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ひたすら鉄を作っている人生。

これはエンジニアと人生 #2 Advent Calendar 2021の10日目のエントリです。昨日はBullさんの【2021年の振り返り】プロマネと育児でした。
Bullさんのところに授かったのはなんと双子さん!
育児はめちゃくちゃ大変そうですが幸せも倍増しそう!めでたい!


さてさて、唐突ですが私は鉄を作りたいのです。
そしてその鉄で何かを作ってみたいのです。
たった一振りのナイフでもいい。
何かモノを作り上げてみたいのです。

ゼロから。

私は製鉄業に従事しているわけではありませんし刀鍛冶でもありません。
どこにでもいる一介のプログラマーです。
にも関わらずこの3年ほど義弟たちと試行錯誤しつつ鉄を作っています。

なぜこんなことをしているのかと言えば、義弟が友人から鉈(なた)を自慢されたことに始まります。どうやらその鉈は義弟の友人が鍛造体験に行き、自分で打った鉈ということらしいのです。「ならばこちらは鉄から作ってやるぜ」と奮い立った義弟に声をかけられたことが事の発端です。

その鉄ですがどうやって作るかというと、たたら製鉄という日本古来の製鉄法を使っています。
材料は至ってシンプル。どこにでもある砂鉄と木炭。それだけ。
ただ大量に必要です。砂鉄は20kg以上、炭に至っては100kg以上。

うず高く積まれた炭

耐熱レンガで高さ1m80cmほどの炉を組んで炭で満たし加熱、ブロワーで風をどんどん送りながら炭を燃やす。炭が燃え落ちていくペースに合わせて10分おきに砂鉄と炭を交互に入れていく。これをひたすら2時間と少々操業します。
(※現在日本で唯一たたら製鉄で鋼を作っている日刀保たたらでは3昼夜操業するそうです。)

砂鉄を入れ終わった後、炭をある程度燃やし切り炉を少しづつ解体していくと炉の底にゴジラのような質感の塊ができています。これが鉧(けら)と呼ばれる粗鉄です。

輻射熱でメチャクチャ熱い

…と簡単に書いてはいますがなかなか大きな塊が得られず実際は何度も失敗しています。つい最近も失敗しました。つらい。

これを水の中に投入し冷ますと3〜4kgほどの鉄の塊が得られます。

得られた鉄

表面は酸化していて黒いのですが、内部はキラキラとした金属光沢が確認できます。これが見ていて飽きないほど美しい。

写真では伝えきれない美しさ

これを再び黄色になる程度に熱してからハンマーで叩くと、ほんの少しづつですがグニッと変形していきます。鉄ができたことを実感する瞬間です。楽しい。
ただしここで作った鉄の質が悪いと、雪玉を叩き壊したようなモソッという感触と共に粉々に崩れてしまいます。炭素の含有量が多すぎるとそうなるらしいです。この失敗も何度もやっていますが全部台無しです。つらい。

叩く!柔らかい!楽しい!

幸いにも叩いて変形できる鉄だったとしても、叩いていくにつれて必ずヒビ割れが発生してうまくまとまりません。鉄の中に不純物が混ざっているのが原因らしいです。
日本刀を作る場合だと、たたら製鉄で作られた鉧の中から玉鋼と呼ばれる良質な箇所を選別し熱して叩き、水へし・小割り・積み沸かし・折り返し鍛錬といった工程を経て不純物を徹底的に排除し意図通りの硬さの鋼にするようです。
また、一度溶かし直し炭素濃度を調整する卸し鉄(おろしがね)という手法も使うようです。

これまで一番の出来の鉄 しかしそこら中にヒビ割れが…

昔ながらの方法で「ほぼ鉄」を「鉄」にするだけでこれだけの手間がかかるのです。マジか。

砂鉄は言ってみればそこら中にあるただの砂で、炭は不完全燃焼したただの木です。
そのありふれた素材から、現代文明の根幹たる鉄ができることはそれだけでも感動を覚えます。
ただ、その鉄を思い通りに加工しようとするとさらに恐ろしく高い壁があるのです。まだまだ奥深く先は長い。

ゼロからトースターを作ってみた結果(原題:The Toaster Project: Or a Heroic Attempt to Build a Simple Electric Appliance from Scratch)や、最近ではDr.STONEが好きなのですが、ゼロから文明を作り上げる「無理ゲー感」を身を以て痛感しています。

既製品の耐熱レンガで炉を組み既製品の炭を燃やし、ブロワーという文明の利器を使って風を送る。熱した鉄を既製品の金床の上に置き既製品のハンマーで叩く。
それだけ現代技術の力を借りているにも関わらず、未だに鉈どころか小刀ひとつ作れない。
そんな不甲斐なさを感じる一方で過去の人類が積み上げてきた試行錯誤とその叡智に感服せざるを得ません。

「昔の人はどうやってたんだろうなぁ…」

片付けの際に毎度そう呟きながら、その先人の叡智を一欠片でも体感したいという一心でまた次回の予定を立てるのです。来年こそは。

※炉の上部にはステンレスのネットを被せ、火の粉が決して飛ばないようにするなど安全には細心の注意を払って製鉄を行っております。


エンジニアと人生 #2 Advent Calendar 2021 明日11日はHidemune TakahashiさんのiOSアプリできちんと設計をするようになったら変わったことです。お楽しみに!

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