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「悪ふざけ」と「人のため」が一番楽しい。

最近「人生寄り道も大事だよね~」みたいな記事を読みました。
その寄り道というのは「サボる」ということではなくて、興味の赴いた方にとりあえず首を突っ込んでみるとか、目の前の課題を解決するために別のジャンルに手を出してみるとか。

これをやっているのってビジネスマンのイメージが強いと思うのですが、実はうちにもこういう「寄り道」をたくさんしている職人がいます。

今回はこの「寄り道の達人」、たぶん、加工。の設立者でありリーダーのこの人についてご紹介させてください!



古市朋之(ふるいち ともゆき)

プロフィール

株式会社古市石材店代表。
長年細工加工に携わり、ディティールの形成が得意。近年はプロダクトデザインに手を出しつつある。石材加工1 級所持。

好きな食べ物
焼肉、甘いもの
趣味
ものづくり、ゲーム(スプラトゥーン2はウデマエXまでいった)
必殺技
石材細工(庵治石で何でも作れる)
座右の銘
人の行く裏に道あり、花の山


1.スプラトゥーンは仕事にしたくない

ースプラトゥーン2でウデマエXってめちゃくちゃすごいですね。古市さんって結構ハマり症というか、興味の幅がめちゃくちゃ広いし深い気がします。

▼スプラトゥーン2

古市:
どちらかというとそうかもしれませんね。

自宅を建てるときは建築系にどっぷりハマったし、息子がカブトムシにハマったときは自分はクワガタにハマって、スプラトゥーンは息子がスイッチでやってたのを自分もちょっとやってみたら「これもしかしてめちゃくちゃおもろいんちゃうか?」って思って、そのままズブズブと。

ー庵治石の石工職人になったのもそういうところからですか?

古市:
いえ、これについては単純に家業だったからです。
元々実家が石材屋をやっていて、私の代で4代目になります。
物心ついた頃から石に囲まれて育ったから石工になっただけで、志が高かったかというとそういうわけではないんです。

だけど職人は実力主義の世界で、一人前になるまでに要する期間は、どんなに短くとも10年ほど。
10年続けても一人前になれるのは才能あるごく一部の人たちだけという厳しい世界で、やるからには応えないといけない期待なんかがあって、その中で得意なことを見つけてコツコツ磨いていった感じです。

そもそも「仕事では得られないものもある」と思う方なので、仕事と生活の境目がなくなってしまうような働き方は肌に合いません。
なので好きでもスプラトゥーンは仕事にしたくないタイプです。きっと楽しくなくなってしまうので。


2.「悪ふざけ」と「人のため」が一番楽しい

ーでもそう言うわりには庵治石でめちゃくちゃ色んな物作ってません?ギターとかスピーカーとかあずきバーとか…

過去に作った作品。どれも独学だそう。

古市:
これは仕事じゃないので。
ほら、なんでもそうですけど、悪ふざけしてる時が一番楽しいじゃないですか。
これはそういうノリで作ってるので。

ー中でも作ってて特に楽しかった!っていうものはありますか?

古市:
中学生の男の子たちのために考えたエコスピーカーは楽しかったですね。

以前、中学生の職場体験を受け入れていた時期があったんです。
職場体験のお土産に、庵治石で一輪挿しを自分で作ってもらって持って帰らせてたんですけど、「中学生にもなる男子が一輪挿しなんてもらっても使うんか?」と思って。

せっかく職場体験に来てせっかく自分で作るなら、その後もちゃんと使いたいと思うもの、実用的なものがいいんじゃないかと思ったんです。
それで、「中学生の男の子が興味があるものってなんだろうなあ」と考えて。現代っ子ならやっぱりスマホかなと思って、電気を使わないで音の反響だけでスピーカーになるエコスピーカーを作りました。

これがそうなんですけど…。

卓上エコスピーカー

古市:
スマホを挿して音楽を再生すると…

ーわ!すごい!ちゃんとスピーカーですね!

古市:
結構性能いいでしょ。
仕事じゃないところで、「この人なら何が嬉しいだろう?」って使う人のことを考えながら作る方がやっぱりずっと楽しいです。予算どうこうじゃなくてね。


3.プロダクトデザインに沼る

ちなみにこのエコスピーカーの大きいやつを数年後に作ってるんですけど、

屋外用エコスピーカー 正面
屋外用エコスピーカー 横

ー小さい方とはだいぶ形が違いますね。

古市:
そう。これは幼稚園や保育園の子供が公園なんかでラジオ体操やダンスをするときに使うものを、と新聞社から依頼を受けて作ったものです。

でも10数人の子供たちが広がって一緒にラジオ体操するってなったら、まあまあ広い範囲に聞こえないといけないじゃないですか。完成後は屋外に常設という条件で電気が使えない中、スマホから伝わる振動を無駄なく最大限音に変換しないといけない。

一番効率的に変換できる角度を調べて作ったら、この形になりました。

屋外用エコスピーカー スマホ設置箇所
下側にスピーカーがあるスマホならどんな種類でも対応可能だ。

高さも、台の上に設置したときに丁度子どもたちの腰のあたりにスピーカーの口がくるようになってます。

屋外用エコスピーカー 口

デザイン的には納得いってないんですけどね。機能性を追い求めたらこうなりました。
ちなみに構造はメガホンのホーンの原理を参考にしてます。

ーすごいですね…ギターとかスピーカーとか、専門的な知識が必要なものもたくさんありますけど、こういうのってやっぱり自分で勉強して作ってるんですか?

