激務の心得 https://gekimu.com

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【短編小説】アイコの想像力は工場まで届く

機内食の五目焼きそばには、まったく具が入っていなくて、油まみれの味気ない単なる焼きそばだった。これだからユニット航空は乗りたくない。 上司との短期出張を終えて、サンフランシスコから帰国の飛行機に搭乗していた。 俺はタケヒロ。大手通信会社で働く26歳。大学では情報工学を専攻し、通信技術の研究をしていた。入社して3年近く経過し、昨年新規事業を担当する事業開発部に異動になった。1年目の頃は慣れない仕事に必死。週末もビジネスや会計の勉強に費やし、学生時代から付き合っていた恋人とも

    • 【短編小説】人工台風兵器

      「中国では人工的に天気もコントロールできるらしいね。」 ユリはキンペイに聞いた。ユリは新聞社の経理部で働く若手社員。 「ああ、そうだよ。オリンピックみたいなイベントの時に天候が崩れちゃうと台無しだから、天気が崩れないようにコントロールするんだよ。」 キンペイは出張で日本によく来る中国人ビジネスマン。早稲田大学を卒業していることもあり、日本語は上手で、日本の文化や歴史にも詳しい。 「どうやってやるの?」 ユリは驚いて目を丸くしながら聞いた。 「大気中にヨウ化銀を散布

      • 【短編小説】猿のダンス

        「私と別れて。今度の今度こそ終わり。」 それが響子の最後のセリフになった。 俺は詩音(シオン)。22歳の大学生。カノジョの響子とは付き合っては別れ、付き合っては別れを何度も繰り返していた。今回もその一環で、なんだかんだでまた連絡があるだろう。 とは言っても「別れ」は落ち込む。こういう時はダンスだ。踊って一度リセットしよう。俺は高校生の頃に「女子が多くてモテそう」という不純な動機でダンスを始めた。そしてハマった。思ったように踊れた時の高揚感が気持ちよくって今でも続けている

        • 【短編小説】フカヒレ論理ネス

          読者モデルをやっている23歳のエリカは、親子ぐらい歳の離れた飯田と食事をしていた。 世間的にはパパ活と言われるような関係かもしれないが、エリカは自分のことを褒めて、好きだと言ってくれる飯田のことをいいなぁと想っている。そもそもエリカは好きじゃない人とは2人で食事をしない。 「このフカヒレの姿煮美味しい!」エリカは満面の笑みで言った。トロッとした程よい醤油ベースのあんが大きなフカヒレと絡み合う。 「美味しいね。」飯田は相槌を打つ。 「このフカヒレってお高いんでしょ?美味

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        【短編小説】アイコの想像力は工場まで届く

          【短編小説】無限列車を降りる日

          Tinderでマッチングしていいなぁと思った男性が3人いる。その3人と実際にあってみることにした。 一人目はイケメンで俳優志望の23歳、二人目は総合商社勤務の29歳、三人目は自営業32歳。共通点は『鬼滅の刃』で話が弾んだこと。 私の名はサナ。来年外資系消費財メーカーに就職を控えた東大の学生、22歳、現在カレシ募集中。たまに美人と言われる。自粛期間中になんとなく読んだ『鬼滅の刃』にハマって、誰かと話したくなったという理由でなんとなくTinderに出会いを求めた。 メイクを

          【短編小説】無限列車を降りる日

          【短編小説】魚の怨念

          今日は西麻布の寿司屋に来ている。 経営者仲間の飲み会にたまたま来ていたモデルのエリナと食事の約束を取り付けた。俺に興味を持ったからというよりは、「お寿司が好き」と言っていたので、寿司の誘惑に負けた方が近い。やはり「今度、食事に行きましょう」となんとなく声をかけるよりは「お寿司が好きなら、今度美味しいお寿司を食べに行きませんか?」の方が行きたくなるのだろう。俺は寿司に感謝した。 俺は8年勤務した広告代理店を辞めて、独立して5年が過ぎた。会社がようやく軌道にのって来て、金銭的

          【短編小説】魚の怨念

          【短編小説】左脳で味わう大トロ

          「カレシとは気も合うし、見た目も好みですが、なんだか『深み』がないんですよね、、、この前、ご飯を一緒に食べていて、何を食べても『美味しい!』とかしか言わなくて、、、たまには違うことも言ってほしいなぁと思ったりしました。」 と、食もお酒も進んできた食事会の中盤でS子が言った。 S子は俺の8歳年下の仕事仲間で、今回は仕事の打上げでちょっと小洒落たカウンターの寿司屋に来ている。S子とはもう3年ぐらい一緒に働いているが、何事も先回りして動ける非常に仕事が出来る女性だ。 「そうな

          【短編小説】左脳で味わう大トロ

          ストーリーとしての食事

          自粛期間中に家族でアマゾンプライムビデオをよく見るようになった。その中でもハマっているのがグルメアニメの『美味しんぼ』である。 『美味しんぼ』といえば、架空の東西新聞社の文化部にて、山岡士郎と栗田ゆう子を主人公に、食に関する騒動を描いた日本を代表するグルメ漫画である。 その中で、「直火の威力」という中華料理屋のチャーハンにまつわるエピソードがある。チャーハンが下手な料理人に対して、料理の知見が豊富な山岡士郎が自ら厨房に入り、料理人にチャーハンの炒め方を教えるのだ。 山岡

          ストーリーとしての食事

          スクガラス豆腐1つで頭が柔らかくなる話

          「多様な視点を持てるようになりたい」 「頭が柔らかくなりたい」 誰しもが一度は「なんて自分は頭が固いんだ」と思ったことがあるだろう。最近、固い頭を柔らかくする方法を最近発見した。それは家族で食べたスクガラス豆腐にヒントがあった。 ☆☆☆ 先日、品川駅構内の駅ナカ物産展で沖縄特集が開催されていた。 ラフテーや沖縄そばといった加工食品から定番のちんすこう、サーターアンダギーのようなお菓子までバライティに富んでいて、数年前に家族でいった沖縄旅行を思い出すには十分すぎる食材

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