成田 くうこう (小説、詩、エッセイ)

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詩:ぼくら宇宙になれるかな

よ、よ、よるの水槽で まぶたをなくした、テトラの夢 ぼくたちは空っぽの天国で 硝子の破片を 抱いたまま眠る ぴかぴか光る稲妻を まぶたのうらに刺しておき 手首に傷を…

詩集:タイトル未定

1 神様は十七歳 かたく鳴る心臓を 罪のように数えながら  冷えた炭酸水を飲む セロファンみたいに薄い胸 泡のようにはじける罰が かすかな音をたてて いまくだっ…

【再掲】青い毛布(最終話)

そして結衣子が目を覚ました。   気づいたら、夫が車を運転している隣で、すっかり眠ってしまっていた。 夫は、カーステレオのボリュームを最小限に絞って、音楽か何かを…

【再掲】青い毛布(11/12)

「……ねぇ信吾。月ってさ、どうやって生まれたか聞いたことある?」 浅い眠りの中でまどろんでいると、沙希が急に耳元でそう囁いた。 信吾がうっすら目を開けて「……月…

【再掲】青い毛布(10/12)

結衣子は出発の時刻が近づいても、最終電車に乗れないままホームに立ち尽くしていた。 このまま乗らずにいれば、この夜が永遠に終わらずに続いて、ずっと信吾の傍に入れる…

【再掲】青い毛布(9/12)

それから最終電車の時間が近づいて、二人は燃え尽きた花火をかき集めて、ビニール袋の中に入れると、無言のまま歩いて駅まで向かった。 信吾が先を歩いて、結衣子はその少…

【再掲】青い毛布(8/12)

コンビニで花火とライターを買って、そこからまた駅の近くの公園に向かうと、誰もいないせいなのか、昼間に比べると奇妙なくらいに広々と感じられる夜の空間がそこにあった…

【再掲】青い毛布(7/12)

お好み焼き屋の前に自転車を停めたまま、店を出たその足で、暑かったという事もあり、サーティーワンでアイスクリームを買った。 その後、すっかり暗くなった夜道を二人で…

【再掲】青い毛布(6/12)

もんじゃ焼きのメニューを見ている結衣子は、随分楽しそうだ。 「すごい、種類が結構いっぱいあるよ、私はこの明太チーズもんじゃがいいなぁ、…あ、でも飲み物が先か、信…

【再掲】青い毛布(5/12)

それから夕方になって、二人は一緒に潜り込んでいた毛布からのそのそと抜け出すと、床に落ちている衣服を身に着けて、玄関の鉄の扉を押して外に出る。  信吾は家の鍵を閉…

zoom飲み会。
誘われても恥ずかしくて参加できない。。

【再掲】青い毛布(4/12)

「無題:そろそろ到着だよ。一人で来たから、何かすごく遠く感じたよ」 コンビニのATMでお金を下ろしている時にそのメールがきて、信吾はそのまま歩いて駅まで結衣子を…

【再掲】青い毛布(3/12)

「信吾のアパートに遊びに行ってもいい?」 大学一年の六月。 初めての一人暮らしが少しずつ落ち着いてきた頃に、唐突に結衣子からそんなメールが届いた。 もちろんそれは…

【再掲】青い毛布(2/12)

ある朝、宮島信吾は会社に行く途中、駅のホームで丸々と肥った男に突然声をかけられた。 見覚えのない相手の顔を、判然としないままにしばらく見つめ続けていると、相手は…

【再掲】青い毛布(1/12)

印象的なエピソードが一つある。 1996年。この年の夏に開催された、アトランタオリンピックに関する話しだ。 その時、ある一人の黒人選手が、ハードル走の最終レースのス…

