同じ月を見れなくて
――お月見しようよ。
「昨日見たでしょ」
五歳息子からの拒否。
いつかそんな日が来ると危惧してわずか二日。
十四夜(待宵)、十五夜、十六夜とそれそれ違う趣を味わって欲しかったんだけどな ←
何するの? と問えば、まっさらなノートを出して「勉強」と答える。
――俳句なら実物を見ないと。「違うよ」
アイロンの妻には微笑で断られ、一人ベランダへ。
少し欠けた望月はひっそりと浮かんでいた。
昨日より白く見えるのはなぜ? より冷たく感じるのは誰のせい?
やがて黒い雲が現れ、月を消しにかかる。
ああ駄目。かの人が見に来てくれるかもしれないでしょう。
平安時代女子の気分で二十分。
結局、誰も来ないので部屋に戻る。
息子のノートは既に真っ黒く埋め尽くされていた。
算数の計算式。下の方には「13+1=14」と二桁の足し算も。
思わず声高に問うた。
――なら、15+1は?
「うーん、それはまだ勉強してない」
16でしょうがっ。
十六夜や一面に足し算の式
(いざよいやいちめんにたしざんのしき)
季語(仲秋): 十六夜、十六夜の月、既望(きぼう)
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