あらしだうたこ

本の世界と森の世界を行き来して繰り返すダイアローグ。 変形菌探し、湧き水探訪、鳥の羽根…

あらしだうたこ

本の世界と森の世界を行き来して繰り返すダイアローグ。 変形菌探し、湧き水探訪、鳥の羽根拾い屋。 姥神に心奪われ、衣渡す前にいろいろ話すことあり。 1973年生まれ。坂口安吾と故郷は同じ。 風に吹かれた吹き溜まりで胞子が発芽中。 もっと地を這いたい。

記事一覧

山形の姥神をめぐる冒険 #36

【如来寺 六面幢】 上山市牧野  2024年4月  のどかな田園風景が広がる中に、唐突に現れた六面幢。うららかな春の陽光に辺りの畑では帽子をかぶってしゃがみ込み、土を…

山形の姥神をめぐる冒険 #35

【上生居 十一面観音】  上山市上生居  2024年4月  芽吹き始めたアジサイとヨウシュヤマゴボウの枯れ茎に埋もれるように座っている。ほんわかと開いた口が優しい。…

山形の姥神をめぐる冒険 読書編(塔をめぐる冒険②)#10

『塔の思想 ヨーロッパ文明の鍵』 マグダ•レヴェツ•アレクサンダー/池井 望訳 河出書房新社  ほとんど世に知られていないこの本の著者は1886年にハンガリーで生まれ…

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山形の姥神をめぐる冒険 #34

【熊野神社】 山形市長町 2024年3月  初めて姥神を自力で見つけてしまった?  かもしれない…!  もしやと立ち寄った神社の参道の入り口に、ちょこんと座る石像を見…

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山形の姥神をめぐる冒険 #33

【中野目 十王堂】  山形市中野目 2024年3月  古い集落の通りから参道に入ると、果樹園の中に裏寂れたお堂が建っていた。鍵はかかっていない。お堂には阿弥陀如来像…

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山形の姥神をめぐる冒険 #32

【飯塚山 楊柳寺】 山形市飯塚 2024年2月  その名の通り、大きな柳の木が目印の曹洞宗の寺だ。姥神は入り口に他の石像と共に座っていた。まるで覆面をしているかのよ…

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山形の姥神をめぐる冒険 読書編(塔をめぐる冒険①)#9

『東京都同情塔』 九段理江 新潮社 2024年1月  2023年の芥川賞受賞作である。作品中にAIが書いた文章があるということで話題になった。それくらいの関心しかなかった…

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山形の姥神をめぐる冒険  #31

【引接山 隨願院 来迎寺 観音堂】 山形市七日町 2024年2月  ふた目と見たくないような恐ろしさで、パワーを吸い取られそうな姥神である。山形市の中心部、七日町に…

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山形の姥神をめぐる冒険 #30

(株)石駒  山形市十日町 2024年2月  これこそアーバン・ウバ(町中の姥神のこと)の典型的なロケーション、山形市中心部の十日町にある石屋さんの店先にいる姥神だ。…

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山形の姥神をめぐる冒険 #29

【花楯公園脇の辻】 山形市花楯  2024年2月  これも古い町に残るアーバン・ウバ。 辻に建てられた立派なお堂の中にいたのは、自然石の表面を浅く彫った姥様だった。花…

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山形の姥神をめぐる冒険 #28

【宿竜院 閻魔堂】 寒河江市本町 2024年2月  お堂の隣にワンタンメンで有名なラーメン店があり、昼時の店は大賑わいの様子。 見出しの写真はその店のものではないのだ…

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山形の姥神をめぐる冒険 読書編 #8

『枯木ワンダーランド 枯死木がつなぐ虫•菌•動物と森林生態系』   深澤 遊著 築地書館 2023年  前半は著者の森林生態学者というよりは生き物大好き少年の生態が…

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山形の姥神をめぐる冒険 #27

【姥石】 寒河江市元町 2024年2月  今回はやや異色の姥神の登場である。正確には姥石と呼ばれている自然石である。ここは知る人ぞ知る寒河江市の巨石文化遺蹟なのだ。…

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山形の姥神をめぐる冒険 #26

【南龍山不動尊】 山形市平清水  2024年2月  山形市の中心部に千歳山という姿のよい山がある。その麓の平清水ではいくつもの窯元や草木染めの店、日本酒のお店などが…

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山形の姥神をめぐる冒険 #24

【大日如来堂】 山形市山寺馬形  2024年1月  山形の名所、山寺を背に堂々と座るのは、この地区の守り神的な姥神だ。山寺の境内にも姥堂はあるが、それとは趣きも役割も…

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山形の姥神をめぐる冒険  #23

【向川寺】大石田町黒滝  2023年12月  大変な急坂である。深く積もった濡れ落ち葉にみぞれ混じりの雪が降ってきて、面白いように滑りながら這うように登る。途中で杉の…

