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山形の姥神をめぐる冒険 #33
【中野目 十王堂】 山形市中野目 2024年3月
古い集落の通りから参道に入ると、果樹園の中に裏寂れたお堂が建っていた。鍵はかかっていない。お堂には阿弥陀如来像を挟んで閻魔王と生塗河の婆と書かれた姥神が座っている。顔面は削られた様に定かではないが、三者おそろいの赤い袈裟は真新しい。
お堂には千羽鶴やお札や寄進者の名前がずらりと書かれたものが貼られており、長年この集落の拠り所だったのだと感
山形の姥神をめぐる冒険 #32
【飯塚山 楊柳寺】 山形市飯塚 2024年2月
その名の通り、大きな柳の木が目印の曹洞宗の寺だ。姥神は入り口に他の石像と共に座っていた。まるで覆面をしているかのような顔面で、石そのままをセメントで継いだ痕が痛々しい。小柄で丸くかがめた背中は、町の姥(アーバン・ウバ)らしい優し気な雰囲気だ。
参道をまっすぐ歩いた先に、枝を広げた蝋梅が咲いていた。冷えた雪の朝に光のように咲く黄色い花。しばし
山形の姥神をめぐる冒険 読書編(塔をめぐる冒険①)#9
『東京都同情塔』 九段理江 新潮社 2024年1月
2023年の芥川賞受賞作である。作品中にAIが書いた文章があるということで話題になった。それくらいの関心しかなかったのだが、ある機会に一読してすっかり〝塔〟に心を掴まれてしまった。塔が象徴する矛盾や不穏な欲望、不安のようなものがこの作品には渦巻いており、どうにも捉え難い現代社会に生きる私たちに迫ってくるのである。
価値観とモラルの変容は戸惑
山形の姥神をめぐる冒険 #31
【引接山 隨願院 来迎寺 観音堂】 山形市七日町 2024年2月
ふた目と見たくないような恐ろしさで、パワーを吸い取られそうな姥神である。山形市の中心部、七日町にある寺のお堂に閻魔王に対置してある。お堂の扉は鍵が掛けられていて、のぞき窓から見ることしかできなかった。お堂の壁には大きなムカサリ絵馬が掛かっている。薄暗い中に白い花嫁衣装が浮き上がって見えた。
姥神のこのおどろおどろしさは何処が
山形の姥神をめぐる冒険 #30
(株)石駒 山形市十日町 2024年2月
これこそアーバン・ウバ(町中の姥神のこと)の典型的なロケーション、山形市中心部の十日町にある石屋さんの店先にいる姥神だ。近くには高校やコンビニもあるのだが、道行く人にガンつける迫力にたじたじとする。
この石屋さんは江戸時代末期の創業で、蔵王ワサ小屋跡にある姥神の頭部の修復なども手がけているそうで、店先には姥神の他に様々な石像が並んでいる。
ところ
山形の姥神をめぐる冒険 #29
【花楯公園脇の辻】 山形市花楯 2024年2月
これも古い町に残るアーバン・ウバ。
辻に建てられた立派なお堂の中にいたのは、自然石の表面を浅く彫った姥様だった。花やお神酒、お菓子も備えられて舌を出しておっとり座っている。
地区の歴史を語る角柱には、江戸末期の石像で、原田隆氏宅の井戸より発見されたとあった。明治元年の神仏分離令の時、自然石のため一部だけ切って捨てることもできなかったのだろう。
山形の姥神をめぐる冒険 #28
【宿竜院 閻魔堂】 寒河江市本町 2024年2月
お堂の隣にワンタンメンで有名なラーメン店があり、昼時の店は大賑わいの様子。
見出しの写真はその店のものではないのだが、とろりとしたスープが優しく胃に染み込むのは、寒河江のラーメンに共通している。
今回は鍵のかかったお堂の扉からかろうじて覗き見した姥神しか撮ることができず、ラーメンのご提供となった次第。カッコいい顔をした姥神なのに残念だ。
山形の姥神をめぐる冒険 読書編 #8
『枯木ワンダーランド 枯死木がつなぐ虫•菌•動物と森林生態系』
深澤 遊著 築地書館 2023年
前半は著者の森林生態学者というよりは生き物大好き少年の生態が披露される。クマの気配におびえながら〝森のくまさん〟を歌ったり、〝うるうるする〟コケに顔を埋めたり、つい探してしまう何か、つい拾ってしまう何かの連続。スケッチしているとネズミが脇を走り抜けていくこともある。
