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私がアラスカで学んだこと-自然に命を預けるキャンプ-

キャンプが100%安全という事は
あり得ない。

いつ何時、我が身が天災や獣の攻撃にさらされるか分からない。

その理屈で言えば日常生活を送っていても天災の危険性は孕んでいるが、自宅やホテルに滞在していて獣の襲撃を受ける事はまずない訳で、キャンプでの危険性で一番気になるのは動物の存在だ。

私は初めてまともなキャンプを経験したのがアラスカだったので、毎日ヒグマやグリズリー、ムース(ヘラジカ)の存在に怯えながら生活していた。

彼らにとって我々は原野に見ぬ闖入者で、胃袋の具合によっては食欲を満たすための餌でしかない。

まさに”野生を旅する事”がアラスカ旅であり、当たり前の様に周囲に熊がいる環境でのキャンプは異常なまでの緊張感をもたらす。


細心の注意を払うべきはフードコントロールで、食べ物は勿論、歯磨き粉やコスメ、トイレットペーパーの様な匂いを発するものもテント内に置いてはならない。

缶詰でさえ嗅ぎ付ける熊の嗅覚は犬以上と言われており、私は食料関係はベアプルーフコンテナ(アンカレジのキャンプ用品店で購入)で保管し、熊を寄せ付ける可能性がある物は全てテントから200m以上離れた場所に置くようにした。



しかし自身の徹底したフードコントロールが意味を成さない場所がある。

オートキャンプ場だ。

普通のテントキャンプであれば皆が危険性を分かち合うが、車というシェルターで眠るオートキャンプ場にテント泊のキャンパーが紛れ込むと非常に危険なのだ。

車というシェルターを持つ彼らはフードコントロールの意識が非常に低く、人との距離感を間違った熊を育て事故を誘発している。

つまりこういった環境での獣害は人災に近い。


アラスカの自然や動物達を愛して止まなかった写真家・星野道夫さんがカムチャツカで熊に襲われ亡くなった事故も、私は限りなく事件に近い事故だと思っている。



ただこれらは遠い極北の地の話なのでピンと来ない人も多いかも知れないが日本でも獣害事件は多々起こっている。

福岡大学ワンダーフォーゲル部ヒグマ事件、三毛別・六線沢獣害事件などが有名だが、北海道では道外からきたキャンパーや観光客が毎年の様に獣に襲われて死傷しているのだ。

これは北海道には殺傷能力の高いヒグマが生息している事が原因となっている。命を奪われる可能性がある獣と言えばツキノワグマくらいしかいない我々本州以南の人間はどうしても獣害に対する意識が低くそれが問題となっている。


ニュージーランドでもキャンプ旅をした事があるが、大型の肉食動物や蛇も存在しないと聞くと緊張感の欠片も無くなり、毎日飲んだくれてそのままテントで眠っていた。

しかしもしその感覚のままアラスカに行けば死ぬ確率は急に高まるし、本州以南のキャンパーや観光客がいつもの感覚で北海道の自然に立ち入れば、やはり命に関わる重大事件が起こってしまう可能性は上がる訳だ。


旅をする事はアウェイに行く事。


つまりは通用しない常識が増える事を認識しなければならない。

優劣はないがキャンプには二種類あると思っている。レジャーとしてのキャンプと自然界に自分の命をデポジットとして預けるキャンプ。本当に大切な事は寝食を共にしてみないと分からないし本当の自然には恐怖を感じるものだ。

しかし本来感じなければならない恐怖を感じる事ができない、自分の命を自然に一旦預けた自覚がないとなるとこれは何が起こっても文句は言えない。

恐怖を感じる能力は恐怖体験がないと育たないのかも知れない。


私は自然に一定の恐怖を感じる事がアウトドア趣味にとって最も重要な事だと思っているが、そんな事は誰も教えてくれないし自然から学ぶしかない。

文章:菅井洋仁

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