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山形の姥神をめぐる冒険 #36

山形の姥神をめぐる冒険 #36

【如来寺 六面幢】 上山市牧野  2024年4月
 のどかな田園風景が広がる中に、唐突に現れた六面幢。うららかな春の陽光に辺りの畑では帽子をかぶってしゃがみ込み、土を掘り起こす人の姿があちこちにある。近くの神社では写生をする人もいる。商業開発やニュータウンの造成から免れて、派手な看板も、しきりに車が出入りするコンビニもない。ここだけ時の流れが違うみたいだ。
 農民詩人、木村迪夫氏の生まれ育った土地

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山形の姥神をめぐる冒険 #35

山形の姥神をめぐる冒険 #35

【上生居 十一面観音】  上山市上生居  2024年4月

 芽吹き始めたアジサイとヨウシュヤマゴボウの枯れ茎に埋もれるように座っている。ほんわかと開いた口が優しい。お堂の中には子育て地蔵尊も祀られているようだから、この姥神も乳母的な役割を持つ村の守り神だったのだろう。
 日本昔ばなしに出てくるおばあちゃん、といった風情の座り姿である。

 お堂の向かいには地域の構造改善センターというのがあり、消

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山形の姥神をめぐる冒険 読書編(塔をめぐる冒険②)#10

山形の姥神をめぐる冒険 読書編(塔をめぐる冒険②)#10

『塔の思想 ヨーロッパ文明の鍵』 マグダ•レヴェツ•アレクサンダー/池井 望訳 河出書房新社

 ほとんど世に知られていないこの本の著者は1886年にハンガリーで生まれた女性だ。知的な家庭環境のもとで教育を受け、オランダやベルギーの大学で教鞭を取っていたらしい。
 その生涯の詳細は不明だが、彼女が日々ヨーロッパの街で古い塔と共に生きてきた生活が忍ばれる。塔とは何か、という問いを得て、その着想から考

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山形の姥神をめぐる冒険 #34

山形の姥神をめぐる冒険 #34

【熊野神社】 山形市長町 2024年3月

 初めて姥神を自力で見つけてしまった?
 かもしれない…!
 もしやと立ち寄った神社の参道の入り口に、ちょこんと座る石像を見つけて興奮した。由緒を読むと山形城の開祖斯波兼頼が開いた神社で、戦国武将最上義光の家来が篤く信仰したとある。14世紀に遡る歴史を持つ神社なのだった。

 本当に姥神なのか…。姥神めぐりの教科書本、鹿間廣治氏の『奪衣婆』には掲載されて

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山形の姥神をめぐる冒険 #33

山形の姥神をめぐる冒険 #33

【中野目 十王堂】  山形市中野目 2024年3月

 古い集落の通りから参道に入ると、果樹園の中に裏寂れたお堂が建っていた。鍵はかかっていない。お堂には阿弥陀如来像を挟んで閻魔王と生塗河の婆と書かれた姥神が座っている。顔面は削られた様に定かではないが、三者おそろいの赤い袈裟は真新しい。

 お堂には千羽鶴やお札や寄進者の名前がずらりと書かれたものが貼られており、長年この集落の拠り所だったのだと感

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山形の姥神をめぐる冒険 #32

山形の姥神をめぐる冒険 #32

【飯塚山 楊柳寺】 山形市飯塚 2024年2月

 その名の通り、大きな柳の木が目印の曹洞宗の寺だ。姥神は入り口に他の石像と共に座っていた。まるで覆面をしているかのような顔面で、石そのままをセメントで継いだ痕が痛々しい。小柄で丸くかがめた背中は、町の姥(アーバン・ウバ)らしい優し気な雰囲気だ。 

 参道をまっすぐ歩いた先に、枝を広げた蝋梅が咲いていた。冷えた雪の朝に光のように咲く黄色い花。しばし

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山形の姥神をめぐる冒険 読書編(塔をめぐる冒険①)#9

山形の姥神をめぐる冒険 読書編(塔をめぐる冒険①)#9

『東京都同情塔』 九段理江 新潮社 2024年1月

 2023年の芥川賞受賞作である。作品中にAIが書いた文章があるということで話題になった。それくらいの関心しかなかったのだが、ある機会に一読してすっかり〝塔〟に心を掴まれてしまった。塔が象徴する矛盾や不穏な欲望、不安のようなものがこの作品には渦巻いており、どうにも捉え難い現代社会に生きる私たちに迫ってくるのである。
 価値観とモラルの変容は戸惑

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山形の姥神をめぐる冒険  #31

山形の姥神をめぐる冒険  #31

【引接山 隨願院 来迎寺 観音堂】 山形市七日町 2024年2月

 ふた目と見たくないような恐ろしさで、パワーを吸い取られそうな姥神である。山形市の中心部、七日町にある寺のお堂に閻魔王に対置してある。お堂の扉は鍵が掛けられていて、のぞき窓から見ることしかできなかった。お堂の壁には大きなムカサリ絵馬が掛かっている。薄暗い中に白い花嫁衣装が浮き上がって見えた。

