♠️017:狂おしいほどに愛しい人
ある日の夜、ツッキーより連絡が有った。
『知り合いの男性二人をうちに泊めても良い?』
ツッキーは広めの家に一人暮らしをしているので物理的には可能なのだが、
俺はその時に強い拒否反応を示した。
『そんなの駄目に決まってるでしょ、そんなこと聞かなくても分かるでしょ?
ツッキーは泊めても良いって思ってるの?』
するとツッキーからは、
『泊めても良いと思ってるよ、仕事で来ているらしく連休でどこのホテルも満室らしく、泊まる所が無くて困っているみたいだから。』
自分としては愛しい彼女の家に、男二人が泊まると言う事が全く理解できないし、受け入れる事が出来なかった。
お互いの意見がぶつかり合い、ツッキーからは『もう別れましょう』と言われた。
これって俺が悪いのか?
根本的な価値観が違い過ぎるのか?
逆の立場ならどう思うのか?
次の日、悶々としている中でツッキーから『明日10時に家に来て下さい』
と、お怒りモードの敬語での連絡が。
別れるなら鍵も返さなければならないし、しっかりと話し合う必要が有ると思い、一旦ツッキーの家に行くことにした。
道すがら目に入ってくる風景はどこも思い出深く、でもこの風景を見るのも今日で最後になるかも知れないと思っていた。
別れたら寂しいだろうな、寂しくて苦しいだろうな。でも俺は悪くないよな。この考えが合わないならどうせこの先上手く行かないよな。
これで折り合いが付かないなら別れるしかないな。別れたら寂しいから新しい彼女見つけようっとw
そんな事を悶々と考えながら喫煙所で3本連続タバコを吸い、いよいよ彼女の家に向かった。
俺が家に着いたらツッキーは無表情にテーブルに座っていた。俺も黙ってテーブルに着く。お互い目を合わせない。
そしてしばらく無言の時間が続いた後にとうとうツッキーが重い口を開いた。。。
・・・と言った状況を予想していた。
オートロックを開け、ドアにカギを差し込む前に深呼吸。意を決して鍵を開けて中に入った。
ツッキーが俺を出迎えた。いつもと変わらぬ笑顔で俺に抱き付いてきた。
これは予想外の展開。完全に俺の頭は思考が停止した。
先程まで脳内でのツッキーは無表情に冷たく接して来ていたのに、現実のツッキーは真逆の反応。
そしてツッキーは体をくねらせながら深くキスをして来た。
いつもだったらタバコ臭いの嫌い!と言って来るのに。今日は3本連続で吸って来たのに。
そんな事はお構いなしに舌を絡ませてくる。
この瞬間、ツッキーのメッセージの内容や俺の感情や嫌な気持ちは一旦忘れようと思った。
ツッキーが求めて来るのはきっと俺の事が好きだから。俺もツッキーの事が好きだから。
好きだから悩んで、苦しんで、逃げたくなってしまう。でもこうしてツッキーは俺の中に飛び込んで来てくれた。
単純に嬉しかった、心がとろけてしまった。
さっきまでの不の感情が視界から消えてしまった。
堪らずツッキーを強く抱きしめた後に無言でベッドに押し倒した。(こういう時のセックスって異様に燃えるんですよねw)
ベッドの上で腕枕をしながらツッキーと話し合った。
ツッキーはメンタルヘルスケアのプロ。
それに加えてADHDでありHSPでもある彼女は、それ故に普通の人と物の捉え方や考え方や感じ方が違う。
ツッキーから話を聞いてハッとした。
ツッキーは俺の事だけを考えて俺の為に行動しているだけだった。
そんなツッキーを俺は心から信じる事が出来ていなかった。
ツッキーの語る内容はいつも、ぱっと聞いただけでは理解できない事が多い。
でも今回は彼女が言っている意味が少し分かった気がする。
『苦しみは自分で生み出している物で、自分の心と向き合う事でしか解決しない。』
俺は自分の心が傷付いた事ばかりにフォーカスして、ツッキーを責める事しかしていなかった。
そして辛いからツッキーとの恋愛から逃げ出そうとしていた。
何故ツッキーがそう思うのか聞く前に、自分の感情を前面に出して心が怒りで覆われて何も見えなくなっていた。
ツッキーが自分を裏切るんじゃないか?
ツッキーは俺以外の男に興味が有るんじゃないか?
思えば自分が若かりし頃に実際に体験した事を無意識の内に、ツッキーに当て嵌めていた。
自ら幻影を作り出して勝手に一人で苦しんでいたのだと思う。
自分の心に自分が苦しめられていた。
大切なことを沢山教えてくれて、心から愛してくれるツッキー。
一見、捉え方によっては尻軽に見えてしまいそうなその行動の全てに、俺と言う存在が有った。
これで愛想を尽かされても文句は言えないと思った。
俺が未熟だった。
それでも寄り添ってくれる彼女がとても愛おしくもあり、誇らしくも思った。
もっと君のそばに居たいと思った。
そして次また『男の人を泊めても良い?』と聞かれたら俺は『うん、駄目だよ♡』と優しく断ろうと思うw
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