「0」から「1」を積み重ね
よいしょっ、よいしょ。
呼吸を整え一歩一歩。
我が住む町は昔、城があったとかでとかく坂が多い。
「無理しないで。休憩する?」
背後から妻の声。
そうだね。ここを登り切ってから。
――車椅子を外れ二年。
絶望だった坂も今や、日常の道になろうとしている。
横では余裕の四歳息子がジャンプ&ダッシュを繰り返す。
腰に重いものを巻き付けて。
今朝、念願の「仮面ライダーベルト」が届いた。
この二カ月、欲しいものを我慢し貯金してきた成果。
初めて自分のお金で買ったおもちゃ。
「ゼロワン、それが俺の名だ!」
ずっと変身している。
積み上げてきた分、喜びもひとしおなんだろう。分かるよ。
「パパもつけてみる? 体がはやくなるよ」
気持ちだけ。ありがとう。
小高い丘の中腹。
ごくり一口。麦茶がうまい。
見上げた空が真っ青で、報われた気分になる。
~フライ・トゥ・ザ・スカイ!
ベルトの機械音がことさら響き渡った。
登り来て麦茶いつぷく秋の空
(のぼりきてむぎちゃいっぷくあきのそら)
季語(三秋): 秋の空、秋空、秋天、旻天(びんてん)
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