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別荘というコミュニティ|SANU 2nd HomeとNOT A HOTEL

夏休みは避暑地にある別荘で、なんて時代が本当にあったのかが疑わしいほどに、別荘という言葉は遠い存在です。それがシェアリングサービスという形で少しずつ身近になれば、コミュニティとしての魅力に気付かされると思うのです。

 SANU 2nd Homeで迎える朝。管理棟の近くまでゴミを出しに行くと、すれ違う方々から自然と声を掛けられる。「おはようございます、清々しいですね」。それは大きなホテルでは生まれようのないコミュニケーション。かと言って都心のマンションほど形式的でもなく、ここには会員制のコミュニティに特有な程よい心地よさがある。おそらく、同じような価値観を持つ方々によって醸し出される安心感によるものだろう。例えばキャビンの前に停められている車には「わナンバー」が目立つ。自分の車を持たずに、使いたい時だけ借りるというライフスタイルを支持するのは、交通の便の良い都市に暮らしながらも、資産価値ではなく、体験価値を大切にする新しい層なのかもしれない。SANU 2nd Homeは別荘をシェアするサブスクリプションサービスなのだ。

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 明治の頃に日本に持ち込まれた西洋式の別荘は、戦後の高度成長期に庶民の憧れとなり、バブル経済期にはブームを巻き起こした。放っておいてもモノの価値が上がっていく時代に、誰もがモノを持ちたいと思ったのは当然だろう。それこそが資本主義だ。しかし実際に別荘が使われる頻度はどれぐらいだったのだろうか。週末はせいぜい月に2回、ゴールデンウィークやお盆休み、年末年始を入れても年間40日は上回らなかっただろう。1年365日、たった1割の利用日を支えるためにも、建物や周囲の維持管理は欠かせない。それをお金で解決することがこれまでの贅沢だったのかも知れないけれど、地球資源が有限だと気付いた私たちはそんな無駄を許したくはない。最近、別荘なんて言葉をめっきり聞かなくなったのは、バブルの崩壊だけが理由でもないのかもしれない。

 風向きを変えたのは新型コロナウイルスだ。リモートワークが進み、企業の制度が整えば、週に何日かはオフィスに行かずとも働くことができる。だとしたら、自然に囲まれた別荘で仕事をしたいと思うも人も多いだろう。それはもはやもう一つの家、セカンドホーム。それでも使わない日を勿体ないと思うから、他の人と共有できた方が良い。メンテナンスを気にする必要のないサブスクリプションサービスの登場は必然だったのだ。都会と郊外の二拠点生活は別荘の本来的な在り方として、昭和の時代から私たちが思い描いていた理想をようやく叶えようとしているのかもしれない。しかしここにコミュニティ性が生まれることを、サービス提供者はどこまで予測できただろうか。SANUは先日、初めて会員イベントを開催したという。

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 バブル経済期に別荘と並んで富裕層にブームを巻き起こしたのがゴルフ会員権だった。ゴルフコースを安価に、優先的に回ることのできる会員権は主に預託金方式を取ることから資産価値を持つ。土地の価格とともに価値が上がると見込まれていたから皆が欲しがったのだ。そして有名なコースともなれば、その会員であることは一種のステータスとなっていた。会員だけが参加できる大会がある。コミュニティへの参加権をお金で買うという発想が強かったのだ。そう思うと、場を通じて、同じ価値観を有する人々の集まりが自発的にコミュニティを形成しようとする流れは、昔も今も大きく変わらないのかもしれない。そこがどれだけ心地よいのかは、価値観次第ということだろう。SANU 2nd Homeの新規加入には2,000人もの待ち行列ができている。

 SANUの今の人気を考えれば、月額5.5万円のサービス利用料は今後値上げられてもおかしくない。それはおそらく一律に、例えこの人気の背景に現会員のコミュニティ的な貢献があったとしても、これが還元されることはないだろう。会員はあくまで利用者であって、出資者ではないのだから当然なのかもしれないけれど、少し残念に思えてしまう。提供されるサービスや施設だけではなく、利用者の丁寧な使い方、丁寧な暮らし方がSANU 2nd Homeの魅力の一部だとすれば、それを盛り立てていく仕組みがあっても良いだろう。例えば、別荘を販売し、使われない時にはホテルとして運営することでシェアリングサービスを提供するNOT A HOTELは、この8月から一泊単位での宿泊権を販売しはじめた

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 これは単純な宿泊サービスではなく、年に一泊を利用する47年間分の権利となっている。加えて、利用権をセカンダリーマーケットで自由に売買可能にした点が新しい。価格は市場が決める。つまり会員は自らの貢献によって所有する権利の資産価値を高めることができるのだ。もちろん下がってしまうリスクもあるけれど、そうならないように、良いものであり続けようとするコミュニティの力が働く。所有せずに利用するための権利を長く持ち続けることで、使うことの満足度が上がっていく。いや、SANU 2nd HomeやNOT A HOTELのような新しいサービスの会員になる方々は、もしかすると資産という古い考えにはそれほど興味を持たれないのかも知れない。それでも、自分たちの価値観を大切にした結果、これが良いサイクルとして回り続ける仕組みがあれば素敵だと思うのだ。

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