古市:
そうですね。基本的には。
今の時代、調べればなんでも出てきますから。図面はCADで描けばいいし、カラクリと素材がわかれば再現はできます。

このスピーカーも、石の中に一般的なスピーカーの内部構造を再現することでスピーカーとしての機能を持たせています。
小さなカフェやバー、個人宅に置くことを想定して、形は占有面積が一番少ないキューブ型にしました。

キューブ型スピーカー


4.経験に裏打ちされた感覚。それこそが職人の技。

ー古市さんの専門は石材細工ですよね。普段から細工に専念されてるんですか?

古市:
そうですね。他のこともするにはしますけど、基本的には。
石材屋にも色んなタイプがありますけど、うちはそれぞれの加工工程にスペシャリストがいるタイプの石材屋です。

石の加工工程はざっくり分けると切削・研磨・細工とあって、私はその中の細工を専門としています。作風は今見せたような、シンプルな感じ。

ー細工って、具体的にはどんなことをするんですか?

古市:
切削工程で切り出した四角い石材に手道具でなめらかなアールや角を作って、具体的な形にして製品を完成させます。

石材細工の究極形は、真っすぐな面を真っすぐに作ること。丸い面を正しく丸く作ること。
手の癖や機械の癖で、どうしても端っこのほうは削れにくかったり、角が跳ね上がったり、逆に低くなったりというのがあるんです。それをいかに作らず、真っすぐな面を真っすぐに、丸い面を丸く作れるか、っていうのをやってます。

私もキレッキレの時は髪の毛3本くらいの面の高低差なら手の感覚でわかったんですけどね。
ものを作るとき「ここを削ったらこっちが高くなるな」とか「真っすぐに見えるようにするにはあえてここは若干丸みを持たせたほうがいいな」とか、そういうのが直感的にわかる、経験に裏打ちされた感覚こそが職人の技なのかなと思っています。

ーなるほど。墓石じゃないと作れない、とかそんなのは技を極めると関係なくなっちゃうんですね。

古市:
立体物って、極端な話丸い面か平たい面が繋ぎ合わさってできてるだけですからね。そこをちゃんとやれば何でも作れます。

アンブレラスタンド
細部はこんな感じ。庵治石の質感が生きるシンプルなデザインに仕上げた。


5.花の山と呼べる新しい道を探して

ー今後、たぶん、加工。としてやっていきたいことはありますか?

古市:
一般の方にも使ってもらえるような、日常使いできるようなものを作っていきたいですね。庵治石は機能性だけじゃなく模様も美しいので、たとえばインテリアとして生活の中に取り入れてもオシャレなんです。

屋外チェア
室内用サイドテーブル

業界としても、ちゃんと次世代に受け継いでいけるようにしたいです。
自分の子どもが「石工になりたい」と言ったときに、自信をもって「じゃあやってみるか?」って言ってあげられるような。

そのために、自分たちだけが天下をとるんじゃなくて、職人たちやその周りの人たち、この庵治石の産地がある程度の規模感で残っていけるような道を探していきたいです。

墓石業界はどうしたって尻すぼみになっていきますから。墓石以外の「こういうのを作っていけば仕事になるよ」っていうものを考えていきたい。
まだまだ手探りだけどそういう道を探していきたいし、そういうお付き合いができる業界を見つけていきたいし……休日は昼まで寝てたいし、スプラトゥーンはしたい。

ー(笑)

古市:
そのためのたぶん、加工。ですからね(笑)。あれこれ首を突っ込んで作っているのもみんな、その延長線でのことです。
「人の行く裏に道あり、花の山」って言いますから。業界の常識や通例に倣っているのではこれからの道は開けない。

それにこういうのはきっと、早ければ早いほどいいと思うんです。


たぶん、加工。とは?

水晶と同程度を誇る硬度と、唯一無二の模様“斑(ふ)”や繊細な石質による品格、そして希少性。すべてを兼ね備えた香川県高松市東部の牟礼町、庵治町でのみ産出される世界一の銘石「庵治石」。
たぶん、加工。は、そんな庵治石の里の石工たち、讃岐石材加工協同組合 石栄会所属の超石工アーティスト集団。アート、プロダクト、グルメ、グラフィック、テクノロジーなどの様々なクリエイターとコラボレーションすることで、新たな「加工」の価値を生み出す。
「うわ~これすごい!」「かっこいい!」なぜかって?
それ、たぶん、加工です。

たぶん、加工。ブランドサイト

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