森の中にいると、いつ何
山形の姥神をめぐる冒険 #27
【姥石】 寒河江市元町 2024年2月
今回はやや異色の姥神の登場である。正確には姥石と呼ばれている自然石である。ここは知る人ぞ知る寒河江市の巨石文化遺蹟なのだ。公園には大小の岩がぐるりと円を成していて、問題の姥石はその隅に置かれていた。
石をよく見ると、窪みに結晶化した鉱物があるのがわかる。日の光にあちこちがきらめいて、ぐにゃにゃの溶岩を固めたような見た目とは裏腹にすべすべした肌触りだ。
山形の姥神をめぐる冒険 #26
【南龍山不動尊】 山形市平清水 2024年2月
山形市の中心部に千歳山という姿のよい山がある。その麓の平清水ではいくつもの窯元や草木染めの店、日本酒のお店などがあり、散策するのに心地良い所だ。その平清水の奥の奥、薄暗い杉木立ちの道を行くと不意に鳥居と石像群が現れる。鳥居をくぐり、沢を渡る。崖をぐるりと回り込むと石碑があり、古い霊場だということがわかる。
苔むした倒木を乗り越え、沢に足を濡ら
山形の姥神をめぐる冒険 #24
【大日如来堂】 山形市山寺馬形 2024年1月
山形の名所、山寺を背に堂々と座るのは、この地区の守り神的な姥神だ。山寺の境内にも姥堂はあるが、それとは趣きも役割も異なる存在だ。
がっしりとした身体に団子鼻、大きな顔。
村を守る姥神にふさわしい造形だ。
このとなりに首だけの姥神と思われる石像が置かれている。この二人が並んでいる脇を通らないとこの先のお堂にお参りできない。ダブルウバだ。小さい
山形の姥神をめぐる冒険 #23
【向川寺】大石田町黒滝 2023年12月
大変な急坂である。深く積もった濡れ落ち葉にみぞれ混じりの雪が降ってきて、面白いように滑りながら這うように登る。途中で杉の倒木が道を塞いでいたので、乗り越えようと丸太を抱きかかえたところで吹き出した。これじゃ、まるでサスケだ。
私を見つけられるかな、と姥神に試されているのかも。
寺の境内を歩き回ったがどうしても見つけられず、あたりをつけた山道を登ること
山形の姥神をめぐる冒険 #22
【愛宕神社】 村山市富並 2023年12月
山形県の北の方に向かうと最上川の存在感が急に増してくる。大きく蛇行した川はざぶざぶと勢いよく流れていて、何度も最上川を渡る橋が現れる。そんな橋のやや手前にこの神社はあった。鳥居の向こうは山の上まで続く細い石段が続いている。姥神はその昇り口に真っ赤な衣を着てニカッと微笑んでいた。今まで見たどの姥神よりも美人だ。洗練された顔の表情だけでなく、立てた膝の衣の
山形の姥神をめぐる冒険 読書編 #7
『超人 ナイチンゲール』 栗原康 医学書院 2023.11
すでに多くの書評が出たタイトルなので、その概要や観点を繰り返しても意味はないだろう。私がこの本を取り上げるのは、ここで言われている「霊性(スピリチュアリティ)」「神秘主義」について思い凝らせてみたかったからである。ケアや共鳴、協働について考えてみたかったからである。
例えば本文中の「おまえはおまえの神を踊っているか」(P63
山形の姥神をめぐる冒険 #21
【大聖院】 ⁑アーバン・ウバ⁑ 山形市錦町 2023年12月
山形市の市街地から路地を一本入ると、目立たないお堂がある。そのお堂の隅にちょこんと座っている姥神を見つけた。何度も通ったことのある道だが、今まで全く気がつかなかった。
なんとここの姥神はにっこり微笑んでいる!
ああ、やっぱり笑顔がいい、癒される。
と思ってよく見るとどうも舌は出しているようで、伏目がちににっこり舌を出すのはかなり
山形の姥神をめぐる冒険 #25
千歳山大日堂参道 山形市平清水 2024年2月
姥神が座る台座には、「帝大入学記念 昭和十六年四月 高橋豊吉」と刻まれている。その年、1941年は12月に日本の真珠湾攻撃によって本格的にアメリカとの戦争が始まった年だ。そんな時に帝国大学に入学した地域の秀才の名を刻んだ姥神像。入学記念に姥神とはどういう意味だろう?
疑問は尽きないが、ともかくもここに姥神はいる。
能面の般若に似た顔をしている