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世界一周307日

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2011年3月10日。ひとりの旅行作家が全く新しいシステムによる世界一周の旅をスタートさせた。巡る先はアジア、ヨーロッパ、アフリカ、北米、南米、オセアニアの世界6大陸。『SUGO…
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#世界一周

note3 : 香港2011.3.13

【連載小説 3/100】 “現場”のリアリティとは、結局“現場”にいる者のものでしかない。 ここ香港でもインターネットにアクセスすれば地震被災地の映像が次々とアップされるから事態の深刻さや今後の不安は日本にいる人々とかなり近いレベルで共有できるような気がする。 問題は、そこに生まれる無力感なのだ。 誰かがtwitterでつぶやいていた。 「テレビをつければ、どのチャンネルも悲惨な映像が繰り返されるばかり。私たちはどうすればいの?」 そう、天災という極めて強力で容赦なき圧

note5 : マカオ2011.3.20

【連載小説 5/100】 マカオに来て4日目。 前回、僕にとって最初の海外旅行が1985年の香港だったことにふれたが、その時に日帰りオプションで一度だけマカオを訪れたことがある。 当時、アジアでは珍しいカジノの街に「東洋のラスベガス」などのキャッチフレーズが付けられていたから、きらびやかな観光地を期待して訪れたものの、砂塵が舞う殺伐とした風景の中に建つカジノの館群と歴史的建造物の周囲に群がる物乞いの執拗な懇願にカルチャーショックを覚え、あまりいい印象を持たずに離れた覚えが

note6 : 香港2011.3.23

【連載小説 6/100】 昨夜、マカオから香港に戻った。 明日「SUGO6」第2番目の訪問地へ向けて旅立つが、まずは既に16日の段階で決定していた次なるデスティネーションについて報告しておこう。 この日「dice」アプリで出た目は「1」。以下のメッセージが表示された。 >>>>> Dice Roll ②/2011.3.16-20:00<<<<< Hong Kong → Manila 【マニラ Manila】2番目の訪問地はフィリピンのマニラ。3/30まで7日間滞在。スペ

note7 : マニラ(2011.3.28)

【連載小説 7/100】 前回、香港からマニラへ旅立つ前夜に「東洋と西洋の交差点を渡り続ける歴史紀行を続ける」と記したが、マニラに残る歴史的城郭都市跡であるイントラムロスを毎日のように歩きながら僕の「SUGO6」の旅がプロローグから本章に入ったような思いを強くしている。 香港とイギリス、マニラとポルトガル、フィリピンとスペイン。 東西の交差点を順に渡ることで見えてくるのは複雑に縦横の道で構成された“歴史という街並み”のようなもの。 現代のキーワードでいえば「グローバリゼ

note8 : コタキナバル(2011.4.1)

【連載小説 8/100】 単に出た目の数だけ進むだけなら双六ゲームは退屈なはずで、そこに「○○で1回休み」とか「○○でふたつ前進」、さらには「振り出しに戻る」などの指示が待っているからプレーヤーはスリルと共にゲームを楽しむことができる。 「SUGO6」の旅も同様で、出た目の先に与えられるミッションが旅人の行動をおおいに左右することになるから面白い。 ※ 「振り出しに戻る」はないと思うが… 最初に「5」の目が出て東京から香港へ、次が「1」の目でマニラへ移動した僕が3度目の

note9 : サンダカン(2011.4.5)

【連載小説 9/100】 もう10年以上前になるが、僕が生まれ育った兵庫県の神戸市にある王子動物園に4頭の小さなオランウータンが運びこまれ、ちょっとしたニュースになったことがある。 なんとその子どもオランウータンたちは密輸業者によって日本に持ち込まれた上、大阪市内の繁華街にあるペットショップを通じて珍ペットとしてインターネットで売りに出されていたのである。 オランウータンはワシントン条約で取引が禁止されている絶滅危惧種であり、素人がペットで飼うことなどありえないことに疑

note10 : キナバタンガン川(2011.4.10)

【連載小説 10/100】 変化と安定。 開発と保存。 破壊と創造。 世界は常に相反するパワーの駆け引きとバランスによって成り立っている。 旅についても同じ。 航空技術の進化は僕たちに世界中を旅するチャンスを与えてくれたが、短縮された時間の分、目的地に至るプロセスの旅情は相対的に少なくなった。 英語とドルさえあれば、たいていの国で何とか過ごせる利便性は整ったが、グローバルスタンダードはそれぞれの国家が積み重ねてきた歴史や文化の独自性を見えにくいものとしてしまう。 ど

note11 : ダナンバレー(2011.4.14)

