見出し画像

眩しさが辛い時もある

古畑任三郎のような運転手だった。
慇懃な質問が私を追い詰める。
「降りますから」
私は強制的に会話を終わらせた。

母子不在の休日。
ふと図書館の日だと気が付いた。
一冊返さなくちゃいけない。
……ぬう。炎天を歩いていくのか。

一つ閃きが。
最近、タクシーアプリに登録した際、クーポンを頂いた。
……贅沢しちゃおっか。
帰ってまた作業する自分への投資。時間効率。
罪悪感を消せれば決断は早い。

図書館まで少しという所でギョッとなる。
完全に手ぶらで乗っていた。
顔面蒼白……何しに来たんだ?

戻ってください――
言おうとしてプライドが邪魔をする。
自分の過失を知られたくない。
絞り出した言葉は「ここで降ろしてください」

運転手はちらと目的地を確認し、
「図書館じゃなくていいんですか?」
「本を忘れられたとか?」
「そういう方よくいらっしゃるんですよ」
「引き返しましょうか?」

降車し、歩いて家に引き返す。
お天道様が戒めのように私を照らしていた。


目的地失い歩く夏日影

(もくてきちうしないあるくなつひかげ)

季語(三夏): 夏の日、夏日、夏日影

※「日影」はいわゆる影ではなく、陽光そのものを言う。

※延滞してごめんなさい。今日返しに行きます――

この記事が参加している募集

休日のすごし方

人生を変えた一冊

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?