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恐怖は消えない

(カバー:黒沢清『回路』より)

どういうわけか、子供の頃からホラーやオカルトに人並みならぬ興味をおぼえている。

一番最初のきっかけは「ゲゲゲの鬼太郎」のアニメ再放送ではなかったかと記憶している。世界の見えないところで、この世ならぬものが共存している水木しげるの世界観に、幼いわたしは心惹かれた。自分にもいつか妖怪と出会うチャンスが訪れるのではないかと、心霊番組や妖怪の図版を見ながら、超常的な世界に心躍らせる子供になった。

そして次第に、自分の住む古い民家の廊下の薄暗闇が怖くなり、死について考えることが恐怖になった。自分の住む世界と、目に見えない膜を挟んでこの世ならぬ世界があり、自分はその闇に引き摺り込まれてしまうのではないかと怯えるようになった。

惹かれつつ恐れながら、恐怖の世界に魅入られたまま、わたしは今に至っている。

恐怖の体験は、人間にとって決定的だ。
映画監督の黒沢清はかつて、真に恐ろしいホラー映画とは「その恐怖を体験したら、それ以前の世界には戻れなくなるような体験」をもたらすものだと書いた。

恐怖は植え付けられたら最後、そこから逃れることはできない。
かつてお化けや心霊番組に怯えていたあなたが、今それを怖いと思うことがなかったとしても、恐怖は決して消え去っていない。大人は、子供のころに発見してしまった恐怖を看過する術を身につけているだけだ。

大人になってから暗がりに怯えなくなったとしても、そこにある恐怖の芽は枯れていない。死とは物理的な現象だということを理解してもなお、死の瞬間や死後について想像する力は衰えないまま、自身の裡に眠っている。

恐怖は今も、あなたのそばにある。

暗がりにじっと目を凝らしてみれば、今もなお、あちら側の世界があることに震撼するだろう。

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