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母が、なく。

「全く泣けないのよ、一つも」
先月帰省した時に母が言った。
夫に先立たれ一人暮らしとなった母。
寂しいですか? 妻が問いかけた際に発した言葉。

電話してみよう。
昼間、母に頼まれた書類を郵送した帰り道。
いつもは四歳息子がいるときだけだけど、たまには。

……出ない。
買い物にでも出てるのか。
帰宅して再びかけるも不在。
「書類送りました」のメールのみ送信した。
一時間後、母から電話。

「ごめんね、太極拳行ってたのよ。汗びっしょり。どした?」

明るさ100%の声に「心配したよ」も飲み込んだ。
話は来月行う七五三撮影会の話題へ。
未来の話に笑い声も絶えない。

――安心したよ。
切り際に一言添える。母は間髪入れず、
「今から仲間と麻雀なの。半年ぶり」と電話を切った。

父さん――心配いりません。
母は今を楽しんでいます。
涙の代わりに汗を。
泣くのでなく……鳴いています。


逝く秋

母の鳴くポンチーカンに逝く秋ぞ

(ははのなくぽんちーかんにゆくあきぞ)

季語(晩秋): 行く秋、逝く秋、秋行く


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