【連載小説 11/100】 カタッ、カタ、カタ、カタッ・・・ とMacBookAirのキーボードを打っていると 窓の外、おそらく5mほど先から ザワッ、ザワ、ザワ・・・ と木の葉が擦れ合う音が聞こえる。 様子を伺おうとキーを打つ作業を止めて耳をすませると、相手も動きを止めるのか音は止まる。 再びカタッ、カタ、カタ・・とキーを打ち出すと、ザワッ、ザワ・・と木の葉の音。 先ほどからロッジのライティングデスクに座ってこのテキストを入力している僕は、外の闇にいる“彼”と互い

note12 : セリンガン島(2011.4.19)

【連載小説 12/100】 エコツーリズムにおけるボルネオ島の魅力の第一が広大な熱帯雨林とそこに生息する多種多様な生命であることは間違いないが、島である以上それを取り巻く海があり、こちらでも美しい自然や希少な生命と出会うことができる。 17日の朝にダナンバレーを離れた僕は、ウミガメで有名なセリンガン島で2日間を過ごし、さきほどコタキナバルへ戻ってきた。 セリンガン島が世界有数のウミガメの産卵地で、WWF(世界自然保護基金)が世界一と認める貴重なエコツアーの地であることを

note13 : シンガポール(2011.4.22)

【連載小説 13/100】 人類が築いてきた文明の成果を最も分かりやすいかたちで表現してくれるのは摩天楼、すなわち超高層建築物群だろう。 地上200メートル。 シンガポールマリーナベイに登場した「マリーナベイ・サンズ・ホテル」の最上階にある「サンズ・スカイパーク」から眺める夜景は、インドシナ半島の南端、赤道直下に位置する面積700平方kmという極めて小さな国家の中心部を宝石箱のふたを開いて見せるショーのごときだ。 シンガポールへ移動して3日目の夜となるが、僕は毎日ここへ

note14 : シンガポール(2011.4.26)

【連載小説 14/100】 その昔、激しく荒れる海に阻まれ誰も上陸できない島を目指したスリウィジャヤという王国の王子がいた。 嵐に遭遇し航海は困難を極めたが、勇敢な王子がかぶっていた王冠を海に投げ入れたところ、海が静まり未知なる島へと上陸できた。 そこに現れたのが一頭の大きなライオン。 「この島を治めるがよい」との許しを与えて立ち去った。 島に新しい国を築くことになった王子は、そのシンボルとして海の神と陸のライオンを合体させた“マーライオン”をつくり、守り神として祀る

note15 : シンガポール(2011.4.27)

【連載小説 15/100】 動物園にまつわる子どもの頃の記憶。 ライオン、トラ、ゾウ、サイ、カバ、キリン、シマウマ等々、大好きな野生動物の姿を生で見ることのできる動物園にワクワクしながらも、せまい檻の中に閉じ込められたり、限られたスペース内を右から左・左から右と行ったり来たりするだけの彼らの姿に、ある種の失望を感じる。 その中でも特に期待はずれだったのが、オオカミやトラ、ヒョウといった夜行性の動物たち。お金を払って見に来た僕らの前でサービス精神のかけらもなく彼らはひたす

note16 : シンガポール(2011.4.29)

【連載小説 16/100】 Wikipediaで「博物館」を調べると「特定の分野に対して価値のある事物、学術資料、美術品等を購入・寄託・寄贈などの手段で収集、保存し、それらについて専属の職員が研究すると同時に、来訪者に展示の形で開示している施設」となっている。 対象となる分野が自然から歴史、民族、美術、科学、海事、航空、軍事等々広範に及ぶ博物館は、まさに人類の叡智を結集させた場所といってもいいだろう。 僕なりに博物館を解説すると「無限に積み重ねられていく“知”を適正なテ

note17 : ホーチミン(2011.5.2)

【連載小説 17/100】 6年ぶりにホーチミンを訪れて驚いた。 前回泊まって気に入ったサイゴン川沿いのマジェスティックホテル・サイゴンを目指して空港からタクシーに乗って来ると、リバーサイドから見てその後方に超高層ビルが建っていたのである。 マジェスティックホテルは1925年創業のクラシックなコロニアル様式の建物で、作家の開高健が朝日新聞社の特派員として1964年から翌年にかけて100日間滞在したことを知り、前回の訪問では氏にならって少し長めにこのホテルに滞在して仕事を