 姥神のこのおどろおどろしさは何処が

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山形の姥神をめぐる冒険 #30

山形の姥神をめぐる冒険 #30

(株)石駒  山形市十日町 2024年2月

 これこそアーバン・ウバ(町中の姥神のこと)の典型的なロケーション、山形市中心部の十日町にある石屋さんの店先にいる姥神だ。近くには高校やコンビニもあるのだが、道行く人にガンつける迫力にたじたじとする。
 この石屋さんは江戸時代末期の創業で、蔵王ワサ小屋跡にある姥神の頭部の修復なども手がけているそうで、店先には姥神の他に様々な石像が並んでいる。
 ところ

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山形の姥神をめぐる冒険 #29

山形の姥神をめぐる冒険 #29

【花楯公園脇の辻】 山形市花楯  2024年2月

 これも古い町に残るアーバン・ウバ。
辻に建てられた立派なお堂の中にいたのは、自然石の表面を浅く彫った姥様だった。花やお神酒、お菓子も備えられて舌を出しておっとり座っている。
 地区の歴史を語る角柱には、江戸末期の石像で、原田隆氏宅の井戸より発見されたとあった。明治元年の神仏分離令の時、自然石のため一部だけ切って捨てることもできなかったのだろう。

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山形の姥神をめぐる冒険 #28

山形の姥神をめぐる冒険 #28

【宿竜院 閻魔堂】 寒河江市本町 2024年2月

 お堂の隣にワンタンメンで有名なラーメン店があり、昼時の店は大賑わいの様子。
見出しの写真はその店のものではないのだが、とろりとしたスープが優しく胃に染み込むのは、寒河江のラーメンに共通している。
 今回は鍵のかかったお堂の扉からかろうじて覗き見した姥神しか撮ることができず、ラーメンのご提供となった次第。カッコいい顔をした姥神なのに残念だ。

山形の姥神をめぐる冒険 読書編 #8

山形の姥神をめぐる冒険 読書編 #8

『枯木ワンダーランド 枯死木がつなぐ虫•菌•動物と森林生態系』 

 深澤 遊著 築地書館 2023年

 前半は著者の森林生態学者というよりは生き物大好き少年の生態が披露される。クマの気配におびえながら〝森のくまさん〟を歌ったり、〝うるうるする〟コケに顔を埋めたり、つい探してしまう何か、つい拾ってしまう何かの連続。スケッチしているとネズミが脇を走り抜けていくこともある。
 森の中にいると、いつ何

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山形の姥神をめぐる冒険 #27

山形の姥神をめぐる冒険 #27

【姥石】 寒河江市元町 2024年2月

 今回はやや異色の姥神の登場である。正確には姥石と呼ばれている自然石である。ここは知る人ぞ知る寒河江市の巨石文化遺蹟なのだ。公園には大小の岩がぐるりと円を成していて、問題の姥石はその隅に置かれていた。

 石をよく見ると、窪みに結晶化した鉱物があるのがわかる。日の光にあちこちがきらめいて、ぐにゃにゃの溶岩を固めたような見た目とは裏腹にすべすべした肌触りだ。

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山形の姥神をめぐる冒険 #26

山形の姥神をめぐる冒険 #26

【南龍山不動尊】 山形市平清水  2024年2月

 山形市の中心部に千歳山という姿のよい山がある。その麓の平清水ではいくつもの窯元や草木染めの店、日本酒のお店などがあり、散策するのに心地良い所だ。その平清水の奥の奥、薄暗い杉木立ちの道を行くと不意に鳥居と石像群が現れる。鳥居をくぐり、沢を渡る。崖をぐるりと回り込むと石碑があり、古い霊場だということがわかる。
 苔むした倒木を乗り越え、沢に足を濡ら

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山形の姥神をめぐる冒険 #24

山形の姥神をめぐる冒険 #24

【大日如来堂】 山形市山寺馬形  2024年1月
 山形の名所、山寺を背に堂々と座るのは、この地区の守り神的な姥神だ。山寺の境内にも姥堂はあるが、それとは趣きも役割も異なる存在だ。
 がっしりとした身体に団子鼻、大きな顔。
 村を守る姥神にふさわしい造形だ。
 このとなりに首だけの姥神と思われる石像が置かれている。この二人が並んでいる脇を通らないとこの先のお堂にお参りできない。ダブルウバだ。小さい

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山形の姥神をめぐる冒険  #23

山形の姥神をめぐる冒険  #23

【向川寺】大石田町黒滝  2023年12月
 大変な急坂である。深く積もった濡れ落ち葉にみぞれ混じりの雪が降ってきて、面白いように滑りながら這うように登る。途中で杉の倒木が道を塞いでいたので、乗り越えようと丸太を抱きかかえたところで吹き出した。これじゃ、まるでサスケだ。
私を見つけられるかな、と姥神に試されているのかも。
 寺の境内を歩き回ったがどうしても見つけられず、あたりをつけた山道を登ること

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