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クール昭和と人情

2022年の食市場を示すトレンド用語は40種類近くにも及びます。

その一つが「クール昭和」

何故、昭和がクールなのかと言いますと、若者世代からすると「おしゃれで個性的」なものが「クール」であると映えるからです。

その為、彼らにとっては昭和レトロはクールなものに感じるそうであり、これを「クール昭和」として新たなジャンルを築こうとしているのです。

それには、昭和レトロを具現化した商品やサービスとともに、昭和の時代の人情を再現することも図られています。


何故、電車の写真か?


さて、冒頭の写真に、何故電車(東武8000系)なのかと言いますと…

私は撮り鉄でも鉄ヲタでもないのですが、2024年度から東武アーバンパークライン(元野田線)の車両が5両化されることが発表されています。近い将来、消滅してしまうだろうと、記録を残しました。

今の若者にとっては東武8000系が野田線のイメージが強いのですが、我々世代は本線で準急として活躍していたイメージが強いです。

「準急」=「焦げたにおい」ですから…(笑…)

学生時代は毎日のように「準急浅草行」にお世話になりました。

この車両の一番の魅力と言えば「フカフカの座席」です。

日差しの関係で明るさにムラがありますが、この座席に座って寝落ちってしまうと、とても快適なものです。

この座席を拡大するとこんな感じですが、座ると腰の痛みも癒してくれます。


この形式を「ボロ」だの「年寄り」だの言う人もいますが、社会人という経験を通じて感じることは、昭和時代は今より遥かに相手を思い遣ったプロダクトを開発しているということです。

東武鉄道に詳しい人は知っていると思いますが、この車両形式には超多段式バーニアカム制御方式というものを採用しています。

…というと分かりずらいかもしれませんが、円滑に加速出来る仕組みとなっていると言った方が分かるかもしれません。

細かい話をすると長くなるため、かいつまんで記述しますが…

以前の「釣りかけ駆動方式(音がうるさい旧型車)」と比べると走行音がかなり静かになり、揺れも少なくなっています。

そして、運転しやすくメンテナンスも楽というメリットがあります。

つまり、お客様にも従業員にも優しいものを開発したということになります。

従業員の無駄な業務削減とともに、サービスの質の向上とも言えます。

お客様と従業員に優しい…この思想ってまさにホワイト企業ではないのでしょうか?


古きものを捨て、新しき良いものに…破棄された昭和

私の長い社会人経験で必ずしも遭遇したのが「改革」でした。

その改革とは…

過去のものはどんぶり勘定だから整備して合理性を図ろうという、一見体裁の良いものでした。

私が20年近く前に介護施設に転職した時のことです。

当時は初代施設長が施設長として就任されていたのですが、体調不良で仕事を休まれていました。

私はこの施設の様々な書面を見て、随分とお金をかけているし、こんなに一度に大量購入してもいいものなの?って思いました。

物品を購入するときも、上司にお伺いを立てずに直接発注して、発注したものを記録に残せばいいといったフランクな物品管理。

これまでの職場の金銭管理がシビアだったばかりに、ここは随分とどんぶり勘定だと思ったものです。


でも、私がこの施設に入職した時点で、施設では、別の意味で良からぬ変化がなされていたのです。

施設長が変わって、それ以降とんでもない方向性へと移り変わります。

…というのも、この新しい体制を牛耳っているのは施設長ではなく、全く別の存在です。

これが顕著に表れ始めたのが、施設長が変わってから10ヶ月程経った時でした。

この施設は、初代施設長が施設経営に対して熱い信念を持っている人であり、施設長によって施設全体の統括がなされていました。その為、特に役職制度は設けていませんでした。

スタッフの中から「各部署に課長や主任を設けていないのはおかしい」「先輩スタッフよりも後輩スタッフの方が優秀なのに、優秀ではない先輩スタッフが上に立っているのはおかしい」という声が挙がっていました。…というか、私も同様のことを言っていました。

