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アパレルと小売の未来_06

ECとリアル店舗の融合のための「顧客管理・在庫管理の統合/一元化」について述べてきましたが、EC強化を進め、EC売上の比率が上がるとまた別の変革が必要になってきます。

EC売上が伸びて、リアル店舗の売上が下がってきた場合、店舗にたくさんの在庫を置いておく必要があるのでしょうか。全国に店舗を持っているアパレル会社では、商品の「倉庫⇄店舗」間移動や「店舗⇄店舗」間移動が発生します。1点1点の移動にかかる費用は少額ですが、1年間の全店舗と倉庫の商品輸送費はアパレル会社にとって莫大な費用になります。

EC売上の比率が上がると、莫大な輸送費をかけて店舗に大量の在庫を保管することにメリットを感じなくなります。倉庫に在庫を置いておき、リアル店舗に来店されたお客さんにもECで購入してもらえれば、店舗に在庫を置いておく必要がなく、輸送費は大幅に縮小できます。そうなると会社にとって、お客さんがリアル店舗・ECのどちらで購入するのかはあまり気にする必要がなくなります(ECのほうが利益率が高い場合が多いので、ECに誘導していくとは思いますが)。

また、店舗に大量の在庫を置かないことは「輸送費の抑制」以外にもメリットがあります。それは「バックヤード(ストック)のスペース縮小」です。大量の商品がなければ、バックヤードは小さくてすみます。バックヤードが縮小されれば、その分販売スペースを広げることができるので、商品を多く展開したり、ブランドの表現や仕掛けを大きく展開することができるようになります。究極的には、「サンプルしかない店舗」にすればバックヤードは必要最小限ですみます。

すでに現在、サンプルしか置いていない店舗やブランドが存在します。国内ではオーダースーツの「FABRIC TOKYO」が有名です。店舗ではコーディネーターによって採寸をしてもらい、生地の見本等の説明を受けて、ECで購入します。採寸データがあるので、リピートする場合はECのみで完結します。このようなサンプルしかない店舗やブランドが今後増加していくとは思いますが、店舗を全国展開している既存のアパレル会社がこのような形になるのはかなり先か、もしくはなること自体が難しいと感じています。詳細は「D2C」の解説の時にお伝えしたいと思います。

また、「人事評価」も、EC・リアル店舗どちらでも購入ができるようになると変革が必要となります。リアル店舗のみやECが弱いアパレル会社では、販売員の個人の売上金額が評価や給与に反映されるところも多いと思います。EC売上が上がってくると、「リアル店舗で商品を見るが、購入はすべてEC」というお客さんが出てきます。「〇〇店の販売員Aさんの接客が好きで、買う物はAさんのおすすめだけ」というお客さんが購入は全てECの場合、Aさんの店舗にはこのお客さんの売上が一切上がりません。それでは、Aさんの素晴らしい接客力をどのように店舗や会社は評価するべきなのでしょうか。

これは本当に難しい問題です。今までの「個人売上」という評価基準が全く通用しなくなります。他の評価基準を作成しようとしても、個人の「接客力」を売上以外で数値化するのは大変です。これはEC推進や購入できない店舗が増やしていくと必ず出てくる問題です。私自身も明確な答えが出ていない問題です。今後、多数のアパレル会社がこの問題に取り組まなければいけなくなると思います。会社も販売員もこの問題について今から考えていくべきだと思います。


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