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就農者を増やすには?【「普通の農家さん」に聞いてみた!後編】

今回の記事で取り上げるのは、山形県小国町の酒米・花き農家 井上 昌樹(いのうえ・まさき)さん。NIPPON TABERU TIMESとは、もう3年以上もお付き合いいただいています。
しかし、昌樹さんをメインで取り上げる記事は1本もなかったのです。

そこで今回、どのような想いで農業に向き合っているのか、閉塞感の立ち込める農業界をどのように切り開いていくのか、聞いてきました。

前編では、昌樹さんが会得した人生哲学、農業の「ホントのところ」をうかがいました。
後編では、小国町の地域おこし協力隊の方も交えて、農業のこれからについて語っていただきます。


農業の未来のために。就農者を増やし、離農を防ぐには?

-農業者が減少していると騒がれていますが、僕はそれよりも深刻な問題として、「新規就農者が農業をやめる割合が高い」ことがあるんじゃないか、と思っています。実際、農林水産省によれば、「新規雇用就農者向けである農の雇用事業(雇用就農者育成タイプ)を利用した者においては、(離農率が)39.5%という状況であった」となっています。

昌樹さん:そうだな。それは「体験」の問題だよね。農業には一連の流れってものがあるじゃない。米作りで言えば、耕起・育苗・田植え・草取り・収穫・脱穀……他にもあるけれど。農作業体験は、「田植え」だけ、とか「稲刈り」だけ、とか。断片的な部分しか見せないのだよね。四部作の大作小説の二作目だけ読みました、的な(笑)。
良い所も悪い所も見てもらわないと。農業の様々な面を知ってもらった上で、就農してもらいたいよね。

-うん、そうですよね。

昌樹さん:だからこそ「マッチング」が大事になってくるのじゃないか、と思っているんだよ。農業やりたい!って人も色々いるわけ。ブドウ作りたい人とか、コメ作りたい人とか。その人の状況によって、農業経営を勉強すべきなのか、栽培方法を勉強すべきなのか、変わってくるよね。

マッチングしづらい“今の制度”

-マッチングですか。先程の資料でも、離農の理由の6割以上が「自己都合」となっていました。自分のやりたいことと、就農した企業の業務がマッチしていないことが原因ですかね。

昌樹さん:やっぱり農業経営とか栽培とかのベースは学ばないといけないと思うよ。今の制度だとこんな感じ。

お金(=新規就農に際しての補助金)を渡されて、船に乗せられて出航する(=農家になる)けど、コンパスや地図(=農業経営や栽培についての基本的な知識)を持っていないから目的地(=自分のやりたいこと)に着くことができない、みたいな。農業人フェアのように、企業側と就農したい人をマッチングする場はあるけれど、企業側は1つの労働力として認識しているから、研修を通した経営手腕の向上とかは、また別の話になるのかな。でも、農業は実際にやってみないとわからないことも多いのね。作物との相性とか。

-小国町では、マッチングがうまくいっている例はないのですか?

昌樹さん:吉田くんはうまくいった例だよな。

吉田 悠斗(よしだ ゆうと)さん:写真左
早稲田大学政治経済学部を卒業後、バイオ系ベンチャー企業に就職。
しかし、1年経たないうちに退職し、小国町に移住。
小国町の地域おこし協力隊として活動しながら、2019年4月から11月までの8ヶ月間、
昌樹さんに師事し酒米・花きの栽培を学んでいました。
自称「世界中で一番、昌樹さんを知っている20代」。

-悠斗さんは、もともと東京の企業で働いていたのですもんね。

悠斗さん:そうだね。でも、会社に勤めていたときから、週末に小国町に通って、色々な農家さんと会っていた。だから、この町のこの地区で生活しながら農業をやる、というイメージを持つことができた。あとはどんな作物を作りたいか、というのも考えることができたね。

-移住する前に、長い時間をかけて小国との相性を確かめることができた。ここがポイントですかね。

悠斗さん:地域おこし協力隊として小国に移住してからも、色々な農家さんを回ったよ。1年かけて様々な農家さんに会って、自分の実現したい農業のスタイルを考えたことは本当に大きかったと思う。

-地域おこし協力隊ならば、ある程度時間に余裕があるのですね。地域おこし協力隊としてその地域を体験してみるのもいいかもしれないですね。

悠斗さん:うん。
小国町に移住してすごく感じるのは、「自然と一緒に生きることに魅力を感じている農家さんが多い」ことかなー。若いうちから起業して、大きなステージに早い段階で上がるような「太く短く」というライフスタイルももちろんいいと思う。でも、これからの人生100年時代、「細く長く」続けていくことができる農業がすごく魅力的だってことを、小国町の農家さんから勉強させてもらったかな。それに、一次産業は、食べるものを作る、とても尊い仕事だと気づいたよ。

-たしかにそうですね。小国町の農家さんには僕も何人も会ってきましたが、「細く長く」農業を続けていくことを理想に掲げている農家さんが多いような気がしますね。

昌樹さん:うん、そうだな。今の農業界、1人の力で突破できるようなものじゃないと思う。それほど簡単な問題じゃないというか。だから、共同戦線を組んで課題に立ち向かって行くのが重要じゃないかな。「一緒に」とか「少しずつ」というような思いで農業に向き合っている人も、小国町には多いように感じるな。
別々のことをやっているけれど、協力する時は連携する。そんなやんわりとした仲間で、少しずつ進んでいければ良いのじゃないかな。


「先を見ることより、自分のこと、子供のこと、明日のこと。
将来のために『いま』が楽しくなくなるのは、オレは嫌だな」

目の前の物事に対峙し、「いま」「この場所」を楽しむ。
「いつか」のために生きるではなく、「いま」のために生きる。

「いま」を生きてゆく先に、「将来」がある。

普通の農家だと語る昌樹さんの「いま」を生きる姿は、とてもかっこいい、と思います。

そして、「いま」を生きることを可能にする農業も、同様にかっこいいライフワークなのではないでしょうか。



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