そのために「役職制度」を取り入れて組織改革を図りました。

しかし、その組織改革の内容にがっかりしました…

ある部署の課長や主任に就任したスタッフとは「利用者様に対して、お世辞にも献身的とは言えない」人達でした。

失礼ながら、「遊び半分でお金をもらっている人達」。

それとは逆に、今まで責任者的な立場から降ろされた人も数名いました。

中には、「何故、こんな良心的なスタッフを平社員にしてしまうの?」という部門もありました。当スタッフは相当ショックを受けていましたね…


この施設は、私が入職した時点で良からぬ変化がなされていたのです。

当施設はかつて、就職したいという人が殺到する程、働く側にとって人気の施設でした。

当時は介護保険制度を設けていなかった時代だったので、福祉業界の収入が高く、福利厚生が充実していたのも確かです。

看護師同士の人間関係はあまり良いとは言えませんでしたが、介護員たちは和気藹々と業務に臨み、利用者様へ心温まるケアが出来ていました。

当時は中高年で介護関係の資格が無資格の人が多く、今のように詳細な知識は持っていませんでした。

でも、利用者様に接する時は、まるで自分の家族のように温かく接します。

かと言えば、業務はテキパキとこなされ、利用者様の身の周りも汚れなく整備されていました。

次第に、彼女たちは定年を迎え、殆どのスタッフが退職され、専門学校を卒業して介護福祉士の資格を取得した若いスタッフに世代交代します。

また、介護スタッフの長も世代交代し、新しいスタッフが長に就任しました。

この世代交代が良からぬ方に転じたのです。

それは実習先からのクレームにも繋がったのです。

虐めに遭う

おまけに、仕事ぶりも至って事務的

この虐めの問題は、施設長が変わってから、この施設の問題点として取り上げていました。

従業員同士の人間関係もギスギスとし、虐めの問題が発生していました。

この問題の癌となっているのが、新しく就任した介護スタッフの長であり、初代施設長は当該スタッフに介護部門の長としてのポジションを与えたくなかったのですが、これにはやむを得ない理由があったのです。