詩:ぼくら宇宙になれるかな

詩:ぼくら宇宙になれるかな

よ、よ、よるの水槽で
まぶたをなくした、テトラの夢

ぼくたちは空っぽの天国で
硝子の破片を
抱いたまま眠る

ぴかぴか光る稲妻を
まぶたのうらに刺しておき
手首に傷を保つためだけのかぎづめを持っているから
なくした思い出がほら
いま、ひかりを放つ

けむった空気の中で目を覚まし
誰しもが肌色のふくろに押し込まれる様を見つめている

ぼくたちはいつか骨になり
素焼きのまんま土に埋められ
か、かぎづ

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詩集:タイトル未定



神様は十七歳

かたく鳴る心臓を

罪のように数えながら 

冷えた炭酸水を飲む

セロファンみたいに薄い胸

泡のようにはじける罰が

かすかな音をたてて

いまくだっていく

37度

夏の午後

薄暗いバスルーム

ヒアシンスのように 

水に浸かり

倦怠感は拭えそうにもない

ユニコーンの卵

冷蔵庫のなかで発光し

ヒスイ色の草原を

息を切らせながら 

走る夢をみる



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【再掲】青い毛布(最終話)

【再掲】青い毛布(最終話)

そして結衣子が目を覚ました。
 
気づいたら、夫が車を運転している隣で、すっかり眠ってしまっていた。

夫は、カーステレオのボリュームを最小限に絞って、音楽か何かを聴きながら黙々とハンドルを握っている。

……一体どこまで来てしまったんだろう。

眠気の残った頭で結衣子はそう思っていた。

車の外では、深夜の闇の中に、暖色の外灯が等間隔に現れては消えていって、それは窓ガラスについた細かい傷や埃のせ

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【再掲】青い毛布(11/12)

【再掲】青い毛布(11/12)

「……ねぇ信吾。月ってさ、どうやって生まれたか聞いたことある?」

浅い眠りの中でまどろんでいると、沙希が急に耳元でそう囁いた。
信吾がうっすら目を開けて「……月?」と聞き返すと、沙希は続きを話し始める。

「……地球って最初はね、今よりもずっと大きかったらしいんだけど、ある時大きな隕石が来てね、地球のものすごいたくさんの部分を抉り取って、そのまま周囲にばらばらになって散らばったんだって。 

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【再掲】青い毛布(10/12)

【再掲】青い毛布(10/12)

結衣子は出発の時刻が近づいても、最終電車に乗れないままホームに立ち尽くしていた。

このまま乗らずにいれば、この夜が永遠に終わらずに続いて、ずっと信吾の傍に入れるような気さえしていた。

鞄の中で携帯電話が鳴っているのに気が付いて取り出すと、どういうつもりなのか浅野先生からで、通話ボタンを押して耳に当てると、電話の向こうで憔悴しきった声が聞こえてきた。

「……結衣子?ずっと掛けてるのに何で出ない

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【再掲】青い毛布(9/12)

【再掲】青い毛布(9/12)

それから最終電車の時間が近づいて、二人は燃え尽きた花火をかき集めて、ビニール袋の中に入れると、無言のまま歩いて駅まで向かった。
信吾が先を歩いて、結衣子はその少し後ろをついてゆく。

「でも、一番まずいのはさ…」

駅の前まで来たところで信吾がふいに口を開いた。

「オレも結衣子のことが、好きだって事なんだ」

それを聞くと結衣子は辛そうに俯いて、地面を見つめながら呟く。

「…うん。知ってたよ」

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【再掲】青い毛布(8/12)

【再掲】青い毛布(8/12)

コンビニで花火とライターを買って、そこからまた駅の近くの公園に向かうと、誰もいないせいなのか、昼間に比べると奇妙なくらいに広々と感じられる夜の空間がそこにあった。

静まり返った公園の暗闇の中で、ブランコの近くに植えられている紫陽花だけが際立って、夜風に吹かれて淡くゆらゆらと揺れているのが見える。

時計台を少し離れた滑り台の近くで、ビニール袋から取り出した花火セットの封を開けて、取り出したひとつ

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【再掲】青い毛布(7/12)

【再掲】青い毛布(7/12)

