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もののちから。(1342文字)

物には人を変えるちからがある。

これなんぼでこうたん?え~見えへん、もっと高いことおもたわ!

これは大阪の人(※)が買い物をしたときに言われて嬉しい最大の賛辞。

 大阪のお得大好きな人たちは、ポイントやキャンペーン、あらゆるお得情報を総動員して物を手に入れる。
安かろう悪かろうはダメ。「ちゃっちぃ、貧乏くさい」もんではなく、いかに値打ちあるもんをお得に手に入れられるかが、最大のミッション。
 もちろんフツーにすんなりと買い物をするときも往々にしてあるが、上方落語、漫才、新喜劇、昔からお笑い文化が花咲く土壌に住む人達は、買い物のプロセスまでも楽しむことが好きだ。

これなんぼにみえる?
5,000円?
ちゃうで~500円でこうてん!

手に入れたもの値段は、その戦法とともにすべてをさらす。
これが舞台なら、舞台裏からうちあげの飲み会まで大公開といったところ。

 こうした大阪人の気質は、戦国時代から江戸時代にかけて大流行した真田紐の発展に広く貢献した。

真田紐とは、宮中で主に使われていた組紐に対し、庶民や武士が常用した紐。一時は置き薬と一緒ならぬ置き紐文化もあったとか。
 のびやすく、繊細な組紐と比べると、丈夫で扱いやすく、価格も手ごろ。腰ひも、帯締め、荷物紐、タスキ、下駄の鼻緒、刀の下げ緒や兜の紐にと、生活に密着した真田紐は、実用性と機能性を兼ねコスパ最高。大阪人の気質にぴたりとはまった。
 大阪・堺出身の千利休は、当時限られた人たちだけが嗜んでいた茶道を「庶民にまで広く広めたい」とそれまで宮中用に塗り箱と組紐をつかっていたしつらえを、桐箱と真田紐に変え、かの有名な庶民大参加型の北野大茶湯を主管し、大成功した。

そして真田紐とゆかりのある人物といえば武将・真田昌幸と真田幸村親子。その武勇伝や立川文庫作品のイメージから特に大阪で人気があったというから、彼らもまた真田紐人気に拍車をかけた。

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現在もわずかながらに作られている真田紐。私も先日買い求め、紐を使ってアクセサリを作った。
「絶対に失敗して無駄にしたくない」とケチ根性がでるため、大事に作る。
そうして出来たものは大事に扱う。すると同時に自分を丁寧に扱っているような感覚になった。


丁寧につくられたもの、大切なものに触れるとき、人は自分を丁寧にできるのかもしれない。
本人の意思とは関係のない潜在意識のもとで。

8歳の息子が、ハンカチ専門店で縫製、加工、プリント全てが日本製のハンカチを1枚購入した。夫とお揃いだ。彼はハンカチをネットに入れて洗濯機に入れ、乾く傍から自分でアイロンをかけて嬉しそうに毎日学校へもっていく。これまでは、ズボンと一緒にポケットにはいったままのタオルハンカチが干からびてでてくるか、もっていかないくらいだったのに、一枚のハンカチ800円の影響力たるや。

 

 ネクタイ、靴下、Tシャツ、ズボンまでいまじゃ100円ショップにいけばなんだってそろう。500円のトータルコーディネートもそれはそれで楽しそう。
だけれど、人はとっておきのものや、大切に作られたものにふれるとき、人は嬉しくて、ちょっと丁寧になる。



(*)ここではイメージしやすくするため、大阪の人をひとくくりにして書きましたが、性格は個人によって違います。あくまでも傾向です。






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