介護部門の長として候補となるスタッフが実際にいたのですが、このスタッフは介護部門の世代交代時に39歳という若さで他界してしまったのです。

この方は介護部門の長となった癌とは真逆のタイプであり、至って誠実なスタッフでした。

本来、長として引き継いでもらいたい人がいなくなり、後は若いスタッフしか残っていないということから、やむを得ずという選択しかありませんでした。

当然、若いスタッフの教育にあたるのが、このお局。

お局は至って偏見で物事を判断する人でした。

人を差別するので、気に入った人にはめっぽう優しく、気に入らない人には悉く陰湿です。

そのやり方は周囲の人間をも巻き込むので、お局に気に入らないとなると、全く関係のないスタッフからも敵視されます。

会議の場では吊し上げにしたり、物理的に無理というレベルでの業務の過大要求、ハラスメントという形で退職推奨をします。

しかし、気に入ったスタッフはとにかくえこひいきであり、そのスタッフの勤務態度がいくら悪くても賞賛するだけ。

一緒になって遊んでいるようなものです。

いい年こいて子供みたいなもの。


しかし、この組織改革において、このお局を課長というポジションに就任させ、主任クラスにその取り巻きを就けたのです。

この施設…オワタ…orz…

結局、利用者様への事務的な介護は全く改善されませんでした。

寧ろ、変なところ細かくて口うるさいばかりです。

無駄に業務が増えるばかりになり、介護スタッフは、毎日一時間のサービス残業が当たり前。

これはまさにブラック企業


でも、この劣悪な雰囲気を利用者様は感じ取っているのです。

認知症になると、学習力や記憶力は低下するものの、感情面という本能的なものは至って正常です。

スタッフがスタッフに強い口調で話しかけたり、人の悪口や陰口をたたいていることを、意外にも敏感に感じ取ります。

これが原因で、利用者様は不穏状態に陥ります。

大声で「こんちきしょー!」と叫んだり、ふとしたことで怒りの感情が込み上げ、他の利用者様とトラブルを引き起こしてしまいます。


このように古きものを捨てて新しき良いものに改革した結果を招きました。

古きものとは、初代施設長の思想でした。その思想とはまさに昭和そのもの。

確かに業務が残業になるということはありましたが、残業代はちゃんと支払ってくれていました。

それだけでなく、その古き時代の当該施設は、利用者様だけでなく、スタッフにも優しいものでした。

例えば旅行に行くために一週間の有給休暇を使うことを認められていましたし、有給を使うことをペナルティとして扱っていませんでした。

休憩時間もしっかり取ることが出来ていました。

介護保険導入前は縛りがなかったので、仕事に余裕があったのかもしれませんが、この職場のギスギスした問題は、介護保険が全て悪いというわけでもないのです。

保険による施設の収入を増やすには、ある一定の条件を満たさなければなりません。

モンスターペアレントやクレーマーの問題もあるので、ここがかつてと勝手が違う部分というのも大きいでしょう。

介護保険法で謳っていることが完全に叶うのかというと、そういうわけでもありませんが、介護保険法の根本は利用者様を第一としたもの。

医療においてもそうですが、従業員が心身ともに元気ではないと、患者様や利用者様にも元気を与えられません。

良からぬエネルギーは負の連鎖を起こしてしまいます。

しかし、残念なことに改革を謳っている企業は、このように方向性を悪化しているケースが本当に多いと思います。

収入を増やすために努力をしていることなのかもしれませんが、結局「利益を上げる」ための策略を練っているだけであって、表向きは合理的だとか言っていますが、やっていることは合理的ではありません。


給食部門の業務委託化



これは、給食部門の業務委託化についても言えます。

栄養部門における収入も、かつてとは違い、かなり縮小されています。

ここ最近では、経済学者によって「ここまで収入を減らすのは余りにも酷ではないか」との声も上がっています。

病院や施設は、自社の財源を確保したいもの。

給食部門を業務委託化するには、経営者ならではの何等かの理由があります。

しかし、私は給食部門の業務委託化は芳しくなく思っています。

就職活動時に面接に行って「今の職場では給食部門は業務委託化しています」という旨を話すと、面接官に「うちも業務委託化してるよ」と返答します。(必ず)

いやいや…私は業務委託化なんて一切希望していませんから(汗)

委託会社の話をすると長くなってしまうのですが、業務委託化することによって大きなデメリットとなるのが、冷凍食品の使用頻度が増えることです。

野菜は、カット野菜又は冷凍品。

肉、魚も輸入ものの冷凍品が使用されます。

食中毒防止や人件費の削減という観点からも、手間暇かけて作る料理は冷凍品や缶詰からとなります。

2000年以降、食のトラブルが多発してきたことから、給食委託会社としても自社の名前に傷が付くことを避けたいという思いがあるのでしょう。


しかし、ある介護スタッフから「委託会社の料理は機械的であまり温かみを感じられない」と言われました。

生鮮食品と冷凍食品を使った場合とで、料理の仕上がりにはかなり差が出ますし、冷凍食品を使った料理に温かみが感じられないというのは、分かる人には分かるものです。

いくら調味料で味を調整しても、素材そのものが劣っていることが隠せないのです。

調理師によっては、頑張って工夫をしてくれている人もいます。

しかし、調理師のスキルもまばらなもの。

ただ作ればいいという感覚で仕事をしている調理師の場合、全くもって料理に思い遣りが感じられません。冷凍食品のオンパレードである委託会社だと、これが尚更です。


人情あるものが斬新

今は事務的、機械的というのが当たり前のようになっています。

この時代の移り変わりを見ながら、時代の変化に虚しさを感じてきました。

日本が不景気なのは政治のせいだの、某感染症が悪いだの、その原因を外部に求めることは簡単です。

お客様へのおもてなしは勿論大切です。

でも、従業員のモチベーションは無視してはなりません。

いくら「お客様の為」とは言っても、従業員の拘束は、モチベーション低下にも繋がる上に、生産性をも下げてしまうからです。

モチベーションアップはインスピレーションにも繋がりますし、それは最終的により良いサービスの開発に繋がるのではないのでしょうか。

昭和レトロが懐かしく、クールで斬新に見えるのは、潜在的に心を癒してほしいと求めているのかもしれませんよ。



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