お好み焼き屋の前に自転車を停めたまま、店を出たその足で、暑かったという事もあり、サーティーワンでアイスクリームを買った。

その後、すっかり暗くなった夜道を二人で当てもなくぶらぶらと歩く。

結衣子は信吾にしきりに、ねぇ、私の顔、赤くない?と聞いている。結衣子の頬はお酒が回って確かに少し赤かったけど、大丈夫、あんまり気にならないよ、と信吾は答えた。

 一緒に歩いているうちに、結衣子との距離がまた

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【再掲】青い毛布(6/12)

【再掲】青い毛布(6/12)

もんじゃ焼きのメニューを見ている結衣子は、随分楽しそうだ。

「すごい、種類が結構いっぱいあるよ、私はこの明太チーズもんじゃがいいなぁ、…あ、でも飲み物が先か、信吾は何にする?」 

 結衣子と部屋でしたことのショックから今だ抜け切れていない信吾は、話しかけられてハッとすると、慌ててメニューを開き始める。 

決めかねてグズグズしていると、結衣子は「当店お勧め」と書いてあるメニューを指差して、これ

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【再掲】青い毛布(5/12)

【再掲】青い毛布(5/12)

それから夕方になって、二人は一緒に潜り込んでいた毛布からのそのそと抜け出すと、床に落ちている衣服を身に着けて、玄関の鉄の扉を押して外に出る。

 信吾は家の鍵を閉めるときに、そういえば高校二年の時、結衣子のあられもない姿がアダルトサイトに投稿されているという噂が立った事をふと思い出す。

 あの時、その証拠になるようなものを見たという人間が一人も見つからないまま、その噂は学校中に広がり、いつの間に

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zoom飲み会。
誘われても恥ずかしくて参加できない。。

【再掲】青い毛布(4/12)

【再掲】青い毛布(4/12)

「無題:そろそろ到着だよ。一人で来たから、何かすごく遠く感じたよ」

コンビニのATMでお金を下ろしている時にそのメールがきて、信吾はそのまま歩いて駅まで結衣子を迎えに行くことにした。

歩きながら自分が部屋用のジャージを穿いていた事にふと気づき、そういえば朝起きてから寝癖すらちゃんと直したのか定かではない事にも思い至ったが、しかし今さら部屋に戻って準備をし直すような時間もなかった。

駅に着くと

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【再掲】青い毛布(3/12)

【再掲】青い毛布(3/12)

「信吾のアパートに遊びに行ってもいい?」

大学一年の六月。

初めての一人暮らしが少しずつ落ち着いてきた頃に、唐突に結衣子からそんなメールが届いた。

もちろんそれは高校の陸上部のみんなと一緒に、という意味なのだろうと信吾は最初は思っていたが、日を置いて何度か連絡をやり取りしているうちに、どうやら結衣子は一人で信吾の家に遊びに来るつもりなのだという事がだんだん分かってきた。

あまりにも唐突な連

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【再掲】青い毛布(2/12)

【再掲】青い毛布(2/12)

ある朝、宮島信吾は会社に行く途中、駅のホームで丸々と肥った男に突然声をかけられた。

見覚えのない相手の顔を、判然としないままにしばらく見つめ続けていると、相手は親しげに「高校の……」とか「陸上部が……」などの身に覚えのある話をし始めて、そしてその口から共通の友人の名前が幾つか挙がった所で、ようやく信吾は目の前の男が高校時代の同級生であり、陸上部の同期である事に気が付いた。

 いくら声が変わらな

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【再掲】青い毛布(1/12)

【再掲】青い毛布(1/12)

印象的なエピソードが一つある。

1996年。この年の夏に開催された、アトランタオリンピックに関する話しだ。

その時、ある一人の黒人選手が、ハードル走の最終レースのスタートラインに立ち、メダルの采配を決めるべく、各国の選手達と共に並んで勝負の瞬間を待っていた。

「On your mark … Get set(※位置について、用意…)」

合図とともに彼が駆け出した十数秒後に、観衆はその不可解な

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